メイドふたり
三日後ミロは人間状態のエアロをともなって再び皇都に現れる。
「さてどうかな」
上手くいきますようにとミロは思ったのだが、なぜかやたらと敬意をもって接してくるエアロの手前、あまり情けない言い方はよくない気もしたため、とりつくろっていた。
「マスターの大いなる計画、きっとうまくいくかと存じます。もっとも皇国どもの器量が小さければそのかぎりではないでしょうが」
ミロとしては「こいつは何を言っているんだ?」状態である。
(皇太子殿下が雇ってくれると言ったんだから、就活は成功したに決まっているじゃないか)
ドラゴンは感覚がずれているのだろうと考え、何も言わないことにした。
皇都についたミロは堂々と名乗る。
「私はミロスラフだ。こっちはシモベのドラゴンのエアロだ。開門してもらいたい!」
彼の名乗りを聞いた門番たちは震え上がった。
「き、来た」
「れ、例のドラゴン使いの魔法使いだ」
皇太子直属となったため、心配はいらないと聞いている。
それでも七大災龍を従えるほどの恐ろしい実力者だ。
おびえるなというほうが無理だった。
ミロとエアロは門を通る際に彼ら兵士のおびえを感じ取る。
(大国って言っても門番も精鋭じゃないのかなぁ)
とミロは考えた。
「さすがマスター。大国の精鋭が震え上がる神のごときオーラをお持ちですな」
エアロはそう言って主人を称える。
誰もいなくなったところでミロはエアロに言う。
「いや、あれは精鋭じゃないだろ」
ウィンドドラゴンにおびえるようでは精鋭とは呼べない。
ミロはそう言いたかったのだ。
「なるほど」
エアロは納得する。
(マスターにとって大国の精鋭ごときは虫けらと同じか。私に勝てるほどの猛者をもって初めて精鋭と呼ぶとおっしゃりたいのだな)
彼はそう解釈したのだった。
ミロを案内してくれたのは四十歳くらいの兵士である。
彼は若干緊張していたが、さすがにおびえを態度には出さなかった。
ミロたちが案内されたのは貴族外の一番の屋敷である。
赤いレンガ造りの門はミロが見上げる必要があったほど高く、有刺鉄線がはりめぐらされていた。
門の入り口のところにあるボタンを押すと、魔法アイテムが作動して屋敷内に待機する使用人に伝わる仕組みだという。
茶色の木の扉が開いて、十代半ばの若いメイドと四十手前のメイドが姿を見せる。
若いメイドは小柄で髪は茶色く、ショートヘアにしていて、黒いメイド服と白いエプロンが似合っていた。
年長のメイドは大柄でかっぷくがよく、貫録を感じさせる緑色の髪を持った女性だ。
年長のメイドが前に出て、小柄な若いメイドは彼女の後ろに隠れるように歩いてくる。
彼女たちの姿を見て兵士はミロに敬礼し、去っていった。
メイドたちはミロたちの前で止まり、頭を下げる。
「初めまして、ミロスラフ様とそのドラゴン様ですね。このたび皇太子殿下によりミロスラフ様のメイドを拝命いたしました、メアリーと申します。こちらの娘はポーラです。よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いいたします」
メアリーは年長者らしく落ち着いているが、ポーラは緊張でおどおどとしていた。
「私がミロスラフだ。これからよろしくな」
まずミロが名乗る。
「俺はエアロだ。マスター・ミロスラフ様にお仕えするシモベである」
エアロは七大災龍らしく尊大な態度をとった。
それをミロがとがめる。
「何でお前がメイドたちに偉そうなんだ? 俺からすれば同格だろ」
彼にとってメイドもペットも自分に仕えてくれる存在という意味で対等だった。
しかし、もちろんこれは人間二人とドラゴン一頭にとって激しい衝撃となる。
「ど、同格? エアロ様と私どもがですか?」
メアリーとポーラは信じられないとばかりに赤い瞳をみはった。
「俺がメイド並みだなんて、さすがマスター……スケールがあまりにも巨大すぎる」
エアロはというと、ミロの発想に畏敬の念を抱いている。
スカイエンペラードラゴンと一介のメイドを一緒にするなど常人の発想ではないのは事実だ。
エアロの正体に気づていないからこそできることだと、知っている存在はいなかった。
「な、なんておそろ……偉大なるお方なの」
メアリーとポーラも畏怖した。
恐怖と絶望と終焉の代名詞とすら言われるスカイエンペラードラゴンを、自分たちと同じ扱いにしてしまう。
しかも当のドラゴンに納得させてしまっている。
(皇太子殿下が私に仕事を回してきたわけだわ)
メアリーは畏怖しながらも納得した。
彼女の前の職場は皇宮であり、肩書は侍女頭補佐兼皇太子の乳母である。