ギルドに登録してみた。
学校に上がると寮での生活になる。
資金を集めるには私が学校に上がる10才までの3年間が正念場だ。
学校に行ってしまえば休日しか自由に動くことは出来ない。
幸い、チートと前世の記憶のおかげで勉強はある程度終えている。
週に1度来る教師に課題を提出して、新しい課題を貰うだけだ。
それ以外にもダンスやマナーのレッスンがあるが、同じ日にしてもらっているので残りの日は割りと自由に過ごさせてもらっている。
月に2度程殿下がいらっしゃるので、その日を空けておけば大丈夫。
3才になった頃から前世の記憶を元にこっそり魔法を使っている。
勇者に付けられた魔法封じの手錠を参考に魔力を抑える腕輪を作った。
堂々と作業など出来ないから、一人で図書室でゆっくりしたいからとマリーに人払いをさせて
異次元空間に作り出した作業スペースに転移する。
図書室で声がかかったときに気付けなかったらマズイので、ドアがノックされたら分かるように呼び鈴のような機能もつけた。
というより、精霊に図書室のドアを見張って貰って私に伝えて貰うという簡単な方法。
生まれた時から私の周りには精霊がいた。
前世の精霊王の加護のおかげだろう。
私が生まれたら精霊達は涙を流して喜んでくれた。
精霊達の言葉は分からないけれど、気持ちや感情は伝わってくる。
前世で私の命が失われたことを嘆いてくれているようだった。
精霊達は私の身に危険が迫った時に教えてくれる。
この子達のおかげで、怪我知らずである。
この世界で精霊魔法の使い手は複数人いるらしい。
前世のように私だけではないことに安堵する。
それでも公爵令嬢のミレーユとしては周りには基本的な魔法を使える程度に思われたい。
精霊魔法を使える者には、私の周りに精霊がいることがバレてしまうので、あくまでも精霊魔法も基本だけ。
そのスタンスを取り続けている。
出過ぎた杭は怖すぎるもの。
その日もマリーに人払いをしてもらい異次元空間の作業スペースにやってきた。
異次元空間の作業スペースって長いから、ルームって呼ぶことにした。
ルームには作業出来る机と椅子が1つずつと、3才から作り続けた様々なアイテムが置いてある。
その中の1つに姿を変えるアンクレットがある。
7才のミレーユが行くことの出来ない場所にはこれで姿を変えて行く。
アンクレットを着けると16才程の少年になった。
この国の成人が15才なので、立派な大人である。
少年になった時のミレーユの名前はユーリ。
魔法使いとしてギルドに登録することにする。
ユーリが転移魔法でギルドに到着すると受け付けに向かう。
そこで魔力の測定をして、ライセンスを発行してもらう。
ここでも魔力を抑える腕輪をしているので、平均的な値が示される。
まずはDランク。
ギルドでの依頼をこなして、それに合わせて報酬を受けとる。
ただの魔法使いであるユーリはパーティーを組むように勧められたが、前世での裏切りが尾を引いて1人で行くと断言した。
平均的な魔力の魔法使い1人で何が出来るのかと周りには言われたが、気にせず依頼に取り掛かることにした。
きっとすぐにやっぱりパーティーを組みたいと言ってくるだろうと馬鹿にしていたギルドの人々は1人で短時間で依頼をこなしてきたユーリに驚いた。
短期間で着々とランクを上げる。
半年程経った今はBランク。
それでもやり過ぎないようにはセーブする。
ミレーユが自由に出来る時間は長くはない。
食事の時間になれば声がかかるし、家族に呼ばれることもある。
そんな時は精霊が教えてくれるが、依頼の途中でも中断して戻らなければならない。
転移魔法で一瞬でルームに戻り、アンクレットを外し、浄化魔法で体の汚れをとる。
疲労していたら回復魔法も使う。
そのため、パーティーを組むわけにはいかないのだ。
他人が怖いからという理由もあるが…。
依頼の途中で精霊に呼ばれ、異次元に作った保存空間に獲物をしまって、急いでルームに転移して身支度を整える。
何食わぬ顔で図書室を出る私。
