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皇太子からの呼び出し

 屋敷内をメイドたちに連れられて簡単に見回る。


(二階に客室だけで八つか……)


 大した広さだとミロは感動した。

 夢に見た豪邸にこれから住むのだと思えばうれしくなるが、まだ現実感はあまりない。

 ミロたちが一階の大きな広間に戻ってきたところで、呼び鈴らしきものが鳴った。


「ミロスラフ様、エアロ様、少しお待ちください。ポーラお二人を応接室に案内してさし上げて」


 メアリーはポーラに指示を出して応対に向かう。

 残されたポーラは緊張した面持ちで二人をこっちですと案内する。

 応接間は階段から降りたすぐ左側にあるようだった。

 三名が待っていると、そこへメアリーが五十歳くらいの男性を連れて入ってくる。

 ミッドナイトブルーの背広と黒いパンツに黒い靴といういでたちの、上品そうな男だ。 


「ミロスラフ様、皇太子殿下の使者としてハイル一等宮廷書記官がいらっしゃいました」


(一等宮廷書記官!)


 ミロは軽く目をみはる。

 宮廷書記官とは宮廷において大臣や皇族の政務を補佐して政務にたずさわる職業で、一等となると要職と言って差し支えがない。

 事情を知る者がいれば皇太子がどれだけミロのことを重視しているかわかるというものだが、知識のないミロは「宮廷書記官なんて初めて見た」と思っただけだ。

 ハイルは心臓に胸を当て、頭を下げるという上位者に対する礼をおこなった。

 どう対応すればいいのか知らないミロは鷹揚っぽくうなずいてみせただけである。


「ミロスラフ様、さっそくで申し訳ないのですが、皇太子殿下より皇宮まで足を運んでいただきたいとのことです」


「仕方ないな」


 ミロは承知した。

 せっかく皇太子の直属という夢のような仕事にありつけたのに、まさか初日から拒否をするわけにもいかない。

 

「しかし、この格好でいいのかな?」


「はっ……」

 

 ミロの問いにハイルは背中に冷や汗をかく。

 ミロスラフは明らかに地上最強クラスでその言動に注意しつつ、決して怒らせてはいけないと皇太子に言われている。

 本来、彼が今着ている安物でうす汚いローブなど一秒でも早く脱いで着替えてもらいたいのだが、どのような理由でそれを着ているのかわからない以上、うかつに言及したくなかった。

 

「ミロスラフ様はいかがお考えでしょうか。失礼でなければこちらでお召し物を用意させていただければと存じますが」


 ハイルは空腹で殺気立っている肉食猛獣と運悪く遭遇してしまった鹿のような気持ちで、ミロに話しかける。

 万が一の際は、自分の命だけで許してもらおうと悲壮な決意を固めていた。


「そうだな。もらっておこうかな。この国の魔法使いらしい服装を」


「はっ、さっそく伝えさせていただきたく」


 ハイルはそう言うと、背広のうちポケットから黒い円盤のようなものを取り出し、パカッと開ける。

 通信用のマジックアイテムのひとつだとミロも知っている。

 通信が終わったところでハイルは礼を言う。


「ご寛恕をたまわりありがとうございます」


「いやいや、宮殿に訪れるならやはり身だしなみにも気をつけたほうがいいのだろうね」


 ミロはニコニコしながら答える。

 

(服を何着もくれるなんて気前がいいな! さすが皇太子直属の肩書だな!)


 じつは服を何枚も用意できなくて困っていたのだ。

 悩みが解決したのはありがたいかぎりである。

 

(それに一等宮廷書記官がこんなにへりくだるなんて、皇太子直属って威光はすごいんだな)


 と感心もした。

 俸給がどれくらいなのかわからないが、できるかぎり頑張ろうと思う。


「それでは一時間後にお越しいただければ幸いです」


 そう言い残してミロの屋敷から退去したハイルはふーっと大きく安どの息を吐き出した。 


(殿下がおっしゃったように恐ろしい人物だ……)


 そして専用の馬車に乗ると再び通信アイテムを取り出して、フーベルトゥースを呼び出す。


「ミロスラフ様はこの国の魔法使いらしい服装をとおっしゃいました」


「そうか。こちらが相応に待遇するなら、この国に仕える身としてそれなりに働いてもいいという意思表示を示したのだな。何気ない会話に深遠な意味を含ませてくるとは、何という機知に富んだ男だろうか」


 皇太子フーベルトゥースの声には緊張感がある。

 

「御意」


 最初は皇太子の考えすぎではと思っていたハイルだったが、ミロを見て考えを改めた。

 うす汚い恰好を平然としていて、常識も知らない田舎者の魔法使いとしか思えないような空気や態度。

 あれは見た目や簡単な会話だけで物事を判断しようとする浅慮な愚者をハメるための擬態だ。

 

(たしか食人花はそういう性質だと聞いたことあるな)


 とハイルは思う。

 人を食らう植物は一見美しく無害な観賞用にそっくりだが、いざ近づくと恐ろしい本性をあらわにする。

 ミロスラフも扱い方を誤れば大陸を跡形も消し飛ばす恐ろしい力を見せつけるに違いない。

 そんな事態だけは絶対に避けたいハイルであり、フーベルトゥースであった。

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