無敵となった男
ミロスラフは本来平凡な魔法使いだったが、生前の実力を引き継いで転生できる固有能力持ちだった。
最初は取り柄の人生から解放されないのがいやだったのだが、何度死んでも転生してしまうのであきめた。
「知識、経験を引き継いで転生をくり返せるなら、そのうち最強になれるんじゃないか?」
そしてひらめく。
「せっかくだから世界最強になりたいな」
そう思って修行をはじめた。
「ファイア」
ポンと手のひらサイズの火の玉が出た。
平凡な出来でしかない。
一流の魔法使いならば、成人男性の頭部くらいの大きさを出せる。
「ダメだな」
ミロは転生したばかりで、前世の限界がこれくらいだった。
このまま何年も修行していけば、多少はマシになるだろう。
「ファイア」
三回くらい転生した結果、手のひらサイズの三倍くらいの大きさの火の玉を出せた。
けっこう強くなれたとミロは思う。
あと何回かくり返せば、一流魔法使いに近づけるはずだった。
「世界を滅ぼすドラゴンを追い払ったという神話の魔法使いは無理だろうけど」
とつぶやく。
七大災龍は一頭で国を滅ぼすとか世界を滅ぼすとか言われている怪物だ。
かつてその一頭が攻めてきた時、たくさんの国家が滅びながらも、魔法使いが団結して追い払ったという。
その偉業が語り継がれているからこそ、ミロをはじめ多くの人間が魔法使いを目指した。
「いつか近づきたいな」
ミロはそう思った。
そしてさらに何度も転生した何度も転生した結果、世界の生命全てが束になってかかっても勝てないほどの強さを手にしていた。
「ファイア」
ミロが魔法を唱えると神々しく輝く金色の炎が出現する。
「だいぶ強くなれたみたいだし、そろそろ町に降りてみるかな」
ミロスラフはぽつりとつぶやく。
彼は山に引きこもってひたすら修行を続けていた。
それは自分が生前の実力を引き継いだ状態で転生でき、しかも修行すればさらに成長できると気づいたからである。
何度も生まれ変わって修行していれば、指をくわえて羨望の目で見ていた英雄たちのような強さに届くかもしれない。
そう考えて転生するたびに引きこもって修行してた彼は、かつての憧れの存在たちをとっくに抜き去っている自覚を持っていなかった。
(あと何回転生できるかわからないからな。一度どれくらい強くなったのか試しておきたい)
ミロスラフの夢は魔法使いとして成功することである。
別に英雄願望を持っているわけではないが、ひとかどの存在になれたらいいなとは思った。
彼が馬鹿正直に歩いていくつもりにはなれず、浮遊魔法を使って飛んでいくと、途中で緑の鱗を持ったドラゴンと激突してしまう。
彼の知識ではウィンドドラゴンのはずだった。
「ぐふっ」
ちゃんと魔法を使っていたミロスラフは痛くなく、自分の失敗を反省しただけだったが、ドラゴンは違った。
「ぐぐぐ……」
痛そうにうめいてふらふらと地上に不時着したのである。
ミロスラフは責任を感じて近くに降り立つと、ウィンドドラゴンは青い瞳を向けながら人語をしゃべった。
「お、おそれ入りました。降参します。あなたに従います」
若い男のような声だった。
ドラゴンが人語を話せるのは意外でもないが、この申し出はミロスラフにとって想定外である。
「あ、いや……」
断ろうとして彼は迷った。
ドラゴンは条件を満たせた従ってくれるというのは、いつか耳にしたことがあるエピソードだ。
それが現実になるのは驚きだが、別に悪いことではない気がする。
ドラゴンを使役できる存在というのは、大物というのが相場だ。
(ドラゴンを従えていれば、仕事がもらいやすくなるかもしれないし)
小市民感覚が抜けていないミロスラフは、そのようなことを考える。
つまりドラゴンを使って就職活動を有利にしようと思ったのだ。
「名前を与えよう。君の名前はエアロだ」
「了解しました。これからはエアロと名乗ります。マスター。マスターのご尊名をうかがっても?」
「ミロスラフだ。長いしミロでいい」
ミロスラフは深く考えずに答える。
「はい。ただ、マスターとお呼びしようと思います」
エアロはそう答えると人間の姿になった。
緑色の髪に緑色の瞳、緑色の服にズボンと靴。
そして色白の肌を持つ二十歳くらいの美青年である。
「それが人間の姿か」
「はい。これから精いっぱいお仕えいたします」
礼がぎこちないのは人の作法を詳しくないからだろう。
ミロ自身うとい自覚があったため、流すことにする。
「せっかくドラゴンを手に入れたのに、いきなり人間になるとは。ドラゴンの姿で頼みたい」
「はっ……?」
エアロは大きく目を見開く。
よほど驚いたらしいが、ミロは気にしなかった。
「よろしいのでしょうか? 私がドラゴンの姿で動くと、人間たちによからぬ混乱をもたらし、マスターにご迷惑になるのではないでしょうか?」
「気にしなくていいさ」
ミロは鷹揚に応える。
(だって俺に知り合いはいないからな。魔法使いの力をアピールするためには、多少強引な手を使ってでも目立たなきゃダメなんだ)
と思うからだ。
コネもツテも知名度もない魔法使いの悲しい現実を、ミロは知っている。
エアロはその対策として有用のはずだった。
ドラゴンが出たら騒ぎになるだろうが、人と主従関係だと知られれば問題にならない。
前例はいくつもあるからだ。
注意をされて終わりのはずである。
「マスターがそうおっしゃるのならば」
エアロは何やら感動した様子で、人化を解いて再びドラゴンの姿に戻った。
「どちらに向かいましょうか?」
「どうせなら都がいいな。この大陸で一番大きな国の都。わかるか?」
「はい。ナグルファル皇国と人間が呼ぶ国になるかと。私が飛べば、七分ほどで着きます」
エアロの返答にミロは満足する。
(ナグルファル……知らない名前だな。新しい国が興ったのかな)
それでも大きな変化はないだろうとタカをくくり、彼はシモベに命令した。
「ではそこまで運んでくれ」
「はっ」
エアロはミロを背に乗せると、力強くはばたき目的地へ一直線に飛行する。
(おお、速い!)
景色が全く見えないその速さにミロは大満足だった。
彼らはともかく、仰天したのはナグルファル皇国である。
「た、大変です! ドラゴンです! 七大災龍のスカイエンペラードラゴンが! わが国の空を飛んでおります!」
「おそらく目的は皇都ナグルグラーフです!」
通信アイテムによって悲鳴まじりの報告が飛び、皇国はパニックが起こっていた。
エアロの正体は風系ドラゴンの規格外種、スカイエンペラードラゴン。
怒らせれば大陸が跡形もなく滅ぼされると恐怖される七大災龍の一角だった。