食事を済ませたら自室でゆっくりするからとまた人払いを頼む。
すぐにルーム行って、依頼に戻る。
今回は猪のような魔獣を20匹退治してギルドに持ち帰るという依頼だ。
あと3匹というところで呼び出しがかかったからすぐに済むだろう。
ギルドに持っていく時に異次元の保存空間(長いのでボックスと呼ぶ)から出すのは憚られるので、少し離れたところで大きな台車をボックスから出し、魔獣を積み上げる。
軽量化の魔法は浸透しているので堂々と運んでも何も不思議ではない。
台車も小型化魔法で持ち運ぶのが一般的だ。
ボクの場合は(ユーリの時は一人称をボクとしている)ボックスから出しているんだけどね。
ギルドの報酬や、装備品などはルームやボックスにしまっている。3年あれば独り立ちの初期費用は勿論数年は何もしなくても暮らせるだけのお金が貯まるだろう。
穏便に婚約破棄をされて独り立ちしたら遠い異国でハンターにでもなればいい。
そのためにもこの世界での出過ぎではない強さの程度を見極める必要がある。
精霊魔法の使い手にはまだ出会ったことがないが、精霊魔法を使うものは皆強い魔力を持っているらしかった。
最近知ったことなので、ミレーユの時にも気を付けねばならない。
ギルドで測定した平均的な魔力では精霊魔法の使い手としては不十分らしく、ギルドに行く時は魔力を抑える腕輪の出力を変えることにした。
いきなりだと驚かれるから、徐々に。
依頼をこなした後に毎回魔力測定をするのだが、そこで少しずつ上がっていくように調整した。
ランクが上がる時に魔力も発表される。
平均とはかけ離れてしまったが、これでも全力の半分。
精霊魔法の使い手としては十分だろう。
ミレーユの時にはこれより少なく、精霊魔法使いとしてはギリギリの魔力になるように腕輪の出力を調整する。
いちいち面倒ではあるが、仕方ない。
ギルドに猪魔獣を積み上げた台車を持ち込む。
建物の中に入れることは出来ないので、測定の係りを呼び数えてもらう。傷の度合いによって報酬が変わるのでしっかり査定してもらう。
ボクは雷の魔法で動きを封じてから、大きな水の玉を作って閉じ込めて窒息させるというエグい方法を取っているので、魔獣の外傷はほぼない。
勿論窒息させた後には風魔法で水気を飛ばしているし、査定額は最高額。
猪魔獣20体の依頼はBランクの仕事で適性人数4人以上の依頼であった。それでも数日かかる。
それを1人でこなしたユーリはギルドにとって異色の存在である。
こんなポッと出のルーキーが目をつけられない訳がなく、度々絡まれ決闘を申し込まれる。
しかし、対人用の魔法で(魔獣のようにしてしまうと殺してしまうので)動きを封じて風魔法を応用した俊足で一気に間合いを詰める。
体術や剣術には特化していないが、氷で作った刃を相手の喉元に当てれば勝利である。
チートでごめんって思うけど、幸せになる為には仕方ない。
こうやって段々とギルドでも認められて、パーティーを組まないか声をかけられることも増えた。
幸いなことにこの世界での魔法は様々で、使い手によってアレンジが可能なのでボクの魔法を得体の知れない物と恐れる者がいない。
これはありがたい。
ただ、無詠唱での魔法は珍しいらしかった。
それでも、珍しがられたり、尊敬の目で見られることはあるが、畏怖や脅威の目を向けられることはない。
それだけでどこか前世の自分が救われたような気持ちになる。
それでも人を信じるのは怖いが。
この日も軽めの依頼をこなしてギルドに戻ると
明日の依頼を頼まれる。
しかし、明日は殿下の来る日。
ギルドに来ることは出来ない。
ましてや明日はミレーユの8才の誕生日である。
屋敷で行われる誕生日パーティーには婚約者である殿下もいらっしゃる。
私と同じ歳の第二王子も初めて我が家に来られるのだという。
第二王子…。
本には登場していなかった存在。
過った不安な気持ちで明日の誕生日パーティーが心配で仕様がない。
無事に誕生日パーティーを終えられますように。




