常識は強者が創る
ミロスラフは思った。
(何もすることがないな)
そのせいでヒマだと。
仕方なく窓から差し込む日光を浴びながらぼんやりとする。
今までは修行修行だったのだから、優雅に何もしない日というものがあってもよいはずだ。
ミロはそう自分に言い聞かせる。
考えてみれば、何度も死んで修行を頑張ってきたのは認められたかったからだ。
ひとまず目的は達したと言えるだろう。
元々の彼は勤勉な性格ではない。
精力的に働く必要がないならば、ちょっとくらいなまけてもいいかなと思う性格だった。
(それに俺の出番がないのはきっといいことなんだよ)
と解釈する。
昼寝でもしようと自室のベッドに戻って横になった。
それを見ていたポーラとエアロがこそこそと話し合う。
「ミロスラフ様は何をしていらっしゃるのでしょう? 一見ただダラダラしているようですけど、まさかミロスラフ様にかぎってそんなことないですよね」
ポーラの言葉にエアロはうなずく。
「当然だろう。マスターのことだ、サボっているだけと見せかけておそろしい作戦を練っているに違いない。あの方にとって作戦を練るのは呼吸にも等しいんだ」
「そ、そっかぁ……すごい!」
ポーラは感心している。
彼女を見てエアロは満足そうに目を細めた。
「マスターの偉大さがわかるとは、人間にしてはなかなかのやつ」
「ありがとうございます。……まさかスカイエンペラードラゴンさんとこうしてお話しすることになるだなんて」
ポーラは心底意外だと話す。
「ふっ……私も意外だった。だがそれもよしとしよう。マスターのご意志ならば!」
エアロは力強く言う。
「エアロ様、本当にミロスラフ様がお好きですね」
「ドラゴンは自らを圧倒する強者に敬服するものだ。私も例外じゃない」
ポーラの微笑ましそうな視線を彼は気にせず、胸を張って応える。
「マスターほどのお方と知り合えたのはわが生涯最大の幸運になるとみて間違いない。他のやつらにも自慢してやらねばなるまい」
エアロはうれしそう語った。
「ああ。ガイアモナークドラゴンがやってきたのはエアロ様が原因だったのですね」
ポーラが納得したようにポンと手を叩く。
「うむ。人間ごときに負けたとやつは怒っていたが、マスターの絶対的力の前に瞬殺よ。マスターこそが真の頂点だと思い知っただろう」
エアロは自分のことのように得意そうだった。
「そうですよね。ガイアモナークドラゴンを魔法使いが拳一発で勝っちゃうなんて、常識じゃありえないですもん。私も最初は耳を疑いましたよ」
ポーラがそう言うと、エアロは笑みを消して厳めしい表情を作る。
「まだ甘いぞ、ポーラとやら。常識や理とはわがマスターがお創りになるもの」
「そ、そうですね! 真の強者とは常識を創るもの……勉強になります」
ポーラは真剣な顔で何度もうなずいた。
「うむ。わかればいいのだ」
エアロが満足したのに対して、彼女は首をひねる。
「エアロ様がガイアモナークドラゴンを呼び寄せたのも、新しい常識のためなのでしょうか」
「いちいちマスターに報告していないが、必要ないだろう。あのお方は予知の一つや二つくらいたやすくおこなう。私が何をしようとも、すべてがマスターの手のひらの上ということだ」
エアロは笑顔で言い切った。
同時にポーラが拍手する。
彼女はすっかりミロに心酔していた。
だからこそエアロと仲良くなることができたのである。
共通点がなければ、七大災龍のスカイエンペラードラゴンと親しくなるのはポーラにとって難易度があまりにも高すぎた。
ミロがもしも彼らの会話を聞いていれば「エアロが原因かよ!?」と叫んだに違いない。
それに「勘違いしすぎ!」とも言っただろう。
だが、彼は今昼寝中である。
かわりに聞いてしまったメアリーがガタガタと震えていた。
(ス、スカイエンペラードラゴンが、ミロスラフ様の意思に沿うように動いている? もしそうだとしたら、これからどうなるの)
彼女は彼女で何か勘違いしていた。