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ジエンの家系

本日2回目の更新です

風呂場は一階にあり、脱衣場だけでもミロがかつて生まれた庶民の家並みに広かった。

 

「失礼します」

 自分でローブを脱ごうとしたらポーラが脱がせてくれる。

「もしかして世話をしてくれるのか」

「はい。メイドの役目ですから」

 ポーラは緊張しているのか、白い頬がほんのり赤くなっていたが、その瞳にはたしかな使命感が燃えていた。

「わかった。じゃあ頼もう」

 ミロはそう言ってされるがままになる。

(美少女メイドに世話をされるって本当か!? すごいな上流階級!)

 興奮を出さないことに彼は相当努力しなければならなかった。

 人に奉仕してもらうのが当たり前など、庶民ではまずありえない。

 魔法の修業を頑張ってきてよかったとミロは感動する。

 いちいち感動していると低く見られてしまうのではないかという思いから、彼は表面上は当然という顔でポーラを受け入れる。

 彼女がメイド服を脱いで体をタオルで巻いても、根性を出して興味がないふりをした。

 浴場は見るからに上等そうな白い石が敷き詰められていて、浴槽は銀色に輝いている。

(は? 銀か何かを使っているのか?)

 銀を浴槽に使うという話は聞いた話がないため、おそらくは別の鉱物なのだろう。

  

「では失礼します」

 ポーラはそう言うとお湯をくんでミロにかけてくれる。

 彼女の胸は意外と大きいらしいと気づき、ミロは素早く目をそらす。

 

(じろじろ見るのはセクハラだからな!)

 紳士としてのマナーを守らなければいけないと自分の理性を叱咤する。

 

「痛かったらおっしゃってくださいね。何しろ不慣れなもので」

 ポーラはそう言った。

 緊張しているのは単に性格や、相手が男だからというだけではないらしい。

「ああ。今のところ気持ちいいよ」

「そうですか? ありがとうございます」

 ポーラはほめられたのがうれしかったのか、パッと笑顔になる。

 野に咲いた花のように可憐だった。

 黙って奉仕されているのも退屈であるため、ミロは彼女に話しかけてみる。

「ポーラはやっぱり上流階級の出身なのかい?」

「いえ、私は貴族に仕える一族出身でして」

 ポーラは首を横にふり、簡単に説明してくれた。

「皇族や大貴族ですとたしかに他の貴族を執事やメイドとして雇うのですが、下級貴族にそんな力はないのです」

 いいところ出身となると相応の俸給を払わなければならない。

「俸給を出せないとあそこの家は力がないと貴族社会に広まってしまい、孤立してしまいますから」

 貴族にとって最も恐ろしいことの一つが、貴族社会で信用を失うことだ。

 それを防ぐため、家の力を誇示するために何人もの使用人を雇って高い俸給を払う家が少なくないという。

「それでも下級貴族も貴族のような暮らしをするために、使用人を雇う必要があります。そういう家のために存在するのが我々のような立場、ジエンと呼ばれる家系なのです」

 ジエンとは皇国の言葉で「奉仕一族」という意味だ。

「分類するなら鍛冶職人や宮廷料理人と同じく職業なのですけどね。しっかり勤めていれば、貴族に仕官できるので悪くはないです」

 給料も庶民と比べていい方だし、貴族からの信頼がなければ務まらないということは社会的信頼があるということである。

「なるほど」

 ミロはそう言ったが、なぜ彼女が自分のメイドに配属されたのはなぜだろうと思う。

(貴族のメイドを送り込むほどじゃないのかな? まあどこの馬の骨かわからん男に大国の貴族が寄ってくるはずもないか)

 彼が知る貴族とはとにかく偉そうな生き物だった。

 フーベルトゥースやハイルのような人物は例外である。

「いやでなければこれからもよろしく頼む」

「はい!」

 ポーラはうれしそうにうなずく。

 緊張がほぐれてきたのか、余計な力が体から抜けているようだった。


「ポーラは上手くやっているだろうか」

 フーベルトゥースは不安そうにつぶやく。

「心配でしたら他のメイドを送ればよかったでしょうに」

 近臣の一人がそう言うと、彼は苦笑いする。

「実力や家柄で言えばポーラより上はいる。だが、そいつらは全員が実家のヒモ付きだ。色仕掛けでミロスラフを篭絡してこいと命令が出たメイドと出ていないメイド、どうやって見分ける?」

「そ、それは……」

 近臣たちは皇太子の真意を理解した。

 スカイエンペラードラゴンに乗ってやってきた魔法使いの存在は、あっという間に貴族たちに広まり、多くの野心の炎を激しく燃え上がらせている。

 ミロスラフとエアロを取り込むことができれば、絶対的だと思われていた皇族の支配体制を簡単に揺るがすことができるからだ。

 だからフーベルトゥースは母親同然の存在で裏切られる心配がないメアリーと、貴族とは無関係なジエンの一族から経験の浅い少女を選んだのである。

 ミロスラフがまったく気づいていないところで暗闘ははじまっているのだった。


「ポーラという娘の家はジエンでしょう? では親しい貴族の命令には逆らえないのでは?」

「それはない。ポーラは一人娘で両親は病に倒れて多額の薬代がかかる。ミロスラフのメイドをきちんと務めているかぎり、両親の面倒を見ると約束している。孝行娘と評判の彼女が私を裏切ったりしないだろう」


 フーベルトゥースの手腕に近臣たちは感心したが、本人はあまりうれしくない。

 これからもミロスラフ絡みの騒動が大量に発生するだろうと予想ができてしまうからだ。


(メアリーとポーラだけでは無理かもしれない。あいつに相談するか。……不本意だが)


 フーベルトゥースはとある親族を脳内に浮かべる。

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