表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/33

【閑話】急な来訪

ヒロインの登場は次になります。これはドラゴンを倒した翌日の休日の話です。

昨日、シンスから逃げるようにルームに転移した後の記憶が曖昧だ。


気付いたら夕食も湯浴みも済んでいて、ベッドの中で座っていた。


「マリー?」


何だかとても不安になってしまって小さな声でマリーを呼んでしまった。

きっと聞こえないだろう。そのくらい小さな声で呼ぶ。


「お嬢様、どうなさいましたか?」


しかしすぐに優しい微笑みを浮かべたマリーが部屋に入って来て、私の傍に来てくれた。


何も喋らない私を見てもマリーは何も言わない。

ただ優しく抱き締めて背中を撫でる。


小さい頃、前世の辛かったことを夢に見て魘されて放心状態になってしまった時もいつもマリーは私に寄り添ってくれた。

子供なのに泣くことをしない私は不気味だったと思うのに、マリーは私を見棄てなかった。


それなのに最近の私は涙脆い。

今だってマリーに抱き締められて、涙が溢れて止まらない。


マリーは無理に話を聞き出そうとはせず、私が落ち着くまでずっと私の背中を優しく温かい手で擦ってくれた。


「お嬢様が、リラックス出来るようにハーブティを入れて参りますね。」


私が少し落ち着いた頃を見計らって声をかけてくれる。


マリーが用意してくれたハーブティはとても優しい香りで、少し前向きな気持ちにさせてくれた。


泣いて疲れたのか、ベッドに入るとすぐに意識を手放した。


翌日は何もする気がおきず、午後はマリーと一緒に庭にあるサンルームで花を眺めながらお茶を楽しんでいた。

すると執事が慌ててやってきて、何事かとそちらに顔を向けるとそこにはフランシス殿下がいらっしゃった。


お会いする約束もなく急な来訪に驚いて固まっていると、フランシス殿下は優しく微笑みこちらに歩いて来てくださった。


慌てて淑女の礼をしようと立ち上がると

「そんな畏まらなくていいよ。私とミリーは婚約者同士なのだから。」

そう仰ってくださったけれど、貴族としてはそういう訳にもいかないので、丁寧にお辞儀をする。


「フランシス殿下、今日はどうなさったのですか?」

そう私が伺うと間髪入れずに

「ミリー、二人のときはフランだろ?」

と言われて伺い直す。

「フラン様、今日はどうなさったのですか?」

少しだけ拗ねた様子で

「まだミリーは″様″を外してはくれないんだね。」

と苦笑していた。


私はフランシス殿下に好きと自分の気持ちを言うことも出来ないのに、″フラン″だなんて呼ぶ資格がないと思っているので畏れ多くて″様″を外すことなど出来ない。


私が黙っていると、「ミリーを困らせたい訳ではないんだ。」と微笑みかけてくださった。

殿下の優しさに申し訳なくなる。


せっかく殿下がいらして下さったので、私の部屋でゆっくりお茶をいただくことになった。


マリーが手際よく私と殿下の前にとても良い香りの紅茶と美味しそうなスコーンを用意してくれた。

このスコーンは領地で採れるブルーベリーをジャムにしたものを使用している自慢の一品のひとつで、アプリコットのドライフルーツの次に私が好きな特産品だ。


マリーが部屋を出ると念のために防音の結界を張った。


無言でお茶を飲んでいると、フランシス殿下が私の顔をじっと見ているのに気付く。


何かついているのかしら?と慌てて頬に触れるとクスクスと笑った殿下が口を開いた。


「何だか今日はミリーが落ち込んでいるんじゃないかと思って、会いに来たんだ。急に来てごめん。」


目をパチパチさせて驚く私が座るソファーの横に移動して来て優しく肩を抱かれる。

フランシス殿下はいつだって優しい。


「私がそう思って勝手に来ただけなのだから、何があったかなど無理に話す必要もない。ミリーはただ私に甘やかされてくれたらそれで良い。」


好きだと伝えることも全てを話すことも出来ない私に愛想を尽かすことなく、急かすこともなくいつも優しく寄り添って私が口を開くのを待ってくださる殿下。


私はフランシス殿下のことを愛している。

本当は全てを話してしまいたい。

それでも私は未来が怖い。


前世で自由と幸せを夢見て頑張った名もなき大魔導師だった私は国王と仲間に裏切られ殺された。

今世で再会したかつての仲間の勇者達も騙されていたのだと知り、気持ちに折り合いをつけたつもりではいるけれど、愛されることも幸せになることも怖い。


婚約破棄されて失うのなら、これ以上好きになってはいけないと警笛が鳴る。

信じて依存してはいけない。


そう思うけれど、優しいフランシス殿下の包み込むような愛情を感じてホッとしてしまう自分もいる。


だから私はフランシス殿下に好きだと、愛していると伝えない。

口に出してしまえば、失った時に心が壊れてしまう。

これは私の防衛術。



何も聞くこともなく、無理に話すこともなく静かに穏やかに肩を抱いて寄り添ってくださる殿下。


その日は夕方まで寄り添ってくださり、殿下はお城に戻られた。


あれほど落ち込んでいたというのに、少し気分が軽くなった気がする。

殿下が使ってくださるリラックスして優しい気持ちにしてくれる魔法はとても温かく沈みこんでしまいそうになった私をいつも引き戻してくれるのだ。


シンスに会うことはもうない。

ユーリもしばらく現れることはない。


私は私のやれることを頑張るだけだ。


私のことを愛してくれている大切な人達に迷惑をかけないためにも…。

初めてお話を投稿してから一週間が経ちました。

幸いなことに1.5万PVを達成して、本当に驚き感無量でございます。

いよいよ次話から学校篇に突入です。

応援していただけたらありがたいです(*´ω`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