名も知らぬ女の子との再会
入学式が終わり、それぞれのクラスに移動する。
その間、ヒソヒソと俺の事を噂しているのが耳に入って来た。
内容的には、一般人のクセに勇者に楯突いた愚か者や、アッサリやられた口だけ男などなど…昨日までの俺だったら泣きそうになる所だったが、今、俺の隣にはロルシーと云う最高の味方がいる。ロルシーは俺の噂をしている奴を捕まえては、優しく誤解を解いてくれているのだ。マジ天使!
で、改めて分かった事だが、ロルシーってディーノ並みに周りからは崇拝されてるんじゃね?ロルシーに注意されると、注意された奴は急にヘコヘコして俺に謝ってくるし。
「一応聖女として認知されてますからね…。多分そのおかげでしょう。」
だが、そのおかげか、なんで聖女が東洋人なんかを庇うんだとか、東洋人生意気、羨ましい、死ね、などなど…ある意味先程までより酷い陰口を叩かれる始末…。うん、今日は帰ったら枕を濡らそう。
教室に入ると既に席は決まっており、俺の席は窓際の一番後ろ。最高の席ゲットだぜ!で…ロルシーは一つ前の席なのだ!イエス!神様仏様!
そんな感じで席に座ったのだが、やはり俺に対する何人かのクラスメートの視線は蔑んでる様に見える。ロルシーがいるからあから様にはして来ないが、気分の良いものでは無い。
どうしたらこの嫌われ地獄から抜け出せるかな〜。当初はムカついたら即効で止めてやろうとも考えていたが、ロルシーに出会ってしまった今、三年間はヒノモトに帰るつもりは無くなった。だったら、出来るだけ周りとも仲良くして過ごし易い環境を整えたい所なのだが…。
「キャアアア!」
「勇者様よ!本当に同じクラスなのね!!」
教室に黄色い歓声が響き渡る。来たか…ディーノ。
ディーノは俺を見付けると、一瞬苦々しい顔をしたが、直ぐ様スマイルを浮かべて女性徒な愛想を振り撒いてる。殴られた恨みはあるが、向こうから関わって来なければ無視しよう。関わっても俺が悪者になるだけだし。
「あ!ジーン様!」
「ジーン様まで同じクラスなんて…!」
緑色の髪をしたワイルド系な男子に、またも教室内に黄色い悲鳴が鳴り響く。コイツがジーク・カルバンか…。
「よう、ディーノ。まさかお前と同じクラスとはな。」
「光栄だよ、ジーン。僕と同等の実力者は君とマイル位だから、一緒のクラスで良かったよ。」
「ま、マイルと同じクラスじゃ無かっただけでも良しとするか。」
「……だね。」
ディーノとジークが親しそうに会話をしている。同世代の実力者同士だし、昔からの交流もあるだろうからな。
そして、ローブで顔は見えないものの、一際異様雰囲気を纏った小柄な少女が教室に入ってくると、教室内が少しだけ静かになった。…あれが天才魔術師ネメシス・ロンダリングか。このクラス、やっぱレベル高ぇんだな。
取り敢えず有名人なんかとは親しくなりたくないな~…なんて窓の外を見ながら考えていると、教室が水を打った様に静まり返る…。気になって振り向くと、王女ユリア・ヴァルデモードと赤髪の女の子が教室に入って来た…。
途端に生徒達が頭を下げる。やっぱり王族とあれば気を使うよな〜、迷惑な話だ。
「皆さん、顔を上げて下さい。私は一学生としてこの学園に入学したのです。今後三年間、私は皆さんと同じ立場です。だから、普通に接して下さいね。」
王女のオーラを漂わせつつ、最後に笑みを浮かべる。ようやくまともに姿を見たが、メッチャクチャ綺麗だ…。絹の様に輝くブロンドのロングヘアーが眩しい。ロルシーとはタイプが違うが、間違いなく学園トップクラスだろう。こりゃ国中で人気があるのも頷けるな。
そんな誰もが委縮する中、ディーノが笑みを浮かべて王女に声を掛けた。
「お久し振りです、ユリア様。」
「様はいりませんよ?ディーノ"君"。」
王女が”君”を強調する。本当に同等の学生でいたいと云う表れだろう。ディーノも苦笑いをしている。
「いやぁ、流石に王女を呼び捨てにするのは無理ですから…ユリアさん…で良いですか?」
「良いですよ。それに、出来れば敬語も止めて下さいね。」
そう言ってニッコリと笑う王女。笑うと幼く見えるな…てゆーか、なんか見覚えがあるような……。
王女はその後もクラスメートと挨拶を交わしながら、ロルシーの元へやって来た。
「ロルシー、貴女もこのクラスなのですね?知り合いがいて良かったわ。」
「お久し振りです、ユリア様…いえ、ユリアちゃんの方がいいかな?」
ほう、聖女だけあってロルシーは王女とも面識があったんだな。王女の口調が少しだけ親しみを込めたものに変わった。取り敢えず、俺は関わりあいになりたくないので窓の外を眺めてやり過ごそう。
「それにしても、ユリアちゃんはなんで学園に入学したの?王女って城内でも最高の教育を受けられますよね?」
「そうですね…私は、この国の王族としてもっと多くの人と触れ合いたいんですよ。民の思いを知る事こそ、この国の舵取りを担う王族としての責務ですからね。」
立派だねぇ。でも、俺は聞き逃さなかった。一瞬にいる赤髪の女の子、多分従者なんだろうが、小声で「…よく言うわ。」と呟いた事を。ん?この赤髪の子も何処かで見覚えが…。
「あ、紹介しますね、ユリアちゃん。リョーマ君…」
うわっ、余計なお世話だよロルシー!俺はあまり目立つ事は避けたいのに…でも、ここで無視するのは無理だろうから、軽く挨拶だけ済ませとこう。後は極力関わらない方向で。
「あら、東洋の方なのね?ようこそサンドラ王国へお越しくださいました。ユリア・ヴァルデモードです、宜しくね。」
「…こちらこそ、リョーマ・コンドーです。宜しく……」
真正面から見ると尚更綺麗だな……あれ?王女がキョトンとしてるぞ?…あれ?やっぱ見覚えがあるな……………
「「ああーーーっ!!!?」」
俺と、そして今までの雰囲気は何だったんだと思う程の声で王女が叫ぶ。
この子…あの"名も知らぬ女の子"だーーー!!
