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快気祝い

皇王は無双の賢者ミロスラフの活躍で快復した。

 その知らせはあっという間に皇国全土に広まる。

 元気になった皇王のもとにお祝いをしようと、全国から貴族たちが集まることになった。

「めでたいな」

 とミロスラフは皇宮でそう言う。

 いちいち呼び出されて少し面倒くさいなという気持ちが強い。

 しかし、見る者からすれば「とんでもない大物感がただようすごい男」に映る。

「当然ミロスラフ様にも出席していただきたい」

 と皇王は言う。

 ミロとしては面倒である。

(だが、物は考えようだ)

 そう感じた。

 皇王に恩人として紹介されれば、貴族たちはいやでも彼のことを覚える。

 かつて彼があおぎ見ていた存在のように。

(俺が大国で顔を覚えられるレベルになるのか)

 と考えればいやでもニヤニヤしてしまう。

(昔の知り合いが今の俺を見ると、きっと仰天するだろうな。みんな死んだけど)

 そう思うと胸がスカッとする。

 自分でも意外だったが、少しずつ成功への階段をのぼりはじめていると思えた。

(もしかしたら俺はそのうち、この国で魔法使いとして認められる日が来るかもしれない)

 と妄想もする。

 彼がそう思う理由はあった。

(皇王はやたらとていねいで腰が低い人だし、皇太子も何か態度変わったもんなあ)

 きっと自分のことを評価してくれるようになったのではないかと期待する。

(ただまあ、魔法使いとしての実力をまだ見せていないんだよな)

 とミロは少し残念に思う。

(ハエとドラゴンを倒しただけなんだよなあ)

 この二体を倒しただけではあんまり威張れない。

(そのうち実力をアピールする機会があるかな?)

 そう思い、近侍の一人に言ってみた。

「ミ、ミロスラフ様の力を見せる機会でありますか?」

 ミロにとって不思議なことに、近侍は大きく目を見開いて愕然としたように聞き返す。

「見せなくてもいいのか?」

「は、ミロスラフ様の偉大なるお力を理解できぬ、蒙昧愚昧の輩はいないかと存じますが」

 近侍は冷や汗をびっしりかきながら、必死に主張する。

「うん?」

 ミロは疑問に思う。

(何か俺の実力を見せたくない理由でもあるのか?)

 考えたものの彼はさっぱり分からなかった。

 分かるふりをする必要を感じない場面である。

 しかし、だからと言ってわからないから教えてくれと言う気分にもなれなかった。

「まあいいか。必要なら声をかけてくれ」

「は、はい!」

 ミロが返っていくと、近侍が皇王のところへ駈け込んで報告する。

「ほう。ミロスラフ様が……」

「帝国との微妙な関係くらいお気づきだと思っていたが、やはり貴族の中にも裏切り者がいるのだろうな」

 皇王と皇太子フーベルトゥースはそんな反応を示す。

「帝国とつながっている者の心を、圧倒的な力を見せつけてへし折られるのだろう」

 皇王は楽しそうに唇をゆがめる。

「楽しみですな。帝国への警告にもなりますし」

 フーベルトゥースはそう言った。

 ミロの超人的能力に屈服し、警戒することをやめ、その存在を受け入れた皇太子は晴れやかな顔である。

 敵に回ったらと考えるから恐ろしいのであり、敵ではないと思えば最強に心強い。

「ではミロスラフ様には示威をお願いするとしよう。できればほどほどで」

 皇王が笑うとフーベルトゥースも笑う。

「ほどほどでなければ皇宮あたりはあっさり消えてしまいそうですからな」

「まったくその通りだ」

 彼らが談笑できるのは、ミロはこの国を救うために現れた神の化身であると信じているからだ。

 だからミロがこの国にとって不利になることはしないだろうと思える。

(そんなに信じてもいいのかしら)

 と皇后だけは若干不安になったが、黙っていた。

 

 ミロは「魔法を見せてほしい」という願いを了承する。

「思えば魔法使いとしての力、あまり見せていないものな。少しくらいは見せてもいいだろう」

 彼の発言を聞いた使者はギョッとなった。

(力を見せていない!? 七大災龍を二体も倒してシモベにしているのに!?)

 まだまだ底を見せていないと言われると、戦慄するしかない。

(何をする気だ!? いったい何をする気なんだ!?)

 使者は恐怖を隠しながら退散し、皇宮へと駆け込む。

「陛下、殿下! ミロスラフ様は魔法使いとしての力を見せなかったから、少しは見せるとおっしゃっていますが!」

「ほう?」

 皇王と皇太子はそろって目を輝かせた。

「ミロスラフ様のお力、直接拝見するのは難しいと思っていたがわからないものだな」

 皇王は驚くどころか、うれしそうだった。

「問題は私たちで理解できるかどうかですな。ガイアモナークドラゴンを瞬殺した時も、何が何だかさっぱりわかりませんでしたから」

 皇太子はさわやかな笑顔で応じる。

「へ、陛下? 殿下?」

 使者はどうして二人が落ち着いているのか理解できない。

「なあに、あわてるな。ミロスラフ様がその気になれば、ガイアモナークドラゴンごとこの皇国は滅び去っていただろう」

 皇王はおそろしいことを微笑みながら言う。

「つまりミロスラフ様にそんな気はなく、我々は落ち着いてミロスラフ様の偉業を平伏して拝見すればよいということですね」

 皇太子は真理を語っている顔で応じる。

「は、はあ」

 使者はついていけないという顔をしたが、忠誠心でそれを抑え込む。

「陛下と殿下が心配はいらないとおっしゃるのでしたら……」

 そう言って下がっていった。

「本当に大丈夫なのだろうか?」

 という不安をこぼしながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] (o≧▽゜)つ★★★★★ 累計式の応援ボタンがあれば良いんですけどね。
[気になる点] これで終わり? [一言] 続きを希望します。
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