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難病の治すのもすべて計画通り(震え声)

本日二回目の更新です

 ミロは翌日、皇太子に呼び出されていた。

「自由と言ったのに何度もすまない」

「別にいいですよ」

 彼は愛想笑いを浮かべて答える。

 一億ナグルはどう考えても高すぎる金額で、小市民根性の彼としては落ち着かない。

 仕事の依頼がマメに入ってくる方がよっぽど気楽だ。

 彼の笑みを見たフーベルトゥースは内心ギクリとする。

(ま、まさか私が依頼することを予想していたのか!?)

 予知魔法でも持っているならば、簡単だろう。

 ミロのすべてを悟っているかのような笑顔が恐ろしい。

 だが、今さら依頼をひっこめるわけにもいかない。

  

「貴公への依頼はザクセン公爵家令嬢のメヒティルトを見舞うことだ」

 奇妙な依頼である。

 なぜ病人への見舞いにわざわざミロスラフが指名されるのか。

 フーベルトゥースはどうせ見抜かれると思い、あえてもっともらしい理由をでっちあげなかった。

「わかりました。まいりましょう」

「そうか」

 即座に受け入れたミロに、フーベルトゥースは顔を引きつらせる。

(どうして理由を聞いてこない!? やはり何もかもお見通しだというわけか!?)

 叫びたくなるのをかろうじてこらえた。

 

「ではよろしく頼む」

 平静をよそおって送り出すことに成功したが、フーベルトゥースは自分の判断が正しかったのか疑いたくなる。

 

 ミロはそんなことを知らず、フーベルトゥースがつけてくれた案内役と御者役にしたがい皇家の紋章が入った白い馬車に乗り込んだ。

 当然という顔で横にエアロが座る。

「マスターの乗り物としてはふさわしくないような」

 彼は小声で言った。

 ミロに叱られたことを覚えていたせいだろう。

 

(ディエム・メヒティルトか)

 ディエムとは高貴な身分の独身女性につける敬称だ。

 皇族の血を引く公爵家で、難病にかかっているという。

 公爵家ならば皇宮の近くに邸宅をかまえているのが普通なのに、彼女だけは別の建物に住んでいるのだ。

 

(難病にかかった人間をうとむってところは、上流階級も同じなんだなあ)

 メヒティルトに同情する気持ちはあるが、彼女をうとむ連中には親近感を抱かなかった。

 窓の外をのぞくと、風に花が揺られている。

 

「ハイレンの花とマッセルの花か」

「はっ?」

 ミロのつぶやきを聞いたエアロは怪訝そうに聞き返す。

「いや、何でもない」

 ミロはそう言ったものの、エアロは納得しなかった。

(いや、そんなはずがない! マスターがおっしゃっることだ、きっと想像を絶する深い意味があるはずだっ!)

 

 彼は少し悩んだのち決断を下す。

「マスター、少し失礼します」

 エアロはそう言って姿を消した。

(瞬間移動か)

 人間の魔法使いにとって永遠のあこがれとも言うべき魔法である。

 膨大な魔力と複雑な演算処理能力を持った頭脳が必要で、今のところ人間にはできない神の御業だった。

(さすがドラゴンなのかな)

 ドラゴンは人間よりも魔力が豊富で、脳の構造も人とは違っている。

 ミロはそう思って「できるドラゴンだっているか」とだけ考えた。

 「七大災龍くらいしかできるドラゴンはいない」と指摘できる存在がいなかったせいである。

 ほどなくしてエアロは戻ってきたが、ミロはどこに行っていたのか聞かなかった。

(いちいち聞くなんて束縛しているみたいだもんな)

 と思う。

 手を貸してほしい時にいてくれるならば、それ以外の時は自由にしていい。

 なぜならばエアロに報酬を払えていないからである。

 馬車がついたのは周囲に人気がない地域にある白い壁と白い屋根の建物だった。

  

「こちらにございます」

 御者が門を開けると、家のドアが開いて四十歳くらいの茶髪でメイド服を着た女性が姿を見せる。

 

「初めまして。レイラと申します。メヒティルト様は二階でお待ちです」

 他に人はいないようで、寂しい空気に建物は包まれていた。

 狭い庭にしげっているのはミロが名前を知らない樹木である。

 階段をのぼって手前から二つめの部屋がメヒティルトの部屋だった。

 

「メヒティルト様、ミロスラフ様とエアロ様がおみえになりました」

 レイラが声をかけて部屋のドアを開く。

 中にいたのは十代の少女で、やせこけた姿が痛々しい。

「ようこそ」

「初めまして」

 ミロは彼なりに身分の高い女性に対する礼儀を守った。

「驚いていらっしゃるのね。わたくしが<パラリューゼ病>だとご存知じゃなかったのね」

「<パラリューゼ病>ですか」

 ミロは息をのむ。

「ええ、余命いくばくもないと思いますわ」

「そんな……」

 メヒティルトの言葉にレイラが声を詰まらせて涙ぐむ。

「それにしても<パラリューゼ病>とは……」

 ミロは実のところ過去にこの病気にかかったことがあった。

「私もかかったことがあり、ハイレンの花とマッセルの実と、トロープの葉を煎じて飲んだら治癒しましたよ」

 あの時のミロはヤケになっていて、どうせ転生できるのだからと適当なものを食べていたら偶然治ってしまったのである。

「はっ?」

 女性たちは何を言われたのかすぐには理解できなかった。

 頭脳は衰えていないはずのメヒティルトも、自分の頭がまったく動こうとしないことを実感する。

「なるほど、そういうことでしたか!」

 突然エアロがうれしそうに叫び、懐からハイレンの花とマッセルの花と実を取り出す。

「マスターがどうしてこれらのことをおっしゃったのが不思議でしたが、この女性の病を治すために必要だったからなのですね! さすがマスター、何もかもお見通しとは!」

「えっ?」

 女性たちは驚愕の声をあげたため、ミロの声はかき消された。

「この建物に生えていたのはトロープの樹木ですし、これですべての問題は解決ですね」

 エアロはとびきりの笑顔でミロに話しかける。

「……エアロもなかなかわかっているじゃないか」

 ミロは否定できなかった。

 ここで否定してしまうと、<パラリューゼ病>の治療法も信用をなくしそうだったからだ。

 メヒティルトのためにも今それは避けなければならない。

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