あの時はポニーテールだったが、今日は髪を降ろした緩やかなウェービーヘアだし、何より雰囲気が違い過ぎて気が付かなかったが、絶対あの子だ!!
「貴方、”うどん”の方よね!?良かったー、ずっと会いたかったのよ!!」
王女が俺に抱き付いて来る。……いい香りや……って、教室に全体の空気が凍りついてるぞ?
「考えたら私、貴方の名前も聞かずに別れちゃったでしょ?ずーっと後悔してたの!あんなに楽しかった事、久しぶりだったから………」
「あの…ユリアちゃん?リョーマ君とお知り合いなの?」
ロルシーの質問に、興奮気味の王女もようやく場の空気に気が付いたのだろう。赤髪の女の子も軽く咳払いをしている。
「あ………オホン、私とした事が、大変失礼しました…。」
王女…ユリアは顔を真っ赤にして姿勢を正す。ロルシーも今のユリアの変貌に唖然としている。
「えっと…あの…、こ、この様に、私は皆さんともフレンドリーに接して行きたいと思ってるので、気軽に声を掛けて下さいね♪」
うわっ、スマイルで誤魔化そうとしやがった!
丁度良く担任の教師が教室に入って来た為、取り敢えず場が治まる。つーか、ユリア、隣の席かよ!?
「…よろしくね♪」
小声で俺に囁くユリア。…クソッ!心臓が跳ね上がった!俺はロルシー一筋で行こうって決めかけていたのに!
「それじゃあ俺がこのクラスの担任を務める『ケースケ・サンナン』だ。見ての通り東洋人だ。このクラスにも一人東洋人が居るみたいだが、贔屓なんざしねーから覚悟しておけ。」
先生は見るからに厳つい顔でガタイも良い。溢れ出る威圧感は、本当に教師なのかと疑いたくなるのだが…何もピンポイントで俺の事を言わなくても良いじゃないか。只でさえ嫌な注目浴びてんだからせめて触れないでよ!
その後、サンナン先生が一頻り学園生活のルール等を教えてくれた。その間、隣ではユリアが俺に話し掛けたそうにモジモジしてたのだが、先程の今だけあって話し掛けられても俺が困る。確かにユリアとのデートは俺も凄く楽しかったし、おかげで今日も舞い上がらずにロルシーと会話も出来るようにもなった。でも、王女になんて親しくされたら今より周りの目が厳しくなりそうなので、もうそっとしておいてよ…って感じなのだ。
で、下校となったのだが、先生が意外にも俺に声を掛けて来たのだ…。
「おい、リョーマ、ちょっと職員室に付き合え。」
おいおい、いきなり呼び出しですか!?折角一緒に帰ろうってロルシーを誘おうかな〜と思ってたのに…。ついでにユリアが焦ってるのが目に入ったが知らないフリだ。
「リョーマ君…私はリョーマ君の味方ですからね!なんなら私が状況を説明して…」
ロルシー、多分俺が朝から問題行動起こしたから先生に呼ばれたと思ってるのかな?でも、ディーノは呼ばれてないから多分別件だと思うんだけど…やっぱ優しいな…。
「多分大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな。」
「あの〜…リョーマ…君?」
すると、意を決したのかユリアが俺に声を掛けて来た…。
「良かったら、この後お茶でもしませんか?この間は急にお別れしちゃったので……」
そう来たか。でも、王女と一緒になんかいたら絶対に悪目立ちする。ここは断腸の想いで断ろう。
「あ、ロルシーも一緒にどうですか?これから長い付き合いになるのだし、貴女とも交流も深めたいしね。」
「あ…そうですね、いいですよ。じゃあリョーマ君、私達は校門で待ってますから!」
ロルシーも一緒かい!?ユリアと一緒にいて目立つのは嫌だけど…ロルシーとの時間も捨てがたい!
「…分かったよ。じゃあ待っててくれ。」
うん、割り切ろう。超美少女二人とお茶出来るなんて滅多にない機会だ。レッツ・ポジティブ・シンキング!