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心配と困惑

「……はっ?」

 フーベルトゥースは報告を受け取った時、口と目を大きく開いてとても間が抜けた声を出した。

 実に皇太子らしくない態度だったが、たしなめる者はいなかった。

 他の者たちは全員凍り付いてしまったからだ。

「い、今、何と申した?」

 数秒後、フーベルトゥースは報告者に対してたずねる。

「は、はい。メヒティルト様の病が完治したもようです。ミロスラフ様が治したそうで」

 報告者は汗をかきながら真っ青な顔だった。

 彼自身が自分の言葉を信じていない様子である。

 <パラリューゼ病>という治療不可能と言われた病気が治ったというのだから、当然の態度だった。

 

「ば、馬鹿な……あの病、治せるのか?」

「は、はい」

 報告者は今一度最初から説明する。

「ミロスラフがつぶやいたものをエアロが採取に行き、それが治療に必要な素材だっただと?」

「ぐ、偶然でしょうか?」

 近臣の一人が聞くが、フーベルトゥースは力いっぱい否定した。

「そんなわけがあるか! すべてミロスラフの計算通りに決まっている!」

 彼は髪をかきむしりたくなったのを、ギリギリのところで思いとどまる。

「スネル討伐依頼をする前にハエとつぶやいたそうではないか!? そして今回メヒティルトに見舞いに行く時、病名を知らせていなかったのにもかかわらず、治療に必要な素材の名前をつぶやいたではないか!? こんな偶然があってたまるか!」

「お、おっしゃるとおりです」

 フーベルトゥースの剣幕におされながら近臣たちは相槌を打った。

 

「メヒティルトに会わせるのも奴の計算だったのか!? メヒティルトがこの国最大の知恵者だという話を知っている者はほとんどいないはずだが、それも予知か何かで見抜いたというのか!? どこまで恐ろしいのだ!?」

 とんでもない男を臣下にしてしまったと彼は思う。

「で、ですが、今のところすべて上手くいっております」

「その通りだ! だから恐ろしいのだ! それがわからんのか?」

 フーベルトゥースは近臣に話しかける。

  

「はあ?」

 近臣たちはピンと来なかったようだ。

 

(そうだ、何もかも上手くいっている。スネルは討伐され、メヒティルトは完治し、この国の課題が二つも消えたことになる。考えすぎなのか? いや、そんなはずがない)

 フーベルトゥースは脳内で忙しく自問自答をする。

 ミロスラフは強大な実力者だ。

 そして叡智に関しても並ぶ者がいそうにない。

 これは非常にまずい事態ではないのだろうかと思う。

 強大な武力と至高の頭脳がたった一人に集中している。

 そんな奇跡があり得るのかと思うのだが、現実に存在している以上仕方ない。

(いったい奴の狙いは何なのだろう? どんな目的があってこの国に仕えたのだろう?)

 おそらく敵国のスパイはない。

 以前指摘があったように、誰もミロスラフのことを制御する力はないからだ。

 

(ミロスラフという名前など、聞いたこともない。この国の生まれであればまだ理解できるのだが)

 フーベルトゥースは必死になっていた。

 大成したので生まれ故郷に帰り、そこで立身出世を求めるというのは昔からよくあることである。

 そういう人物はただ故郷で活躍したいと思っているだけなのだから、厚遇して実力を発揮させてやればよい。

 大切に遇して名誉を得る機会を与えてやれば彼に感謝し、忠誠を誓ってくれるだろう。

 だが、そうでない場合が恐ろしい。

 そんなことを心配する皇太子を、近臣たちは困惑した様子で見ていた。

(何を心配なさっているのだろう? 実力者がもっとも自分にふさわしい国に仕えたいのは不思議ではあるまいに)

 近臣たちはそう思う。 

 ミロがこの国を選んだのは、この国が一番の大国で条件もよいからだ。

 つまり一番いい条件を提示しているかぎり裏切られる心配もいらない。

 どうしてそれがわからないのか。

(皇太子殿下はそんな方だったか? もっと大らかで他者を信じられる方だったと思うが)

(しーっ)

 近臣たちは小声で話し合い、すぐに制止する。

 皇太子の人柄を臣下が疑うのは不敬だからだ。

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