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恵方巻きアイドルの一日

作者: 村崎羯諦

【AM 4:45】

起床。睡眠時間は三時間にも満たないが、不思議と寝過ごすことはない。

洗顔、着替えを手早く済まし、自宅を出発する。化粧をする時間はもちろんない。


【AM 5:00】

移動時間。北関東の大型ショッピングモールへと電車で向かう。時間をおいて襲いかかってくる睡魔と戦いながら、事務所から横流しされてきた仕事関連のメールに目を通し、グループ公式のSNSとブログの更新を行う。


【AM 7:30】

現場入り。他のメンバー三人はすでに到着しているがいつものようにマネージャーの姿はない。これはいつものこと。メンバー全員でイベント担当者のもとへ挨拶に行き、その流れで、最年長の私がイベント関連の打ち合わせを行う。物販用のスペースをめぐり、双方で認識の食い違いがあることが判明する。物販は無名アイドルの生命線であるため、必死に食らいつき、なんとか地元アイドルとスペースを共有する方向で話が落ち着く。


【AM 8:15】

リハーサル。暖房のない搬出倉庫の一角を借り、メンバー内で歌や進行の最終確認を行う。ここでようやく担当マネージャーが現場に現れる。彼女に物販に関する契約について問いただすと、逆ギレされ、手に持っていた資料を投げつけられる。これもいつものこと。


【AM 10:00】

イベント本番。数多くのアイドルが出演するため、私達に割り当てられた出番は30分ほど。十畳ほどの狭いステージ上で歌と踊りを披露し、恵方を向いて恵方巻きを食べるというパフォーマンスで締めくくる。これが今日はじめての食事。食べ飽きた味に少しだけ吐き気を覚える。


【AM 10:45】

物販。スペースを共有させられる羽目になった地元アイドルから冷たい視線を送られる。地方での朝早いイベントということもあり、いつも来てくれるはずの熱心なファンの姿がない。売上は低調。そのことで担当マネージャが小言を言う。


【AM 11:45】

同ショッピングモール内の生鮮食品売場での売り子業務。恵方巻きの特設スペースで試食や呼び込みの仕事を行う。最年少メンバーに執拗に絡んでくるおじさんが現れ、店員さんに警備員を呼んでもらって対処した。ちなみに彼女が絡まれている間、マネージャは見て見ぬふりをしていた。


【PM 1:30】

次の現場へと移動開始。活動の拠点である秋葉原へと電車で移動する。実家がお金持ちのアリサだけは自費でタクシーを使う。日頃の態度も相まって、メンバーの一人がアリサの悪口を電車内でまくしたてる。メンバー内の雰囲気を悪くすることは避けたいため、やんわりと彼女をなだめすかす。


【PM 3:00】

ダンスレッスン。事務所が保有しているダンススタジオで練習を行う。しかし、一時間ほどしたところで、絶賛売出し中であるお彼岸アイドルのレッスンの割り込みが入り、稽古場を追い出される。照明が切れかかった廊下の突き当りで簡単に振り付けのおさらいをする。


【PM 5:30】

恒常ライブの出演。いつものお客さんの前で、いつもと同じ歌を歌い、そして最後に恵方を向いて恵方巻きを食べる。途中でえずいてしまい、一口で食べることができなかった。昔はあまりなかったのに、最近多くなったような気がする。


【PM 8:00】

物販。出演アイドルたちがファンと写真撮影を行ったり、CDの手売りを行う。自分たちのホームということもあり、午前中とは違った緊張感が漂う。アイドル間の人気格差だけでなく、メンバー間の人気格差が如実に現れるのがこの時間の最大の特徴。ちなみに、私達の中で一番人気が高いのはお金持ちのアリサだ。


【PM 10:00】

移動。今日は恒常ライブの後にもう一件別の仕事があったため、未成年を除いたメンバーで現場へ向かう。パフォーマンスとしてもう一本恵方巻きを食べなければならないため、移動前にトイレで無理やり胃の中のものを吐き出しておく。


【PM 10:45】

現場入り。駅から離れた寂れたスナックでの営業。ここのママは事務所の社長と知り合いらしく、売れないアイドルに時折仕事をくれる。タバコの煙が充満した舞台の上で歌と踊りを披露し、恵方を向いて恵方巻きを食べる。最後にスナックに来ていた冴えないおじさんたちと一緒に豆をまき、イベント終了。出番が終わった後、スナックのママから余った豆をいただくとともに、ねぎらいの言葉をかけてもらう。人の温もりを感じ、涙が零れ落ちそうになる。


【AM 1:00】

帰宅。シャワーを浴び、スナックのママからいただいた豆を自分の年の数だけ食べる。もう自分がこんな年齢なんだと改めて思い知らされ、絶望する。


【AM 2:00】

就寝。明日も地方で午前からイベントがあるため早く眠りにつきたいが、なかなか寝付くことができない。スマホで猫の動画を視聴しながら、そのまま寝落ちする。これもいつものこと。

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