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何が狙いなのだ?

 ミロは呼ばれもせずに皇宮にやってきて、皇太子に面会を求める。


「は……? 少々お待ちを」


 相手はスカイエンペラードラゴンとガイアモナークドラゴンを従える、史上最強と目される無双の賢者だ。

 兵士たちは敬意とおそれを抱きながら彼をながめる。

 ミロは彼らの遠慮がちな視線に気づくほど敏感ではないが、彼らにはわからない。


(堂々としている)


(それにリラックスしている)


(さすが無双の賢者)


 前提があるせいか、兵士たちはミロの全身から大物のオーラが放たれていると感じている。

 ミロはただのんびり待っているだけでさらに誤解を加速させているとは気づかなかった。


「どうぞこちらへ」


 やってきた近侍に先導され、ミロは皇宮内に足を踏み入れる。

 通されたのは前回と同様、皇太子の執務室だった。


「何の御用かな?」


 中で待ち構えていたフーベルトゥースは、にこやかな顔をしながらも内心では警戒している。

 事前連絡も調整もなしにやってくる非常識さを糾弾してやりたいが、おそらくミロはすべてわかっているはずだ。

 

(指摘したところであざやかな切り返しのえじきになるに違いない)


 だから言わないほうがいいと彼は判断したのだ。

 

「陛下がご病気だとうかがったので。今まで知らず申し訳ないのですが」


 ミロが言うとフーベルトゥースは舌打ちする。


(しらじらしい! すべてを知っていたくせに!)


 だが言えなかった。


「それで? まさかお見舞いをしてくださると?」


「ええ。私に治せる病気であればとも思うのですが」


 ミロは遠慮がちに言う。

 まるで皇帝の病気を診るのは簡単ではないと思っているかのような態度だった。


(偽装態度が上手すぎる! 陛下の容態を治してさらに名声を高めようと思っているくせに!)


 これだけ巧みだとすると、本気で思っているのではないかとだまされてしまう貴族が出るかもしれない。


(なんていう男だ!)


 しかもミロは何も変なことを言っているわけではなく、断るのが難しい案件だった。


「わかった。診てもらおう。ただし陛下のご都合をうかがってからになる」


「ええ。もちろんです。ウィゴルの花でも持っていきますよ」


 ミロはそう言ったが、フーベルトゥースは怪訝に思う。


(ウィゴルの花? 見舞いの定番ではあるが、それで何をするつもりだ?)


 まさかこのミロにかぎって、見舞いの定番の花をただ持っていくだけということはあるまい。

 きっと何か深い目的があるはずだった。

 しかし、フーベルトゥースにはそれが分からない。

 

「では今日のところは帰ったほうがいいでしょうか。会えそうな気がするのですが」


 ミロの言葉にフーベルトゥースと側近たちは緊張する。


(陛下の病気はすぐに治すからさっさと診せろという圧力か!?)


 一見するとおだやかだ。

 しかし、ミロにかぎってただ残念がっているだけということはあるまい。


「殿下、どうしますか?」


「陛下の容態が少しでも早く快復すればよいのはたしかだ」


 近侍の問いにフーベルトゥースは苦々しい気持ちで答える。 

 だからこそミロは強気に出ているのだと彼は理解した。

 皇国は皇王が法と言える国家である。

 皇王のためになるのならばほとんどの無理難題がまかりとおってしまう。


(自分の力を誇示するためにごり押しか? いや、それだけじゃあるまい)


 何が狙いかわからずフーベルトゥースは苦しむが、決断を下すしかなかった。


「わかった。今からうかがいの使者を出す。しばらく待ってくれ」

 

 フーベルトゥースはそう言って近侍のひとりに命じた。

 近侍が下がって戻ってくるまでの間、部屋は重苦しい空気に包まれている。

 一人平然としているのはミロだけだ。


(くそ、鋼鉄の神経という表現はこのミロスラフのためにあるようだな!)


 フーベルトゥースはいまいましいと舌打ちする。


(まるで自分が何をやっているのかわかりませんと言わんばかりの態度をしおって)


 そこが余計に腹立たしい。


(ウィゴルの花を持ってくると言いつつ、今日これからでは持っていないではないか。このペテン師めが!)


 フーベルトゥースはミロを罵る。

 

 一方のミロは本当に何も気づいていなかった。

 ウィゴルの花を持ってきたいと言ったこともすでに忘れ、ぼんやりと立っている。


(こうしてのんびりするのはいいなぁ……まあ皇宮だと緊張しちゃうけど)

 

 本当は皇王に会うのも緊張するからいやだった。

 それでも言い出したのは、やはり病床にあると知って何かしたいと思ったからである。

 彼がフーベルトゥースの心情に気づけば「え、何で?」と思ったことだろう。

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