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何も考えてないのはひとりだけ

 何度も呼び出すわけにはいかないとのことで、ハイルが再び使者となって条件面をミロに伝えた。

(い、一億ナグル!? それに自由に冒険して金を稼いでいい!? 禁止指定以外の副業許可!? 何だこれ!? 神かよ!?)

 ミロは目と心臓が床に落ちるのではないかと本気で思うレベルで驚愕する。

 表情があらわになりにくいタイプでよかったと数秒後、少し冷静になって感謝した。

「いかがでしょうか?」

 ハイルは黙っているミロに対して不安を隠しきれなくなる。

 

(ミロスラフ様ほどの魔法使いなら、もう少しいい条件を出す国だってあるかもしれない)

 

 拒否してもっと要求する資格は持っている相手だけに、皇国も強気にはなれなかった。

「かまわない。この条件で頼もう」

 ミロはできるだけ平静をよそおって回答する。

(あー、皇国を選んでよかったわ。さすが大国。こんな条件、他国じゃまず無理だろうな)

 自分の判断は正しかったと喜ぶ。

(ふう。皇国を選んでくださってよかった。帝国など、皇国を攻め落とせば皇国の財貨と領土を切り取り放題、というおそろしい条件を提示してきた可能性が高いからな)

 ハイルは皇太子の予想が間違っているとは思えない。

 そうなったら当然皇国は滅亡だ。

 男は殺されるか過酷な労働をさせるための人員として連れ去られ、女は売られるか強制的に愛人にされるか。

 そんな最悪の絶望という未来を回避できたのだから、ハイルが喜ぶのは当然だった。

 

(ミロスラフ様が無欲な人柄で助かった)

 ハイルが去って行ったあと、エアロがたずねる。

「マスターが皇国をお望みだったのは存じておりますが、他国の条件を確認してからでもよかったのでは?」

 ミロスラフは世界最強で並び立つものがいないのだから、当然それにふさわしい条件であるべきで、いろんな国家の条件を見ればよい。

 エアロはそう言ったのだ。

「あわてるな」

 ミロはそう答える。

 

(そういう話はメイドたちがいるところでするべきじゃないだろ)

 と思うからだ。

 エアロはどうも自分を崇拝してくれているようだし、皇国に所属しているわけではない。

 だから遠慮なく本心を打ち明けることもできるが、この場にはメアリーとポーラもいるのだ。

 彼女たちはどう考えても皇国側の人間で、皇国を見捨てる意思を見せたりすれば悲しく思うだろう。

(せっかく俺の屋敷で働いてくれるんだから、悲しい思いや不快な気持ちにはさせたくないんだよな)

 それがミロなりの気遣いだった。

 一方でメアリーは表情をくもらせる。

 それは一瞬にも満たないわずかな時間で、ミロたちは気づかなかった。

「とりあえず今日はのんびりさせてもらおう。風呂は入れるか?」

「は、はい。すぐに用意いたします」

 ミロの問いにポーラがあせったように早歩きで出ていく。

「エアロは適当に過ごしていてくれ。何なら自分のすみかに帰ってもいいぞ」

 少なくとも屋敷で過ごすかぎり、ドラゴンが必要な事態にはならないだろう。

 ミロはそう思うのだが、エアロは首を縦にふらない。

「そ、そんな! ぜひともこの屋敷でマスターにお仕えさせていただきたく存じます!」

 エアロが明らかに動揺し、必死に頼み込んできたためミロは許すことにした。

「まあ人間形態なら邪魔にはならないしな。メイドたちも食事の世話をしなくていいし」

 ミロに仕えるのにエアロの世話までさせるのはどうなのだろうと彼は思うのだ。

 

「私、本当にメイド以下の扱いなんですか?」

 エアロはちょっと悲しそうだったが、ミロは尊大なところがあるペットにはこれくらいでちょうどいいと判断する。

「私に仕えたいなら、私に仕える人たちに迷惑をかけるなよ」

「は、はい。肝に銘じます」

 エアロがうなずくのを見て、ミロは念を押しておいてよかったと思った。

 

「ご主人様、お風呂の準備が整いました」

 ポーラが戻ってきて伝えると、ミロは立ち上がる。

「エアロに適当な部屋をあてがってやってくれ」

「かしこまりました」

 メアリーはエアロをうながして部屋から出ていく。

 ミロはポーラに案内されて風呂へと向かった。

 エアロを部屋に案内したあと、メアリーは通信アイテムを取り出して皇太子に連絡を取る。

「エアロ様が他国の条件を見てからとおっしゃったとき、ミロスラフ様はあわてるなと答えていらっしゃいました」

「……そうか。いったいどんな意図があるのだろう。きっと我々には計り知れない考えがあると思うのだが」

 ミロが何にも考えていないとは夢にも思わず、フーベルトゥースは考え込む。

「よく知らせてくれた。これからも頼む」

「はい」

 だからこそ自分は送り込まれたのだとメアリーは返事をする。

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