ミレーユの入学(前編)
今回は少し長めなので前後編に分かれます。
フランシス殿下と兄が入学してから2年。
私も10才になり、いよいよ学校生活が始まる。
エリック殿下の推理の通り、やはりバトルマスターと賢者もこの世界に転生していた。
バトルマスターは王国騎士団長の長男で、賢者は大司教の長男だった。
何故分かったかと言うと、エリック殿下の入学を前にエリック殿下の学友になる者を集めたお茶会が開かれたからだ。
この会には同じ歳の子供達全員を集めた訳ではなく、いずれ王家に仕える臣下になる家の子息と息女のみが参加した。
私は公爵家の娘で、第一王子殿下の婚約者として呼ばれていたのだけど、何か嫌な予感がして体調不良ということにして欠席した。
私の予感は正しかった。
招待された学友の中にバトルマスターと賢者がいた。
エリック殿下は勿論、二人もお互いを一目見た瞬間に分かったそうだ。
その場では当たり障りのない会話だけしか出来なかったが、個人的にもっと仲良くなりたいとバトルマスターと賢者に後日城で会う約束をとりつけた。
エリック殿下はお茶会で再会したことをフランシス殿下伝で教えてくださった。
「ミリー、怖いかい?」
そうフランシス殿下に問われれば『怖い』と素直に頷く。
エリック殿下の言うように、彼らにも彼らなりの悩みや苦しみがあったことは分かってはいる。
しかし、殺されることを知っていながら共に旅を続けていたという事実だけがどうしても私を黒い沼に引きずり込む。
フランシス殿下はそんな時、優しく抱き締めてとてもリラックス出来るような魔法で包んでくださる。
決して無理やり明るい気持ちにさせるような魔法ではなく、前世での愛を知らない私にも分かるような慈愛に満ちた暖かく優しい魔法。
私はフランシス殿下が好き。
婚約者になってしまった時は本の結末に怯え、悲観した。
しかし、何度も会っているうちにフランシス殿下のお人柄に触れ、本当に愛されているのか信じきれていない前世の自分の気持ちとは裏腹に、次に会える日を楽しみにしている自分もいた。
前世では誰も助けてくれなかった。
味方もいなかった。
でも今世には愛すべき家族や殿下がいる。
私も前を向いて生きていかなければならない。
バトルマスターと賢者の件は入学の前にケリをつけた方がいい。
今ならまだ兄やフランシス殿下に助けて貰える。
学校に行けば、二学年上に兄とフランシス殿下はいるけれど、普段の授業で一緒になることはないから自分でどうにかするしかない。
「フラン様、エリック殿下が彼らに会う席に私も同席させて貰えないでしょうか?」
「勿論構わないよ。」
「大変厚かましいお願いなのですが、フラン様とお兄様にも同席していただきたいのです。」
「当たり前のことだ。何もミリーが気にすることなどないよ。安心してほしい。何があっても私はミリーを守るから。」
フランシス殿下のお気持ちが有り難くて心強くて目頭が熱くなり、気が付けば再びフランシス殿下の逞しい腕に包まれていた。
今回は魔法でもなんでもなく優しく抱き締めて背中を撫でてくださった。
今の私はフランシス殿下を失ったらきっと壊れてしまう…。
でも、ヒロインが現れたらフランシス殿下の気持ちも離れてしまうのかもしれない。
あの本のヒロインは素敵な魅力で次々と周囲を虜にしていた。
男女問わず好かれ、フランシス殿下と結ばれる。そして私は断罪されて婚約破棄されてしまう。
私がフランシス殿下の婚約者にならないように猫イベントを回避しても、結果的に婚約者になってしまったように、変えられない何かはあるのかもしれない。
万が一の時にはユーリとして生きていけるように、準備だけは怠らないようにギルドでの依頼を益々頑張ることにした。
エリック殿下のお茶会に招待された。
いよいよ彼らに会うのだわ。
不安な気持ちでいっぱいだったけど、お兄様に手を繋いで頂いて、お茶会の部屋のドアをノックする。
扉が開かれ、中には丸い大きなテーブルが置かれていて、エリック殿下の両隣にバトルマスターと賢者がいた。
私はエリック殿下の正面に、そして私を挟むようにフランシス殿下とお兄様が座った。
バトルマスターと賢者には私が来る前にエリック殿下が話していたようで、緊張した面持ちではあったが驚いた様子は見られなかった。
いつものように人払いをしてから防音の結界を張る。
簡単に説明すると、二人からはやはり前世のことについて謝罪された。
こればかりは受け入れることは出来ないので、何も応えないで俯いていると賢者が語りだした。
魔王討伐のメンバーとして集められた時に国王から大魔導師である私の処刑は決定事項だと聞かされたこと。
そして、自分達にはそれぞれ見合った地位を約束すると言われたこと。
しかし、いくら魔力が強いからって何故殺す必要があるのか?
生まれた時から忌み嫌われて畏れられてきたと聞く。
それは彼女が得たくて得た力ではないではないか。
もし生まれたのがもう少し豊かな街であったなら、そこまで畏れられることなどなかったのでは?
たまたま貧しく魔力や魔法に理解の少ない環境に生まれたばかりに、孤独でいなければならなかったのだ。
少し話を聞いただけの自分にもそれは分かる。
なら何故自分達は魔王討伐の為に、可哀想な少女一人を利用し、騙しながら旅をしなけなければならないのか。
疑問と怒りから国王に食って掛かってしまった。
すると国王が兵士に合図をし、縄で拘束された勇者やバトルマスター、そして自分(賢者)の家族を連れてこさせた。
国王の命令通りに魔王を討伐して大魔導師の命を差し出せば、自分達の家族を解放しそれぞれに先程の栄誉なる地位を与えると脅された。
家族は心配そうな顔でこちらを伺っている。
こんなのあんまりだ。
家族を人質にとられて従わない訳にはいかなかった。
そして自分達は大魔導師という一人の少女を生け贄にすることに同意してしまった。
どんな理由があったにせよ、自分達が大魔導師を裏切ったことは事実。
許されることではない。
だが今世こそ、大魔導師であった少女には幸せになって貰いたいのだ。
それはこの三人の総意であり、同じ歳に生まれ変わったのも三人で貴女を守るためだったんだと思う!
と熱く語った。
バトルマスターはほとんど賢者が全部話してくれたからと深く話すことはなかったが、必ず私が幸せになれるように守ると誓ってくださった。
人質になっていた家族は旅に出てすぐに処刑されていたのは彼らの処刑の時に聞かされた事実であった。
益々何のために魔王と戦ったのか。
三人は怒りの中前世を終えた。
どんどん明らかになってきた前世の国王の悪行。
私は三人の話を聞いて、信じてみようと思った。
もしまた何かあったとしても私にはチートがある。
10才やそこらの子供達に危害を加えられることなどないに等しい。
チャンスを与えるなどと上から目線に立つつもりもない。
一緒に過ごしてみて、味方なのか敵なのかを見極めるだけだ。




