完璧な対応
本日2話目です
ミロは皇都へ帰還し、屋敷へと向かう。
皇太子に報告するのは騎士たちの役目で、ミロたちは休んでもよいと言われたからだ。
「後日、殿下から褒賞があるでしょう」
「ああ」
ミロは喜びを顔に出さないように全力を尽くす。
せっかくいい感じで周囲の評価が固まってきているのに、台なしにはしたくなかったのだ。
メイドたちにお茶を淹れてもらい、晩飯について考える。
「そう言えばエアロの部屋はどうする? 飯は?」
「私は飲み食いなど不要です。一年に数時間ほど眠れば睡眠も問題ありませんね」
エアロは規格外生物らしい回答をした。
「ドラゴンって便利な生き物だな」
エアロの規格外ぶりに驚くメイドたちとは違い、ミロはのほほんと言う。
「マスターはいかがなさるのです?」
「俺は三食食べるし、昼寝もするよ」
そうでないと死んでしまうとミロは言わなかった。
エアロの規格外ぶりのあとで言うと、何だか格好悪い気がしたからである。
「なるほど……不要だからと言ってやらないのではなく、あえてやるのも楽しみということでしょうか」
エアロの発言を聞いて、やはりドラゴンは感覚がずれているなとミロは思う。
「私どもの仕事もありますからね。ご配慮たまわりありがとうございます」
メアリーはそう言って笑顔とともに頭を下げる。
(え? なんの話だ?)
どうしてメイドから礼を言われたのかがわからない。
しかし、質問するのはためらわれる。
教えてもらえたらよいのだが、この場の空気だと「またまたとぼけちゃって」なんて思われそうな気がしてならない。
「まあメイドを働かせるのも役目だからな」
数秒考えたあと、あたりさわりがなさそうな言葉を選ぶ。
メイド二名とエアロがうなずいたため、ミロはホッとする。
ミロが年俸の話をしていないことも忘れてお茶を飲んでいるころ、フーベルトゥースは騎士たちから報告を受け取っていた。
「そうか、風属性の魔法でか……」
「はい。あれほどの強大な魔力を正確にコントロールし、無用な被害を出さないようにとどめていました。被害を抑えるなら下級魔法という手があったはずですが」
「そうだな。魔法のランクが上がるほどコントロールは難しくなるもの。強大な魔力の持ち主が上級魔法を使って目標以外傷つけないというのは、心底恐るべき実力だ。そして対応としては完璧と言える」
フーベルトゥースは驚嘆する。
(いったい何回私たちを驚かせるのだ、ミロスラフは)
そう思いながら彼は会話を続けた。
「つまり年俸について何も言わなかったのはそれだけ自信があったからということなんだな?」
「御意」
騎士たちはいっせいにうなずく。
「あれほどの男。八千万ナグルでも安いでしょう」
三十代の騎士が言った。
ナグルとは皇国の通貨であり、三千万ナグルで大臣や騎士団長クラスである。
庶民ならば三百万ナグルもあれば子を養えるくらいの額だ。
「一億ナグルだな。それ以上個人には出せぬ。かわりに特権を与えよう」
フーベルトゥースはそう決断した。
「一億ナグルですか」
まだ安いと騎士たちは言いたそうである。
一億ナグルは大金だが、トップクラスの冒険者ならば稼ぐのは不可能ではない。
「ミロスラフが他に何を求めているのかわからないからな。あの服装は我々の侮りを誘う目的があったというのが私の考えだが、金品に興味がない可能性だってあるだろう」
「たしかに」
金品に興味がない者に金品を渡そうとしても受け取ってもらえず、不快にさせるだけだ。
ミロスラフという規格外の魔法使い相手では慎重になるべきだろう。
「よし、陛下に奏上しよう」
フーベルトゥースはそう言ったが、却下されるとはみじんにも思っていない表情だった。