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スネル退治

 スネルはAランクに位置する高位のモンスターだ。

 動植物に卵を植え付けると一日で数百匹がかえり、一日で成体となって卵を産めるようになる。

 それだけに卵を産む前に討伐しないと爆発的に増えてしまう。

 皇都の近くの森にスネルが発生したことを発見されたのは昨日の朝だった。

 運悪くスネルを倒せるだけの実力者は出払っていて、すぐに戻ってこれる状況ではない。

 今日ミロがエアロとともにやってきたのは皇国にとって大きな幸運だった。

 スネルは数日もたてば万を越す群れとなり、森林を破壊したうえに皇都へとやってきただろうから。

「一つ聞きたいんだが、どれくらいまでの被害なら許容される?」

 ミロは着地したエアロから降りながらそうたずねた。

(一匹ずつ倒すなんて無理だろうしなあ。森ごと破壊するのは手っ取り早いよなあ。これじゃ光線系は使わない方がよさそうだな)

 他に手は思いつかない。

「はい。最悪森林をあきらめると皇王陛下、皇太子殿下の許可を得ております」

 騎士の一人がそう回答する。

「森林を破壊してもいいなら何とかなるな」

 ミロはそう言った。

(ど、どんな大魔法が飛び出すのだ!?)

 騎士たちは興味と恐怖がまざりあった感情を抱く。

 エアロもまた彼らとは違う意味で興味を持っていた。

 そんな中ミロは魔法を詠唱する。

「秩序よ揺らげ、法則よ軋め、大いなる覇者の息吹をもってかの存在を断罪せよ。【風覇裂空陣】」

 風覇裂空陣。

 風属性の上級魔法であり、無数の風の刃で四方八方から敵を切り刻む。

 目には見えにくい刃があらゆる方角から飛んできて逃げ場がどこにもないという恐ろしい魔法である。

 ミロがこれを選択したのは会得するのに転生を二回ほどした大技だからというのが大きい。

 あとはエアロや騎士たちに上級魔法の一つくらい使えることを示しておこうと軽い気持ちだった。

 その結果として、空からは強烈な風の刃が豪雨のごとく降り注ぎ、荒れ狂う竜巻のような風の刃のらせんが数千も発生して森ごとスネルの大群を粉々に切り刻んだ。

 

「す、すげえ。【風覇裂空陣】は知ってるけど、森がぶっ壊れるほどの威力が出るのか」

「あの規模、あの破壊力だったらスネルたちは逃げようがないな……」

 騎士たちは唖然として見守っていたが、若い騎士が一人疑問を持つ。

「でも何で火の魔法を使わなかったんだろう?」

 聞こえてしまったミロはギクリとする。

 火属性の魔法で森ごと焼き払うというのはたしかに環境的に最も適している。

 

(思いつかなかったって言ってもいいのかな)

 まだ初日なのにいきなり格好悪いところを見せてもいいものか。

 彼が迷っていると、エアロが鼻で笑う。

「馬鹿な。森を焼いてしまえば魔法を使ったところでもとに戻るまで十年単位の歳月が必要だろう。だが、森を切り倒しただけであれば、スネルどもを駆逐したあと、土属性の魔法を使えば数か月で回復できるはずだ」

「あっ、そうか! ミロスラフ様は森を再生させることを考えていらっしゃったのか!」

「おおお!」

 エアロの説明に納得した騎士たちは感心し、喜びの声をあげる。

「木材も汚染されていない部分は使えるものな!」

「いいことずくめだ!」

(……そんなこと考えていなかったんだけど、ここは乗っかろう)

 

 とても本当のことを言える空気ではなくなったからだ。

 ミロはエアロに感謝しながら言う。

「エアロ。お前が私の真意に気づいてくれたのはうれしいが、もう少し彼らにも考えさせないと」

 

 エアロはドラゴンであり、感覚が人間とずれているはずだ。

 いつも彼が答えていると、そのうち見当はずれなことを言い出す危険がある。

(今回はたまたまもっともらしい答えだったけど、これからもそうだと思って頼るのは危険だよな)

 

 ミロはそう思ったが、エアロの解釈は違う。


「そうでしたか! マスターは騎士たちの思考能力を鍛えるという目的もあったのですね! これは差し出がましいことをしてしまいました!」


 また勘違いをはじめたかとミロはあきれる。


「おお、何という深謀遠慮! ミロスラフ様こそ本物の賢者ですな!」


 騎士たちが口々にほめてくれたため、彼は引っ込みがつかなくなってしまった。

 それに否定して評価を下げられるも困る。

 今はまだ雇われたばかりだからだ。


「ふっ」


 意味ありげな笑みを浮かべてごまかすことにする。

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