8才の誕生日パーティー
マリーにいつものように起こして貰い、湯浴みをする。
パーティーはお昼前からなので、それまでに身支度を整える。
屋敷の中も忙しない。
去年の誕生日まではこんなにバタバタしなかったのに。
それというのも、私が第一王子の婚約者に選ばれてしまったから。
殿下の訪問は月に2日程だけど、学友である兄と婚約者の私と3人でゆっくり過ごしたいという殿下のご意向で堅苦しいことはしなくても良いということだったので(それでも粗相のないように細心の注意はしているけど)今日程の緊張感は漂っていない。
今日は殿下の弟である第二王子もいらっしゃる。
王族が2人も来るということで、お父様もお母様もいつも以上に気合いが入っている。
第一王子がいらっしゃったのでお出迎えして感謝を伝える。
素敵なバラの花束をいただいた。
第二王子は所用で後からの参加になる為、先に始めるようにとのことだった。
8才になった私が挨拶をして、皆さんから祝辞とプレゼントをいただく。
立食形式なので、来賓もそれぞれに話の花を咲かせている。
主役の私はというと、お母様の後ろにいたりお兄様の側にいたりと1人でお客様と接することのないようにしていた。
執事が第二王子の到着を知らせる。
お兄様と、第一王子殿下と玄関に向かう。
第二王子を一目見た瞬間、雷に撃たれたように恐怖が襲った。
顔面蒼白になって震える私。
第二王子も私を見て何か感じたらしい。
「大魔導師?」
とっても小さな声だったけど、私にははっきりと聞こえた。
その瞬間に気を失ってしまった。
あの後パーティーは大変だったらしい。
主役の私が倒れたから、お医者様を呼んだり来賓の方々に失礼のないようにお開きにしたりと。
あれは確かに勇者だった。
私を裏切った仲間の。
私1人を犠牲にして姫と結婚して国王の後を継いだのではなかったのか?
怖い、怖い、怖い。
簡単に殺されるような私ではないけれど、相手は王子。
どんな手を使われるか分からない。
家族やマリーをダシにされたら…。
そんな途方もない不安が一気に押し寄せてきて、数日に渡る高熱を出した。
その間に第一王子殿下が何度かお見舞いに来てくださった。
熱が下がって、ベッドに座っている私に殿下は話した。
熱でうなされる私を見て、第二王子と私には何かあるのではと思った殿下が第二王子を問い詰めた。
私が前世、大魔導師であったこと。第二王子が勇者で共に魔王を倒したこと。そして、魔王討伐後に国王の命令で大魔導師の首を刎ねたこと。
私が隠していたことを第二王子(元勇者)は第一王子に話してしまった。
また私はこの世界でも恐れられて、いつ裏切られるか分からない中を生きなければならないの?
私が絶望で押し潰されている中、殿下は続ける。
私が勇者によって断頭された後、それぞれ地位が約束されていたメンバー達も兵士に囲まれ、処刑されたということだった。
なんで?
怖いのは私だけでしょ?
顔に出ていたのか殿下はさらに続ける。
国王ははじめから姫と結婚させるつもりも、そのような地位を与えるつもりもなかったらしい。
膨大な魔力をもつ大魔導師も脅威ではあったが、同じく討伐に当たっていた勇者、賢者、バトルマスターも脅威の存在として恐れ、自分の地位を揺るがす事を畏れて魔王討伐後に処刑すると決めていたらしい。
まず一番の脅威である大魔導師の魔力を封じて勇者に殺させる。
それからは国の魔導師に捕縛の魔法をかけさせ、同じく首を刎ねて処刑された。
「これが本当の話なら、その国は滅びるべきだな。」
殿下が震える私の手を握りしめた。
「フランシス殿下は私のことが怖くないのですか?」
恐る恐る訊ねる。
「怖い訳がない。確かに、自分にはない力を持っている者に恐怖を感じる者はいると思う。しかし、それはその者を知ろうとせずに一方的に畏れて悪と決め付けているに過ぎない。私はミレーユ嬢と出会ってまだ半年程ではあるが、いつも何かに怯え、人と深く関わろうとしない小さな少女の支えになりたいと思っている。ミレーユはミレーユじゃないか。」
フランシス殿下の言葉を聞いて号泣してしまった。
兄と仲違いしたあの時以来の号泣…。
殿下はそっと優しく抱き締めてくれて、落ち着くまで背中を撫でてくれた。
全部を話すことは出来ないけど、兄と殿下には話すことにした。
前世では大魔導師であったこと。
生まれた時から膨大な魔力を持っていて、両親にすら恐れられて5才まで薄暗い小屋で育ったこと。
その後、師匠に拾われて魔法の使い方を覚えて魔王討伐のメンバーになったこと。
魔王を倒す旅の中で精霊王の加護を受けたこと。
それは今世とは違い唯一の精霊魔法の使い手になってしまったということ。
魔王を倒したことにより、魔王に匹敵するような魔力を手にしていたこと。
どこか誰も知らない遠いところで自由に暮らすことを夢見て辛い日々を乗り越えていたこと。
やっと自由になれると思った時に、魔力を封じられて仲間だった勇者に断頭されたこと。
今世でも生まれた時から前世の記憶があり、魔力や魔法などといった能力がそのまま残っていること。
ずっと私の周りには精霊がいること。
魔力を抑える腕輪をつけていることを話した。
兄は自分より年下の妹が自分より色々と出来たことに納得がいったようだった。
殿下もよく話してくれたと私の頭を撫でてくださった。
「お二人は私のことが怖くないのですか?」
また同じ質問をしてしまう。
「ミレーユは僕の大切な妹だよ。」
「私の可愛い婚約者だ。」
頬を涙が伝う。
本来の私ってこんなに涙脆かったのだろうか…。
「このことはこの3人の中に止めておこう。ミレーユが大丈夫になれば第二王子ともいずれ話さねばならないが、急ぐことはない。」
本のことも話した方が良かっただろうか…。
でも、少しずつストーリーに違いが出ているから似ているだけなのかもしれない。
まだ話すには早い気がした。
ギルドやルームのことは伏せてある。
この先何があるか分からないから、奥の手は明かしたくない。
私が学校に通うことになれば第二王子とも接する機会が増える。
逃げる訳にはいかない。
フランシス殿下と兄立ち会いの元、話し合いの場が設けられることになった。




