7才の兄と5才の私
5才 ミレーユ=シルベーヌ 白銀の髪に紫の瞳 美少女
7才 ハンス=シルベーヌ 金髪碧眼 美少年
シルベーヌ公爵の長男長女
父親 金髪に紫の瞳の美丈夫 現シルベーヌ公爵家当主
母親 白銀の髪に碧い瞳の美女
ミレーユ付きのメイド マリー15才
10ヶ月の時に初めて喋った言葉が「おかあしゃま」で、二言目が「おとうしゃま」この時の両親の驚いた顔にやってしまったと悟ったがもう遅い。
だって赤ちゃんって最初何を喋るの?
まだ歯が2本しか生えてないし、おそらく幼児特有である舌っ足らずではあるけれど普通ではなかったようだ…。
しかし両親は驚いた様子だが怖がることはなく二人で優しく抱き締めてくれた。
「あなた!この子は天才よ!」
「神童に違いない。まだ早いと思っていたがこの子の才能を伸ばすような教師をつけよう。」
えっ?早くない?まだつかまり立ちした位ですぐ疲れて眠るような赤ちゃんだよ?
1才になると2歳上の兄と一緒に語学と歴史を習うことになった。
兄はそれに剣術や体術も習っているらしい。
午後のお昼寝は兄と一緒。
まだ1才のこの体ではすぐ疲れて眠くなってしまうらしく、私は午前中にもお昼寝を必要としていた。
魔法を使えば疲労回復など訳もないのだが、目指す平凡ライフの為にバレてはいけない。
勘付かれない程度に先程習った語学を睡眠学習の魔法で寝ながら復習する。
前世とは似た世界ではあるが、言葉が違っていたのでそこは新たに学ぶ必要がある。
5才になるころには大人が使うような言葉も覚えていた。
誉めて貰えるから嬉しくて、出る杭は打たれるということが頭から抜けていた。
7才になった2才上の兄に最近避けられている気がする。
「お兄様!ご一緒にお茶でもいかがですか?」
勉強の合間に昼寝は必要なくなっていたので、適度にお茶休憩を挟んでいる。
「休んでいる時間が勿体ないから結構だ。」
スタスタと目の前を過ぎようとしたお兄様の腕を咄嗟に掴んで引き留めようとした私は気付いたら仰向けに倒れていた。
キャーという悲鳴が上がったと思ったらメイドのマリーが駆け寄って抱き起こしてくれた。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
目をパチパチとさせて今起こったことを思い出す。
どうやらお兄様の腕を掴んだ私は振りほどこうとしたお兄様に突き飛ばされて尻餅を付き仰向けに倒れたらしい。
「僕は何も悪くないからな!」
兄が走って去っていく。
「ハンス坊っちゃま!」
マリーの呼び掛けに応えることなく兄はその場を後にした。
どうやら軽く頭を打ったようで、今日の習い事は中止してお医者様にゆっくりベッドで過ごすように言われてしまった。
両親に怒られたのか夕方兄のハンスが部屋を訪ねてきた。
目を真っ赤にした兄は謝罪の言葉を小さな声で呟いた。
私は何故兄に避けられているのか気になっていたので、訊ねてみた。
すると小さな手をギュッと握りしめ肩を震わせながら語ってくれました。
兄は7才にしてはとても優秀でシルベーヌ公爵の大事な跡取りである。
文武両道で、父親譲りの金髪に母譲りの碧い瞳の金髪碧眼の美少年。
どこに出しても恥ずかしくない、紳士の教育も完璧だ。
そんな兄が、私に対して劣等感を感じていたと…。
自分より2才も下なのに、語学も歴史も同じところを勉強して、覚えも自分より早い。
それが悔しくて、妹に劣っていると感じる自分が嫌で避けていたと…。
私はお兄様のように誰にでも優しく出来ません。
裏切られるのが怖くて、深い関係を望まない。
この家で心を許しているのは両親と兄とメイドのマリーだけ。
他の屋敷の従業員も皆優しいのだけれど、どうしても怖くて、必要最低限のコミュニケーションしかとれない。
こんな私より余程お兄様の方が優れているのに。
「お兄様、私はお兄様のように他人と上手くコミュニケーションをとることが出来ません。お兄様のように早く走ることも、剣を振るうことも出来ません。出来ないことばかりです。私はお兄様をとても尊敬しております…。」
兄に嫌われたくないと思って言葉を発すると目から涙が零れた。
赤ちゃんの時以来泣いたことがなかったし、前世でもあの断頭の前まで涙を流したことがなかった私は戸惑い、止まらぬ涙と嗚咽にどうしたら良いのか分からぬまま、手で涙を拭う。
すると兄が優しく抱き締めて、頭をポンポンと撫でてくれました。
温かい兄の温もりと久しぶりの兄の優しさに触れ、そのまま眠りについた。
目が覚めるとベッドの横の椅子に座っていた兄が手を握っていてくれたようで、起きた私ににっこり笑いかけていた。思わず発したのは兄への気持ち。
「お兄様大好きですわ。」
「あぁ、僕もミレーユが大好きだよ。」
この一件依頼、兄は私のことを避けるのをやめて今まで以上に優しくなった。
ちょっと過保護ではないかと両親は言うけれど、前世で愛を知らなかった私には兄の優しさはとても心地よかった。