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最強の少年、海を渡る  作者: silver
8/20

自由とは?

「失礼します…。」


「おう、じゃあこっち来い。」


 職員室に入ると、直ぐ様先生に隣の生活指導室なる部屋へと通される。あれ?生活指導室って問題を起こした生徒を指導する部屋だったよな?呼び出されたのってやっぱ朝の問題行動が原因?



 部屋に入ると、先生は鍵を閉め、ジ~ッと俺の事を睨んで来た。………嘘、襲われないよね?


「…お前、やっぱ俺の事覚えてねぇか?」


 先生は俺から目を逸らして椅子に座ると、開口一番意味不明な事を聞いて来た。…うん、覚えてませんよ?


「まぁ、お前あん時まだ2〜3歳位だったからな。俺はお前の親父、イサミチとは”親友”だ。」


 ええ!?あの親父と!?歳が上でも下でも偉そうな態度を変えない親父に、親友!?


「驚いてるみたいだな。何を隠そう、牙狼は俺とイサミチで立ち上げたんだぜ?」


「牙狼を立ち上げた…って、それが本当なら、何でこんな所で教師なんかしてんだ?」


「ん?まぁ…色々あったんだよ。で、イサミチが息子に外の世界を見せてやりたいって言うから、俺が面倒見る事になったんだ。」


 なるほど。おかげで俺はこんな遠路遥々海を渡ってサンドラ王国まで来にゃならんかったのか…と、ついこの間までの俺ならこのオッサンにキレてた所だが、今の俺は色んな出会いから心が満ち足りている。だから感謝しておこう。


「そりゃまぁ…ありがとうございます。」


「へっ、その様子だと今の所はまぁまぁ楽しんでるみてぇじゃねぇか。…でだ。おめぇ、早速勇者と揉めたらしいじゃねぇか?」


 お、遂に本題かな?



「まあ、イサミチもおめぇにゃ自由にして欲しいって言ってたがなぁ…。だが、牙狼の隊長で、しかもあのエメリヤーエンコ・ゴルバチョフをタイマンでぶっ倒す様な奴に好き勝手やられたら、この国のパワーバランスが崩れちまうから忠告だけはしとこうと思ってな。」


「あれは運が良かっただけだって。実際死ぬかと思ったし。それに俺なんて隊長の中のじゃあぺーぺーなんだから。」


 実際、最後は意識が無かったし。


「馬鹿野郎。ゴルバチョフは運が良けりゃ勝てる様な相手じゃねーわ。それにな、牙狼の隊長クラスなんてのは、他の国にしたら超VIP待遇で迎え入れたい程の規格外なんだよ。まずはそこん所よーく覚えとけ。」


 んな事言われたってなぁ〜。牙狼にはトシ兄やソージ、他の隊長も含め、俺より強い奴ばっかなんだぜ?


「まぁ、牙狼にゃタイマン不敗の教えがある事は俺も知ってる…つーか、あれは俺が冗談で作ったんだが、トシの奴が気に入っちまってなぁ。」


 あんたが作ったんかい!負けた後のトシ兄による訓練と言う名の拷問は今思い出しても寒気がするわ!



「ま、負けない程度にやれって事だ。絶対本気になんかなるんじゃねーぞ?あと、牙狼の隊員だって事も絶対秘密だ。知られた時点でお前は平穏になんて暮らせなくなるからな。」


「牙狼ってそんなに有名なの?確かに強いよ?常勝無敗だし、どんな組織とでも負けないだけの力はあるけど、この国からしたらただの遥か東の傭兵団だろ?」


「……はぁ、さっきも言っただろ?牙狼の伝説はこっちの大陸にも轟いてんだよ実際お前が正式に入隊が認められる前にはこの大陸にも傭兵として来た事があるし、味方につける事が出来ればどんな不利な戦争にも勝利できる有名なんだ。そんな傭兵団は他にはねーんだよ。しかも、金で動く組織じゃねぇ。となれば、牙狼の隊員と少しでも縁を作っておきたいと思う国や組織は山ほどいるんだ。」


 なるほど…やっぱ、牙狼って凄かったんだな…。トシ兄にしてもソージにしても一騎当千を地で行ってるし、隠密部隊の八番隊隊長の『ヘースケ・トード』さんなんか、隠密行動されたら見つけ出すのは不可能って感じの化け物だったし。



「分かったよ。ムカつく奴は適度にぶっ飛ばす事にするよ。牙狼の名前は出さないでね。」


「おう、分かりゃあ良いんだよ。学園生活に関しては俺の力の及ぶ範囲内なら何とかしてやる。実技・模擬戦の授業に能力鑑定なんかは俺が上手くやってやる。ただ、学業の方は自力でなんとかしろよ?」


