クソ勇者との対面
ちょっと短めです。
海を渡って早三日。いよいよ今日から学校が始まる。
激動の初日、全く以て俺の人生でも最も新鮮なのある一日だった…。なにせ、ロルシー、ロビンさん、名も知らぬ女の子と、誰が見たって納得するであろう美少女&美女と出会う事が出来たのだから。
で、二日目は初日の余韻に浸りながらも、早速ギルドの依頼を一件こなして来た。内容は、近くの森に生息するゴブリン5体の討伐。
だが、現れたのは30体のゴブリンと、ゴブリンの最上位種であるゴブリンキング。例えるなら、村一つが成す術もなく壊滅させられる程の戦力だった。
何故ゴブリンキングなんて強敵が現れたのかは不明だが、残念ながら俺の敵では無かった。漆黒の刀身・黒刀でバッサバッサとゴブリンを一刀の元に斬り伏せ、ゴブリンキングすらも脇差しの村正との二刀流秘技・牙狼一之太刀でオーバーキルしてしまった。
死体はギルドで買い取ってくれると云うことで、ゴブリンキングとゴブリン5体の死体を引き摺ってギルドに帰ると、ロビンさんが目を丸くしていた。当然その場にいた多くの傭兵にも一目置かれる結果となってしまったのは不本意だが。
なんでも、ゴブリンキングは討伐レベルで云えばBランクの任務だったらしい。俺はCランクだから、まぁ問題ないハズ。
で、売った素材が早速高値を付けた。俺の持ち金は50万円で、この国の通貨に換金すると、5万ジェム。で、ゴブリンキングとゴブリン5体でなんと50万ジェムになったのだ。もう、暫く働かなくて良くね?
でも、ロビンさんがメチャクチャ喜んでくれてたから、たまにはギルドにも顔を出そう。
そしてその金で必要な家具等を購入し、今日を迎えた訳だ。
学生寮は、隣り合っているものの男子と女子で建物が異なり、更に10階程の建物なのだが、貴族や金持ち等は高い階に集中しているようだ。因みに俺は2階。1階がロビーと食堂なので、住居としては最下層となる。最下層ではあるが、8畳程のリビング、寝室、キッチン、トイレ、シャワールームと、一人で生活する分には全く問題ない。
だがしかし、リビングがフローリングと云うヤツで、畳文化に慣れ親しんでる俺としては納得がいかず、街中探し回って畳っぽい物を全面に敷き詰めさせて貰った。こうなると寝床も布団一式で揃えてね。
昨日、買ってきた家具等を搬入してる際にも気にしながら見ていたが、今の所俺以外の東洋人にはお目にかかってない。ま、遠いからな。
時刻は7時。学校には徒歩5分の距離だし、8時30分まで登校すれば良いので、時間的には余裕がある。
顔を洗い、昨日の内に握っていたおにぎりと味噌汁を胃に流し込み、制服に身を包む。制服はブレザーと云うヤツで、ネクタイの色が赤。この色で学年が解るらしい。ネクタイなんてヒノクニでは然程浸透してないので最初は巻き方に手こずったが、昨日の内に何度も練習したので問題ない。
さ、行くか!
寮を出ると、既に大勢の生徒が学校へ向かっている。確か全校生徒の数が2000人だったか…。とんでもねぇな。
とりあえず今日は入学式とやらがあって、クラス分けが発表され、各クラスに別れてから下校の流れだったな。そういやロルシーも今日からこの学校へ通うって言ってたな…。同じクラスになれるといいな〜。
キングダム学園の建物は、まるで巨体な城のようだった。ヒノクニとは根本的に建物の構造が違う為、圧倒される…。
校舎に入ると、一際人が集まってる場所かある。あそこにクラス分けの告知でもあるんだろう。さて、俺は何組かな………ああ!!
一年生は全部で8クラス。で、俺はA組なのだが、同じクラスにロルシーの名があった。これは……運命!?
……だが、そんな幸せの絶頂にいる俺を奈落の底に叩き落とすかの様に、目の前に一人の男が立っていた…。
「お前……まさか、この学園の生徒だったのか!?」
唖然とした表情で俺を指差すこのクソイケメンは、勇者ディーノ。憎たらしい事に、既に女の子の取り巻きを従えている。ネクタイは俺と同じ赤。考えてみれば、見た感じ同じ位の年齢だったし、こうなる事も充分考えられたな…。無視だ、無視。
「おい、東洋人、僕が話し掛けてるんだから返事をしろ!」
………
「おい!聞こえてるんだろ!?」
………
「…あれ?聞こえてないのか??」
………
「…………。」
………
「…っておい!何不安そうに見つめてんだよ!気持ち悪いな!」
あんまり不安そうにしてるから堪えきれずに突っ込んでしまった。
「なっ、聞こえてるなら返事をしろ!!」
「馬鹿か!?お前この間自分で二度と顔見せんなって言ってただろーが!?敢えて知らないフリしてやったって云うのに!」
「あ…あんまり驚いたんで、つい……って、なんで僕がかしこまらなけらばならないんだ!それより、なんでお前がここにいるんだよ!?」
「制服見たら分かんだろーが!察しろ!」
言い返す言葉も無く、ぐむむっと唸り声を上げるディーノ。へっ、ざまぁ!
