目的(2)
〈アースィム〉今のやり取り、変に思われなかったかな?〉
〈マリク〉気にしすぎだろアースィム。心配性だな〉
〈アフナーン〉そうよ~そんなに気にしなくても、大丈夫だと思うわよ~ねぇ、イマーム?〉
〈あぁ。子供が突拍子もない言動を取るなんて、よくある事だろう〉
〈ダラール〉そうそう。にしても、シフィーはなんて言おうとしたんだい?〉
〈アフナーン〉それはきっと、『何時もお手伝いしてた』だと思うわ~〉
〈ダラール〉あぁ、成る程ね…そういやあの子は、誰よりも率先して手伝いしていたっけね〉
〈アースィム〉だね。けど良く気が付けたよ、流石はナーディヤだ〉
〈アフナーン〉あら、私も気が付いていたわよ~アースィム〉
〈ダラール〉あんたの場合、気が付いてても、ノロいから止められなかったっしょ〉
〈アフナーン〉えぇ~!?ひど~い!〉
〈おいおい…こんな形に成ってまで、アフナーンを苛めてやるなよダラール〉
〈ダラール〉別に、苛めてないわよイマーム。あたしは事実を言っただけ。こんな形になったからこそ、本音が隠せないのよ〉
〈マリク〉お前は相変わらず、あぁ言えばこう言うのな〉
〈ザーヒー〉だよね。都合良く言い訳に使ってるけど、その性格は生前からだろうに〉
〈ダラール〉なによ、あんたら?喧嘩売ってんの〉
〈おいおい…なんで喧嘩腰になるんだよ〉
〈アースィム〉やめろお前等!チビ達が怖がるだろ〉
〈アフナーン〉そうよ~仲良くしましょうよ~〉
直後、3人の意識は沈黙する。
〈アースィム〉ったく…けど、よく咄嗟に止められたよね。俺もシフィーがなんて言おうとしたのか、気付けはしたけど…多分止められなかった〉
〈それはまぁ、仕方のない事だろうよ。あの一瞬、我々のほぼ全員が、同じ事を思っていたんだからな。前世の記憶に引っ張られても仕方のない話しさ〉
〈アフナーン〉そうね~懐かしいわ~〉
〈アースィム〉逆に、当人だから止められたって訳か…イマームは、其処まで見越してナーディヤにチビ達の事任せたのかい?〉
〈まさか。そんな訳無いだろう?ナーディヤが一番面倒見が良いからに、決まってるだろう〉
〈アースィム〉まぁ、それは間違いないけどさ〉
〈アフナーン〉それにしても…我々のお母さんって、優しい人ね~お料理の邪魔でしかないでしょうに〉
〈まぁ、それはそうだろうが…母親とは、そういう者なんじゃないのか?俺は記憶に無いから知らんが〉
〈アースィム〉どうだろう?俺も両親の記憶なんて無いから解らないね〉
〈アフナーン〉ん~…私も、物心付いた頃には、もうイマーム達と一緒だったから…〉
〈マリク達はどうだ?〉
〈マリク〉気が付いたらスラムに居たから知らん〉
〈ダラール〉あたしも〉
〈ザーヒー〉俺は10歳までは両親と一緒だったから、そりゃ覚えてるけど。ん~…改めて思い返すと、勉強しろってずっと言われてた気がするな〉
〈そうか…〉
〈アースィム〉何か思うところがあるのかい?〉
〈うん?あぁ、まぁ…こんな形になってからずっと、思うところだらけだよ〉
〈アースィム〉そっか。考えが纏まったら教えてくれよ〉
〈あぁ。近い内に、必ずな――〉
………
……
…
――数時間後
「きょうねぼく、ママのおてつだいしたんだよ!!」
「そうそう。帰ったら、母さんがエアリオを抱っこして、一緒に夕飯の支度してるって言うんだもん。僕びっくりしちゃったよ」
「ハッハッハッ!そうかそうか!エアリオは偉いなぁ」
「えへへっ!ぼく、あしたもおてつだいするねママ!!」
「ウフフ、期待しているわねエアリオ」
「うん!」
夕飯時、家族4人で囲む食卓。
我々が居て、その隣には母が座る。
その母の向かい、快活に笑う大柄な人物こそ我々の父、マーキス・ハン。
ハーフビーストというのは先にも伝えたが、種族としては赤狼族という獣人らしい。
人と変わらない顔立ちをしているが、耳は獣のソレが顔の横からでは無く、頭上から生えている。
ざんばらに伸びた赤黒い髪、力強く太い眉、獣のそれに近い野性味溢れた瞳がとても印象的だ。
次いで、我々と向かい合う形で座っているのが、兄のキュリアス・マーキス。
母譲りの白い肌と父譲りの赤黒い髪。
まだまだあどけなさの残る顔立ちは、目鼻立ちと輪郭は母譲りで、口元は父そっくり。
更に、両親の影響が特に色濃く出ているのがその耳で、顔の両端から突き出た長く尖った耳は、先端が赤黒い毛で覆われている。
我々も、このまま育てば兄の様な容姿になるのだろうか…
〈ナーディヤ〉だと良いんだけど〉
〈なんだ。父の様な容姿の男は嫌いか?〉
〈ナーディヤ〉別に嫌いとかじゃ無くて。身体は男でも、私達の心は女のままだもの。ねぇシフィー、サイーダ〉
〈シフィー〉えっ、と…はい〉
〈サイーダ〉私も。キュリアスのお兄さんが、そのまま大きくなってくれた姿ならなって思う〉
〈ヌール〉そう?僕はお父さん、格好いいと思うけど…〉
〈思っても、それは表に出してやるな、ヌール。この問題は、俺達男衆にゃ理解してやる事が出来ないんだから〉
〈ヌール〉そ、そっか…ごめん姉ちゃん達〉
〈ナーディヤ〉謝られても困るわ、ヌール…それよりもほら、役割に集中なさい〉
〈シフィー・サイーダ・ヌール〉はーい――〉
「それで?エアリオは何をしたんだい?」
「あのね、えっとね!おやさいをね、ママといっしょにあらったんだよ!!」
「おぉそうか!野菜を洗ったのか!」
「うん!おとーさんのおさらにあるやさいは、ぜ~んぶぼくがあらったんだよ!?」
「おぉ成る程!だから父さんの皿に、苦手な野菜が沢山のっているんだな!?」
「えぇそうよ。まさか、残さないわよねマーキス?」
「あぁ勿論!この程度、ひと飲みにしてやるさ!!」
「ちゃんと噛んで食べなさい!もう…キュリアスも、ちゃんと残さず食べるのよ?」
「解ってるよ。折角エアリオが頑張ったんだもんね」
「えへへ~」
テーブルに並べられた様々な料理。
色とりどりの野菜をふんだんに使った料理は、どれも家族の健康を願って造られた物ばかり。
〈ヌール〉どれもこれも美味しくって、なんだか胸が温かくなってくるよ〉
〈ナーディヤ〉そうね。きっと、造ってくれた人の思いが、そうさせるのね〉
〈サイーダ〉それもあるかもだけど…でもきっと、それだけじゃ無いと思う。ね、シフィー〉
〈シフィー〉うん。前に生きてた時は、何時もお腹がすいてて、こんな豪華なお料理なんて見た事も無かったけど…今みたいに温かかったもんね〉
〈ヌーン〉あぁ、うん。確かに〉




