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前世の出来事

私には生まれる前の記憶…所謂前世の記憶がある。

今いる世界とは似て非なる世界で、そこで私は魔王討伐のメンバーで大魔導師だった。

あらゆる攻撃魔法、防御魔法、回復魔法を習得し、仲間である勇者達と一緒に魔王を倒す旅に出た。

旅の途中で精霊の王に加護を受け、精霊魔法も使えるようになった。

そして魔王を倒し、平凡な余生(まだ余生というには若いが)を過ごそうと国王より報償金を賜り城を後にしようとした時…。

隣にいた勇者に腕を掴まれた。

討伐のメンバーとはここでお別れになるため、まだ何か話でもあるのかと振り返ると勇者の顔は酷く歪んでおり、私の腕には魔法封じの手錠がつけられていた。

「勇者、これは一体どういうことです?」

不信感を拭わないまま訊ねると、

「すまない…。こうするしかなかったんだ…。」

と勇者が項垂れながら言う。

その先を促すが、なかなか口を開かない。

すると国王がこう告げた。

「先の魔王討伐では大魔導師のそなたの力が勇者らの大いなる助けになったのは確かだ。しかし、魔王も倒された今そなたの力は脅威でしかない。勇者には我が娘である姫と婚姻を結び余の後を継いでもらう。賢者は教会の大司教に、バトルマスターには軍の総司令官を任せる。しかし、お前はその類い稀なる魔法の才能と計り知れない程の魔力、そして唯一の精霊魔法の使い手にも関わらず、隠居生活を求めた。そのような脅威の力を持つそなたを野放しにすることは、我々にとって恐怖でしかない。魔王を倒してくれたことには感謝している。だが、賢いそなたなら余の言いたいことも分かるだろう?他のメンバーを道連れにするか、一人処刑されるのか。さあ、選ぶがよい!!」

「すまない…頼む…!」

勇者の顔は蒼白で賢者もバトルマスターも目を伏せて僅かに震えていた。


魔力の多かった私は幼い頃から畏れられ、両親からも疎まれて育った。5歳の時に師匠である魔導師に拾われて、いずれ現れる魔王討伐のために厳しい修行に明け暮れていた。

そして魔王が現れ、城に勇者達と共に集められた。

『この戦いが終われば、私はやっと自由になれるのだ。』

そう信じて、それを心の支えに、勇者達とレベルを上げあらゆる魔法を極めた。

どんなに嫌なことがあっても、その先の自由を夢見て耐えた。


それがまさかこんな仕打ちを受けるとは…。

私の両親と同じように、共に戦った仲間であった彼らも私のことが怖かったのだ。

自分達とは次元の違う魔法を使い、そして膨大な魔力をもつ私。

果たして私は人間なのだろうか?

人間として生まれ、皆と同じように子供らしい生活を送りたかった。望んでこんな魔力などを持った訳ではない。ただ、生まれた時から人より多くの魔力を持っていただけ。

この世界では皆量の違いはあるが魔力を持って生まれる。その量が桁違いだっただけで、両親や周りの人間たちは私を恐れた。必要最低限な世話をされる以外は暗い納屋に閉じ込められる生活。

その後に自由があるのならと魔王の討伐の為に努力をすることの何がいけなかったのか。

勇者達と共にレベルを上げていく度に魔力もさらに増えていった。もはや魔力の量で言うなら魔王と変わらなかった。

私は魔法には特化していたが、剣術や体術はまるっきりダメでそこは魔王とは違うと思う。

しかし魔王なき平和な今、私の力を脅威に感じて排除することを望む者がたくさんいるのは理解出来る。

なりたくてなった大魔導師ではないのに…。

魔力だって別に欲しくなかった…。

皆に…両親に愛されたかった…。

共に戦った仲間達だけは私の味方だと…信じていた…。

現実では共闘していてもどこか畏れられていたのだな。


勇者に装着された魔法封じの手錠を見る。

目の前がボヤける。

しばらく手錠を見ていると、水滴が垂れた。

どうやら私は泣いているらしい。

子供の頃に渇れたと思っていた涙。

初めて見る私の涙に勇者が声をかけた。

「お前も泣いたりするんだな…。お前の涙、初めて見た。もっと早くにお前のことを一人の女の子として見ることが出来たら、こんなことにはならなかったのかもしれないな…。」

ちっとも嬉しくない。感情を殺し、愛されることを諦め、ひたすら魔法の修行と魔王討伐のことを考えて生きてきた。

仲間と馴れ合い、裏切られたら今度こそ壊れる。そう思って線を引いてきた。それでも魔王を共に倒し、これからは平凡な生活を手に入れられると思ったし、馴れ合うことはなかったが、それでも勇者達とは見えない絆で結ばれたと思っていた。

こんなのあんまりだ…。

生きているのが辛い。

もう終わりにしよう。


「国王様、勇者達はこの国の英雄です。処刑するのならば、私一人を。」

「英断だな。余もそなたには申し訳ないと思っているのだよ?国民にとって魔王と匹敵するような魔力の持ち主は脅威でしかない。」

「はい。」


ここで勇者によって断頭されて前世の生を終えた。

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