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雇用条件

「で、殿下、他の件はともかくメイドはどうするのですか!? あのような男の下で働きたいと思う女性など、いるとは思えませんが!?」


 臣下の一人の指摘にフーベルトゥースは言葉に笑う。


「メイド付きを要求してきたのは、国家のヒモ付きになることを受け入れるという意思表示だろう。警戒され監視されるのもやつの計算通りというわけだ。恐ろしい男よ」


 信頼できる人間をメイドとして紹介すると言えば聞こえはいいが、メイドは基本どこかの家や派閥に所属しているものだ。

 それを要求するということは、監視したり探ってもらってかまわないとミロは言ってみせたのである。

 そうやって皇国が要求を飲みやすくなり、警戒心も引き下げられるわけだ。

 おそらくドラゴンに乗りつけてきたのも計算だろうとフーベルトゥースは思う。


(いったいどれだけち密な計算をしているのか。だが、味方として得がたい存在だ)


 皇国に仕える意思があるのが本心であればいいと本気で考えていた。


「女は男などよりもはるかにしたたかで柔軟で豪胆だ。スカイエンペラードラゴンを使う男の嫁におさまりたいと願う猛者の一人や二人、探せば見つかるだろう。皇国は広いのだからな」


 皇国の女性は現実的で賢明で勇気も持っていると彼は本気で信じている。


「まあ、ミロスラフを操ってこの国を乗っ取ろうと企まれてはたまらないから、調査はしないといけないがな」


 ただし、信じすぎることもなかった。


「ミロスラフよ! 貴公の望みをかなえるためには準備が必要だ! 数日の猶予をもらいたい!」


 フーベルトゥースの言葉にミロは納得する。


(そりゃそうだよな。メイドつきの屋敷をよこせって言われても、急には無理だよな。管理ができてない屋敷とかもらっても困るわけだし)


 彼はそう解釈した。

 彼にとってメイドとは「家事をやってくれる近所のおばさん」である。

 上流階級のメイドがどういう存在なのか知っているはずもなかった。

 彼は平凡な魔法使いであり、上流階級とは無縁だったのだから。


「では三日ほど国外で待ちましょう」

 

 とミロが言ったのは手持ちの金がない上に、一文無しだという勇気がなかったせいである。

 これを聞いた皇国側は表情が変わった。


(外から皇国を見るということか!?)


(いざとなれば他国に行くという意思表示か!?)


 深く考えていないミロの言葉を深読みしすぎたのが原因だ。


「わかった。では三日後、再び皇都をたずねてきてくれ。名乗ってもらえれば、屋敷に案内してもらえるように手配しておく」


 皇太子の言葉にミロはうなずき、去っていく。


「油断も隙もならない男だな、ミロスラフというやつは」


 フーベルトゥースは冷や汗をかいた。

 

「やはりあの男が国外という言葉を使ったのは、けん制なのでしょうか」


「スカイエンペラードラゴンを連れて行けばどこの国でも雇ってくれるという自信の表れだろうな。年俸の具体的な要求をしてこないところも恐ろしい。こちらの言い値がわが国の器量そのものになり、ミロスラフは品定めができるというわけだ。どこまで恐ろしいやつ」


 フーベルトゥースはそう言い、ごくりと唾を飲み込む。


「そのような男を雇い入れなくても……計算高く、こちらを恫喝するような輩だなんて」


 群臣の一人が不満をこぼす。

 白いひげをたくわえた老人が皇太子よりも先にたしなめる。


「だが、あのような男が現れればすぐにうわさになるはずだ。それが何の情報もないということは、あの男が最初にわが国を選んだということだ。つまりあの男の期待に応えれば、あの男はこの国の雇われになるということではないのかな」


「じい」


 彼は太傅という皇族の教育係の男だった。


「しかし、スパイという可能性は」


「あれほどの男を卑しいスパイなどにできる国は存在しておらん。その心配はいらない」


 別の臣下の疑問をフーベルトゥースがつぶす。


「三日やる。大陸一の国家ならばこの程度解決してみせろと彼の課題だな。見事達成して、彼の雇い主にふさわしいと見せようじゃないか」


「殿下、楽しそうですね」


「主君に器量を求める有能な臣下というのは嫌いじゃないからな」


 太傅に対してフーベルトゥースは笑顔で答えた。


「ぐずぐずするな、時間はないぞ!」

 

 皇太子の命令で皇国の人間は緊張感をたもったまま動き出す。



 一方その頃、エアロはミロに疑問を投げていた。


「マスター、どうして三日と言ったのです?」


「水だけで何も食わなくても平気なのはそれが限界だから」


「は、はあ」


 エアロはいったいどのような高等ジョークなのだろうか、と悩む。


(絶対強者にとっては面白いのだろうか)


 だとすればまだ自分は未熟なのだと受け止める。

 ミロスラフは自分の真意を全員誤解しているとは夢にも思わず、空腹を抱えながら山に戻っていった。

 

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