友人(2)
なんてやり取りを行いつつ、自宅の裏手にある林の中へ。
50メートル程進んだ所で立ち止まり、家から背負ってきた籠をその場へと置く。
「それで、今日は何するのさ?」
直後にそう問われ、一旦リザへと視線を向けた後、周囲の木々に視線を巡らす。
「昨日は野草や山菜を集めたし、今日は木の実でも集めようかなって」
「木の実?それって食べられるやつ?」
「うん。丁度ここに落ちてるんだけど…」
そう言って、地面に転がっている人差し指大程の物体を拾い上げ、彼女に見せる。
「ほらこれ、チークの実」
「知ってる、市場で見た事ある。でも食べた事無いかな」
「リザの父さんも肉食だもんね。栄養価が高くって、滋養に良いんだよ」
「ふ~ん」
まるで気のない返事を他所に、今し方拾い上げたそれを元に戻し手を払う。
「折角拾ったのに捨てちゃうの?」
「うん。地面に落ちちゃってる実は、大抵虫に食べられちゃってるからね。だからチークの実を集める時は、木に成ってる物を収穫するんだ」
「木に成ってる…」
そう呟くと同時、先程の我々の様に周囲の木々へと視線を巡らせるリザ。
彼女の様子を見て、肝心な事に思い至る。
彼女の面倒を見るようになり一月経つが、今までに木登りをしている所を見た事が無い。
「そういえばリザって、木登り出来るんだっけ?」
「なっ!?その位出来るわよ!」
「本当に?その割には不安そうに見えたんだけど」
「うっ…」
そう追求した途端、先程の勢いは何処へやら。
急に意気消沈したかと思えば、言葉に詰まり目を泳がせる。
程なくして…
「…やった事無いけど、きっと出来るわよ。」
自信なさげにそう呟く彼女。
それを見て、我々は思わず苦笑を漏らした。
「な、何笑ってるのよ!」
「いや…ごめんごめん」
「やった事無いけど出来るわよ!!」
「うん、そうだね。けど、やり方を覚えてからの方が安全だしさ、最初は僕に教えさせてよ。リザなら直ぐに覚えると思うし、上達も早いと思うんだ」
「ふ、ふん!よく解ってるじゃ無い。良いわ、そんなに言うなら教わって上げる」
そう言って、チラチラとこちらを伺ってくる彼女。
早く教えろと言わんばかりだ。
全く、気難しいお嬢さんだ――
〈ナーディヤ〉そこが可愛いんじゃない〉
〈アフナーン〉ウフフ、そうね~〉
〈よく解らんが、お前達の機嫌が良さげで何よりだよ。ナスル〉
〈ナスル〉あいよ〉
〈聞いての通りだ。彼女に木登りのコツを教えてやってくれ〉
〈ナスル〉了解だ、イマーム〉
直後、身体の主導権をナスルに委譲する。
生前の頃、木登りや壁登り等が得意だったのは彼だ。
それは今でも変わらず、この身体に当時の技術を落とし込めたのは、ナスルの記憶合っての賜だった。
であれば、彼に任せるのが一番だろう。
〈マリク〉しっかし、随分と生意気なガキだよな。負けん気が強いって言うか、なんて言うか…〉
〈ダラール・シャフィーク・ダウワース・スライム〉お前が言うな〉
〈アフナーン〉小さかった頃のマリク、そっくりよねぇ~〉
〈ザーヒー〉あぁ、やっぱそうなんだ。目に浮かぶようだよ〉
〈カスィーム〉確かに〉
〈マリク〉うるせっ〉
直後に、マリクの不機嫌さが我々全体に広がっていく。
何ともマリクらしい反応だ。
だからこそ、皆もからかいたくて仕方ないんだろう――
そんなやり取りを交えつつ、ナスルにリザを任せて小一時間程が経過。
「――よっ!と。登れた…登れたよ、エアリオ!!」
見事、初登頂を成し遂げたリザが、木の上からこちらを見下ろし、嬉しそうに叫んでくる。
「やったねリザ!流石、飲み込みが早いね!」
「ふっふ~ん、当然でしょ!」
我々の褒め言葉に加え、達成感も相まってか、途端に気を大きくして得意げに胸を張る彼女。
分かり易く調子に乗っているその様子に、一抹の不安を覚える。
「危ないよ!初めてなんだし、ちゃんと手でしっかり身体を支えてね!」
「解ってる!大丈夫よ!!」
心配して声を掛ける我々を他所に、軽い口調でそう答えてくるリザ。
直後に彼女は、こちらへと向けていた視線を一転。
明後日の方角へと視線を向け、表情を更にほころばせた。
「うわぁ~!良い眺め~」
続け様に聞こえてきた、その無邪気な感嘆の声に、思わずため息が漏れる。
やれやれ、こちらの気も知らないで、いい気なものだな――
〈ナーディヤ〉初めてなんだし、仕方ないわよ。もう少し楽しませて上げましょ〉
〈ザーヒー〉けどあれは、見てて危なっかしいよ〉
〈カマル〉ですね。一旦木から下りて貰った方が良いのでは?〉
〈アースィム〉そうすべき何だろうけど、多分無理だろうね〉
〈スライム〉だね。あの手の子は、夢中になってる間はこっちが何言っても聞いてくんないよ?〉
〈確かにな。まぁ、そうと解っていて教えたんだ。我々が常に気を配っておけば良いさ〉
「ねぇエアリオ~!」
ふと、上空から聞こえた呼び声に視線を向ける。
すると、其処から望める眺望に満足したらしいリザが、機嫌良さげに我々の事を見下ろしていた。
〈マリク〉見下ろすってより、見下してんだよ、ありゃ〉
〈シャフィーク〉確かに〉
〈スライム〉間違いないね~〉
〈ダラール〉ちょっとあんた達!子供相手に嫌味になんないでよ、みっともない〉
〈同感だな。ってか、いい加減少し黙ってくれ。主観に集中出来ない〉
そう思考した直後、俺の周りに集まってきていた連中が、各々のマジュムーアへと戻っていく。
やれやれ…これで暫くは、静かに静観出来そうだな――




