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賢者はお見通し

 皇王はとまどったものの、ミロに会うことにした。

「いいんですか、陛下」

 皇后は不安そうだったが彼は笑う。

「治してくれるというなら断る道理はあるまい。それに一度見てみたいものだ。神話の英雄譚に出てくるほどの傑物と巡り会えるなど、望んでできることではないからな」

「はあ」

 

 皇王のほうに緊張感はなく、皇后はフーベルトゥースが少しかわいそうだなと思った。

 

「失礼します」

 彼のところにフーベルトゥースに連れられてミロが姿を現す。

(堂々としているな。意外なことに緊張しているように見えるが) 

 と皇帝は思った。

 ミロが緊張しているのは、本人にしてみれば意外でも何でもない。

 

「初めまして、陛下」

 ミロはぎこちなくあいさつをする。

「うむ。ベッドの上で失礼する。それで何でも私の病気を治してくれるとか?」

「はい。ただ見舞いの品を持ってこれなかったのですが」

 ミロが言うと皇王は笑い出し、皇后はあきれた。

「何の。この体を治してくれればそれは何にも勝る。よろしく頼むよ」

「はい。それでは」

 ミロは堂々と皇王の体を魔法で診断する。

(何だ、ただの過労か……何で皇王なのに過労が治らないんだろう?)

 ミロは不思議に思った。

 これがお金がなく医者にもかかれない貧しい平民であれば話はわかる。

 しかし、皇王ならば金はあるし名医の診察を受けることができ、滋養強壮にいい食事や薬をいくらでも用意ができるはずだ。

 

「病気じゃなくて過労ですね」

 ミロが正直に言うと、皇后・皇太子の表情が凍りつく。

 皇王だけは驚いてはいなかった。

「な、何を言うか、ミロスラフ。陛下はご病気で」

「いや、過労ですよ」

 ミロは何か失敗したかと思ったが、今さら意見を引っ込めるわけにもいかない。

「……そなたはすごいな。この場ではっきりと言ってしまうのか」

 皇王は感心したように言った。

(やばい、何かやらかした)

 ミロは後悔したがもう遅い。

 

(最悪エアロを呼んで逃げるか)

 ミロはそう考えた時、皇王が口を開く。

「ならば私を元気にしてみせてほしい。話はそれからだ」

「……<ポーション>はありますか?」

 ミロは皇太子にたずねる。

「もちろんあるが、まさかただの<ポーション>で治るわけが」

 フーベルトゥースは信じられないという顔をして答えた。 

(うん? 俺が出したほうがいいのか?)

 ミロはそう思いたまたま持っていた、というより入れっぱなしのまま忘れていた<ポーション>を取り出す。

「どうぞ」

 ミロが差し出したものを皇后が手に取り、心配そうな顔をして皇王に渡す。

「お、お待ちください。毒見をしなければ」

「ミロスラフ殿が私を毒殺するはずがない。彼ならば実力で我々を皆殺しにできる」

 近侍の一人のもっともな発言を、皇王はあっさりと切り捨てる。

 ポーションをぐいっと飲み干した。

「これでいいのか?」

「ええ」

 ミロは自信たっぷりである。

 

「たしかに倦怠感がとれてきたな」

 

 皇王の顔色がよくなってきて、皇后とフーベルトゥースは息をのむ。

「そんな、たかが<ポーション>を飲んだだけで……まさか!?」

「宮廷医め……」

 彼らは遅れて皇王と同じ結論に到達する。

「近衛兵! 宮廷医と宮廷薬師をひっとらえろ!」

「はっ!」

 外で待機していた近衛兵たちは理由もわからぬまま、皇太子の命令に従って飛び出していく。

 やがて喧騒が聞こえ、縄で縛り上げられた医師と薬師が連れてこられる。

「皇王陛下、皇太子殿下、いったい何事でしょう」

 医師は顔こそ青ざめているが、堂々とした態度だった。

「このミロスラフが陛下のお体を治した」

「えっ?」

 医師と薬師はぎょっとなる。

「ただの<ポーション>でだ。貴様らがその程度もわからなかったとは言わせんぞ」

「も、盲点でございました」

 薬師のほうは体を震わせながら弁明した。

 ミロは展開についていけず、そっと窓の外を見る。

 山の形をした雲が風で流れていく。

 あの形はまるで

「帝国」

 にある山脈のようだとミロは思う。

 彼のつぶやきを聞いた皇王と皇后は顔をしかめ、医師と薬師はぎょっとなる。

「帝国に買収されたのか、貴様ら!」

 皇太子の詰問に二人は必死に首を横に振った。

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