突撃ヒロイン
やっとヒロインが動き出します。
最近は教室でお弁当を食べることが多かったけれど、今日は食堂に行くことになった。
それというのも、エリック殿下といつも一緒に食堂に行くトーマス様とマイケル様の三人は気が重いらしくどうしてもと頼まれたからだ。
私とエリック殿下は食堂に向かう。
それぞれメニューを注文して席に運ぶ。
まだ二人は来ていないようだ。
先にいただきながら待つことになった。
スープを飲んでいると、何だか賑やかな声が聞こえてきた。
そちらに目線を向けると、トーマス様とマイケル様の間に可愛らしいピンクブロンドの髪の女性がいた。
一目でアニエス様だと分かった。
アニエス様を挟んだ二人は口々に彼女を誉め称えていて、真ん中のアニエス様は鈴のような声でそれに答えていた。
「いつもなら食堂にまでは連れてこないのに何故今日は…。」
エリック殿下が小声で呟く。
私も何が起こるのかと身構える。
『あ~あぁあ!!
ヒロインとはなるべく接しない、関わらない、虐めない!って決めてたのに…。
だからいつも教室でお弁当食べてたのに。
でも食堂には来ないってエリック殿下が言うから来たのにぃいぃい!!』
頭の中は大パニック。
しかし顔に出さず平静を装う。
三人が私達のテーブルの前にやってきました。
「エリック殿下、アニエスが殿下と仲良くなりたいと言うので連れてきました。」
そう言って彼女を紹介したのはマイケル様。
「アニエスもぉ、エリック様と話してみたかったので、お会いできて嬉しいですぅ。」
とぶりッ子全開のアニエス様。
「アニエスは本当に可愛らしいな。」
そういうのが好きなの?って発言をしたのがトーマス様。
二人ともメロメロのようだ。
「エリックさまぁ。アニエスもご一緒して、良いですかぁ?」
彼女にそう聞かれると引き吊った顔で私の方を見て「ミレーユ嬢、構わないかい?」と聞いてきた。
私に聞かないでよ~!!
と思いながらも口に出さずに静かに頷く。
すると私に気付いた彼女が
「そちらの方はぁ、どちら様なのですかぁ?」
と首を傾げる。
マイケル様が
「こちらのご令嬢はミレーユ=シルベーヌ公爵令嬢で、エリック殿下の兄上である第一王子のフランシス殿下のご婚約者様です。」
と丁寧に説明してくれた。
「えぇっ!?この方がフランシスさまの婚約者なんですかぁ?」
知らなかったというように大袈裟に驚いている。
何か話が通じなさそうで怖い。
本当は一緒に昼食なんて食べたくない。
急に食欲がなくなる。
「その通りだよ。このミレーユ嬢はフランシス殿下のご婚約者様だよ。」
トーマス様が言うと、
「そうなんだぁ。」と何故か不満顔な彼女。
そこですかさずマイケル様が、
「でも、どんなに綺麗なご令嬢でもアニエスの飾らない愛らしさを前にしたら石ころと一緒だよ。」ですって。
「ありがとぉ。マイケルさまぁ。」
とマイケル様にしなだれかかる彼女。
それを恨めしそうに睨み付けるトーマス様。
『何だこの茶番は…。
というか、馴れ馴れし過ぎじゃないかしら…。
エリック殿下を勝手にエリック様って呼ぶし、フランシス殿下のこともそう。
トーマス様とマイケル様だってアニエス様の立場的には家名の方でお呼びすべきなのに…。
あと私の聞き間違いでなければマイケル様は私のことを石ころって言ったのかしら?』
静かに怒りが込み上げてくる。
普段こんなに突っ込むこともないのに、今日の頭の中の私はえらく饒舌で辛辣だ。
やっと三人がメニューを注文しにテーブルから離れる。
この短時間でごっそりと気力が持っていかれた気がする…。
横を見るとエリック殿下も疲れが顔に出ていた。
長丁場になりそうだと覚悟を決める。
私はヒロインにイラつかないし、注意したり、小言も言わない。
そう心に決めて、温くなったスープを啜る。
平常心、平常心…。
それぞれ選んだメニューを乗せたトレーを持って私達と一緒のテーブルに着く。
彼女はエリック殿下の前に座り、その両サイドに二人が座った。
私の前には石ころ呼ばわりしたマイケル様。
「エリックさまはぁ、どうしてお兄様の婚約者さまと一緒にいるんですかぁ?」
と可愛らしく聞く彼女。
するとマイケル様が、
「アニエス、エリック様ではなくエリック殿下と呼ぶべきだよ。それから、婚約者であるフランシス殿下が卒業されてからはミレーユ嬢は私達と共に過ごすことが多い。それは楽しい学生生活を送って欲しいというフランシス殿下の望みでもある。」
と先程までのメロメロが嘘のように、彼女を嗜めた。
「えぇ~?マイケルさまぁ、どうしてそんな意地悪なこと言うんですかぁ?アニエスは皆と仲良くなりたいだけなのにぃ…。」
メソメソと泣き真似をする彼女。
「あまり失礼な態度を取るなら、別のテーブルに移ると良いよ。」
呆れたように呟いたトーマス様。
ん?一体どうなったの?
疑問に思ったのはエリック殿下も一緒のようで二人で顔を見合わせて首を傾げる。
それを見た彼女はヒステリックに
「皆アニエスのことをすぐ好きになってくれるのに、なんでエリックさまもミレーユさまも、アニエスに優しくしてくれないんですかぁ!?」
と大声を出す。
流石にどうしたものかと思案しているとエリック殿下が口を開く。
「アニエス嬢申し訳ないが、俺とミレーユ嬢は次の授業の準備に行かねばならない。三人でゆっくり昼食を楽しんでくれ。」
と私を連れて席を立った。
助かったぁ…。
ホッと胸を撫で下ろす。
昼食、全然食べられなかったけれど仕方ない。
席を立って少し離れると彼女がまだプリプリしていて、それを二人が可愛いだの食べちゃいたいだの甘い言葉で宥めている。
あれ?本当にどういうこと?
疑問に思ったのは私だけではなかったようで、放課後お城で作戦会議をすることになった。
私を巻き込まないでもらいたいのに…。
今回は頭の中のミレーユがツッコミの才能を開花させました。
ヒロインはだいぶ残念なぶりっ子ちゃんです。
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