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転生(3)

 ――ガチャッ、ギイイイィィィ…


 我々が、肉体の外へと意識を向けると同時、部屋の扉が開かれる。


「エアリオ!□□□□」

「□□□、□□□□。エアリオ□□□□□□□□?」


 そしてそこから、2人の人物が部屋の中へと入ってきた。


 内1人は、白人系と思しき金髪の大人の女性。


 こうして自我を保てるように成る以前から、彼女の事は朧気ながらに覚えている。


 彼女が側に居ると言うだけで、何故か不思議と安心感にも似た気持ちが、奥底の方からわき上がってくる。


〈ナーディヤ〉まだ実感が湧かないけど、あの人が私達のお母さんなのよね…〉

〈アースィム〉なんだか皮肉だね。白人連中と殺し合ってた俺達が、白人の子供として生まれ変わったんだから〉


〈本当にそうならな。しかしアースィムよ、白人ってのはあんなに耳が尖っていたか?〉


〈アースィム〉やっぱり気になるよね?〉


〈そりゃそうだろう。まるでロバだぞ?〉


〈ナーディヤ〉海外にそんな童話があったわね〉


〈だとしたら、ここは童話の舞台となった国か何かか?冗談きついぜ…〉


〈アースィム〉我々の置かれてるこの状況からして、既に冗談の範疇超えてるけどね〉


「□□?エアリオ□□□□」


 等と意見を交わし合っていると、女性と一緒に入ってきたもうひとりの人物が、我々が寝かされているベッドにトトトッと駆け寄ってくる。


 年の頃、4~5歳と言った所だろうか。


 幼児特有のあどけなさの為解りにくいが、恐らくは男の子。


 やはり白人系だが、髪の色は女性と違い赤黒い。


 そして肝心の耳だが、こちらもやはり尖っているが、女性程長くは無いようだ。


 外見的な差異はあれど、この子も女性の子供で間違いなかろう。


 であれば、必然的に我々の兄に当たる訳か。


〈ナーディヤ〉本当に男の子ならね。この位の子って、本当に判別付かなかったりするから〉

〈アースィム〉流石ナーディヤ、よく心得てらっしゃる〉

〈ナーディヤ〉そりゃそうよ。今まで私が、何人の子の面倒見てきたと思ってるの?〉


〈あぁ、ちゃんと解ってるさ。ナーディヤにはいつも感謝してたよ〉


〈アースィム〉だね。って…


「□□?□□□」

「□□□、□□□□□□…」


 不意に、目の前の少年が怪訝そうな表情を浮かべたかと思うと、女性へと向き直り何事かを伝える。


 それを受け、心配そうな表情を浮かべ、我々の顔を覗き込む女性。


〈…言葉が理解出来ないというのは、やはり不便だな〉


〈ナーディヤ〉そうね。我々の名前が『エアリオ』だって言う事は、なんとか理解出来たけど…〉

〈アースィム〉ペルシア語じゃないしラテンっぽくも無い。発音は英語に近いけど…〉


〈理解出来ない事を、今考える必要は無いよ。それに、仮に理解出来たとしても、この状態で喋れたら、それはそれで大事になるだろう〉


〈アースィム〉それは、まぁ…確かに〉


〈言語に関しては、自然と身につくのを待てば良いさ。それよりも、今は目の前の問題に対処しよう。2人は何に対し不安がっていると思う?〉


〈アースィム〉不安…と言うよりかは、心配してるように見えるけど〉


〈心配か…〉


〈ナーディヤ〉あれじゃない?2人が我々の様子を見に来てくれたのに、話し掛けてもうんともすんとも反応しないからじゃないかしら〉

〈アースィム〉…あっ!〉


〈それだ。スウード、お前に身体を任せたろう?〉


〈スウード〉え、あっ!と…ご、ごめんにいちゃん!にいちゃんたちのやりとりにしゅうちゅうしちゃって…〉

〈アースィム〉そうか。集中しちゃったか〉

〈スウード〉ご、ごめんなさい…〉

〈ナーディヤ〉謝らなくても平気よ、スウード。急に大役任されたから、緊張しちゃったのね〉

〈スウード〉うぅ…〉


〈まぁ、過ぎた事を責めても仕方ないさ。それよりもスウード、今からでもやれるな?〉


〈スウード〉う、うん。やる、けど…どうすればいいの?にいちゃん〉


〈なに、難しく考える必要は無いさ。お前が生前、ナーディヤに振る舞ってた通りにすればいい〉


〈スウード〉ねえちゃんに?えと…どんなふうにかな〉

〈アースィム〉そうだな…例えば、構って欲しくて癇癪起こしたり?〉

〈スウード〉えっ…〉

〈ナーディヤ〉それから、私に抱っこされたくて、べそかいて両手を広げてみたり〉

〈スウード〉えぇっ!?


〈あと、眠たいのに1人で眠るのが嫌で、仕事してるナーディヤの足にしがみついたりとかか〉


〈スウード〉えっ!?ちょ、まって!ぼ、ぼくそんなことしてたの!?


〈いや、してたよ。なぁ?〉


〈アースィム〉あぁ、してたね〉

〈ナーディヤ〉してたわよ〉

〈スウード〉えぇ、うそぉ…〉


〈すぐにそうと解る状態で、ばれる嘘を吐いてどうする?だからお前が一番の適任だと言ったんだ〉


〈スウード〉うぅ…〉


「□□□?エアリオ、□□□」


 ふと、呼び掛けられて意識を外へと向ける。


 見ると、我々を覗き込む2人の表情が、不安を通り越し焦りが感じられる。


 このままだと、いつ病院に運ばれてもおかしくなさそうだな…


〈ナーディヤ〉無表情な赤ちゃん程、不安を掻き立てられるものはないわよ?〉


〈確かに。という訳でスウード、なんとかしてくれ〉


〈スウード〉な、なんとかっていわれても…〉


〈それともお前、まだ俺に赤ん坊の真似事をさせる気か?いい加減勘弁して欲しいんだがな〉


〈ナーディヤ〉本音が漏れてるわよイマーム〉

〈アースィム〉チビ達の手前、ちゃんと隠さないと駄目だよイマーム〉


〈体裁とかもう知るか。で、どうなんだスウード?〉


〈スウード〉うぅ――〉


 そうして追い詰め――もとい、諭した結果。


「――ば、ばぶぅ!」

「エアリオ!□□!!□□□□!?」

「□□…□□、□□□□□□□□□エアリオ」


 我々の発したその一声で、見るからにホッと胸をなで下ろした2人。


 余程不安だったのだろう、悪い事をしたな…


「あー!うぅ~…だぁー!!」

「□□□□」

「□□□□!□□□□?」

「□□」


〈ナーディヤ〉いいわよスウード。その調子その調子〉

〈アースィム〉2人も喜んでるみたいだね。よかった〉


〈あぁ、そうだな〉


 その後も我々は、赤ん坊らしく元気よく燥いでみせる。


 若干ヤケクソのようにも感じるが…


 目の前の2人が楽しそうだし、まぁ良いか。


 しかし、まぁ…


 ただの赤ん坊の振りをするだけでもこの騒ぎ。


 こんな状態で、我々は新しい人生を歩んでいけるのだろうか?

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