 …出来れば勉強の方を何とかして欲しかった…。



「で、傭兵ギルドのロビンは俺の愛弟子だ。ギルドの依頼をこなせばお前懐も暖かくなるし、ロビンも助かるだろうから、たまには顔出してやれ。」


「え?あのロビンさんって先生の弟子なの!?」


「そうだよ。女としてはこの国でも最強の一人なんだぜ。…変な気起こすんじゃねえぞ?」


 途端に殺気が漏れる。俺がビビる程の殺気って…やっぱこの人只者じゃねーな。


「わ、分かってますって!確かにロビンさんは魅力的だけど…俺みたいなガキは相手にしてくれないって。」


「はっはっは!そうだ、良い事を教えてやる。この国の男で一番モテるポイントはな…”強さ”だ。強ければ強い程それに見合った権力を手に入れる事が出来るし、金を稼ぐ手段も多くなる。でもまあ、お前は本来の実力を隠さなければならない立場だから、上手くやればやる程モテる事は無くなるだろうがな。」


 …そんな。強さだけがアイデンティティーの俺にとっては絶望的な話じゃないか…。


「お前…感情が顔に出まくりだな。そんなんじゃ牙狼の隊長失格だぞ?」


 あれ?それ、ロルシーにも言われたな…。俺はどちらかと云うとポーカーフェイスで通してたつもりなんだけど…。



「まぁいい。お前くらいの年齢で達観されてても面白くねえからな。じゃ、お前も気を付けて行動しろ。じゃ、帰って良いぞ〜。」


「了解。じゃあね、"ケースケ"先生。」


 牙狼では、仲間はファーストネームで呼ぶ。それに気づいたケースケさんがニヤリとしたのを目にし、指導室を後にした。



 職員室を出る。やっぱり本気を出すのはマズイ事を再認識したなぁ。下手に目を付けられたら親父に迷惑がかかる…ケースケ先生はそれを俺に言いたかったんだろう。


 誰が親父に迷惑なんか掛けるかよ。誰が家族(牙狼)に迷惑なんか掛けるかよ。


 自由ってのは何したって良いって意味じゃねーんだろ?分かってるよ…ちゃんと。それを踏まえて俺は三年間、数ある不自由を何とかして自由に生きる為に努力しよう!



 教室に戻ると、既に誰もいない。皆帰ったようだ。さて、校門でロルシーとユリアが待ってるハズだし、急いで行こうかな。



 教室を出ると、俺を見て笑みを送ってくるイケメンがいた。……なんだコイツ?


「よう、東洋人。」


 どうやら俺を待っていた様だが、コイツは確か…騎士団長の息子ジークだったか?ジークはワイルドな緑髪で、体つきもガッチリしている。



「……何か用?俺、人を待たせてるんだけど。」


「王女と聖女だろ?入学式早々モテモテで羨ましいね〜。」


「…他の奴らにはそれ以上に嫌われちまったけどな。」


「何言ってんだよ。あんな美少女二人と仲良く出来るんなら、俺は周り全員敵に回したって本望だぜ?」

 

 言ってる事はアホらしいが、顔が整ってるのでアホらしく見えない。イケメンは得だなあ。



「あっそ。じゃあまた明日。」


「ちょっ、待て待て。リョーマ、俺と”友達”になってくれよ!」


 ”友達”のワードに思わず振り返る。見るからにイケメンがドヤ顔をしていた。


「…は?俺は既に嫌われ者に認定されてんだぞ?俺と友達になんてなってお前に何の得があんだよ?」


「友達になりたいと思う事に理屈なんてないだろ?」


 …あれ?カッコイイ。なんか、俺、コイツと仲良く出来そうだな。



「なんて言うと思ったか!」


 そう言い残し、俺はその場を去ろうとする。美少女二人と仲良く出来るんなら周り全員敵に回すと云うお前の考えを実践するのは俺だけだ!



「なんて?って何?ちょ、待て待て、ちょっと待ってくれ!」


「もう、何だよ?俺は急いでんの!」


「ディーノとの件、実は俺も見てたんだよ。で、俺はお前に興味を持った。”勇者を圧倒する強さを秘めてる”お前に。」


 ……何?あの一瞬で、俺の実力を見抜いただと?


「あの場にはマイルもいたし、分かる奴には分かったと思うぜ?勇者がビビって無抵抗なお前を攻撃した事。」


 どうする?惚けるか?…いや、俺が自由に生きる為には、やっぱりある程度の力は必要だ。弱者を演じるのは牙狼の教えに反する事になるし、何より俺が御免だからな。


「…なるほど。その通りだよ、あのクソ勇者、折角俺が止めてやったのに平気で俺をぶん殴りやがった。」


「ハハッ、クソ勇者か、同感だ。俺もあの勘違い野郎はどうも好きになれなくてな…イケメンだし。」


 なんか、その言い方だと俺がイケメンじゃないみたいに聞こえるな?…ハイ、その通りですけどね。



「という訳で、友達になってくれよ。お前と一緒だと退屈しなさそうだ。」


 そう言って爽やかな笑みを浮かべながら握手を求めてくるジーク。何コイツ?自分だって充分イケメンじゃない!?



「と、特別だからな?あんま馴れ馴れしくすんなよ。」


 …思わずツンデレる。だって、本心では友達は欲しいし…。


「ハハッ宜しくな、リョーマ。じゃ、早速王女と聖女の所へ急ごうぜ!」



 こうして、俺に初めての友人が出来た。彼女が欲しいのは当然だが、やっぱり友達がいた方が楽しいもんな。


 …あれ?でも、もしかしてロルシーやユリアの輪の中に入る為の口実にされた感があるんだけど………。

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