…と、そこでディーノと一緒にいた女生徒が忌々しそうな目で俺を見て…。
「ちょっと〜何こいつ。ディーノ様に対して生意気じゃない?」
「そうそう!ディーノ様は勇者よ?この国の英雄なのよ!」
「東洋人の"猿"のクセに生意気!」
取り巻きの女の子が俺を口撃してくる。3人とも普通にカワイイ部類に入るのだが、初日で免疫が着いた俺にとって異性と接する事は最早弊害ではない。無いのだが…この女、今とんでもねぇ事言いやがった。
「オイ…お前今、何て言った?」
「な…何よ!」
「何よじゃね〜んだよ。今、東洋人が何って言ったんだよ?」
聞き間違いじゃないかと思い聞き直す。つい睨んでしまった。何せ、少々気が荒い東洋人なら、今の言葉を言われただけで相手を叩き斬っていてもオカシク無い様な事をこの女は言ったんだ。
「うるせぇクソビッチ。只の腰巾着のクセに今なんつった?猿?てめぇ東洋人全員敵に回したぞ、コラッ。」
静かな怒りの圧力を掛ける、すると、女共の顔が真っ青になった。
「貴様…黙って聞いてれば、僕をおちょくるだけならまだしも、女の子に対して何て事を…。許さん!」
ディーノを金色のオーラが包み込む。コイツ、キレやがった!?沸点低っ!ってか、お前は差別発言はスルーなのかよ!?
「馬鹿なの?お前、馬鹿なの?ここ学校だよ?周りにもいっぱい生徒がいるんだよ?なのにキレてんの?ねぇ、馬鹿なの??」
思いっきり挑発してやる。学園内での魔法及びそれに準ずる能力の使用は禁止と校則手帳にも書いていたハズだし、このままコイツが暴れだしたら、入学早々問題起こした馬鹿の出来上がりだからな。
……だが、ふと気が付くと、俺が思い描いていた空気とは違う空気が流れ出している。
「勇者様に楯突くなんて生意気なヤツだ!」
「ディーノ様、生意気な猿なんかやっつけちゃえ!」
「いけー勇者様ー!猿をぶっ倒せー!」
今のは取り巻きの声じゃない。誰かも分からない野次馬の声なのだ。コイツら全員、東洋人を猿だと呼んだ事の意味を分かってないのか?それとも、ただ純粋に勇者の味方だって事?…完全にアウェーの空気だ。
「東洋人…、今謝ればこの場は許してやる。さぁ、彼女達と僕にに謝れ!」
ええ〜、なんで俺が絶対悪みたいになってんの??どう考えても言い過ぎたのは女共だよね?つか、やっぱお前自身馬鹿にされた事根に持ってんじゃん。
「テメェ、今の会話聞いてただろ?このビッチが俺に向かって言った言葉は人種差別用語だぞ!?」
そう、戦場でなくとも、ヒノクニや東洋人にそんな言葉を吐いたら殺されてもおかしくない程の差別用語だ。勇者のクセにコイツはそれすらも分からないのか?
「そんな言葉を言われるお前に問題があるんだろう?」
いや、別に俺、それ程の事したつもりないんだけど?なんだコイツ?
「…いいじゃねぇか。ご都合主義のクソ勇者に身の程教えてやろうか?アアッ!!」
俺もオーラで身を包む。因みに色は白。こちとら男社会で生きてきて、舐められるのが一番嫌いなんだよ!勇者だろーがなんだろーが力で黙らせてやる!
睨み合う俺とディーノの迫力に圧倒されたのか、周りの野次馬共も言葉を失っている。そして、ディーノの表情にも変化が現れていた。紛りなりにも勇者だ、相手の強さ位分かるだろう。自分と俺との実力差に気が付いて表情が固くなってる。…まだ一割位しか力出して無いんだけどね。
「貴様は本当に…何者だ?」
「さぁ、来ねぇのか?勇者様よぅ。だったら…こっちから行くぞ?」
取り敢えずボディーに一発喰らわせるか!
「やめなさい!!」
誰だよ、今いい所なのに…って、俺の視界に入ってきたのは、マイ・スゥイート・エンジェル・ロルシーじゃないか!?
既にモーションに、入っていたが、制止する言葉に反応し、拳をディーノの鳩尾の手前で止めた…………のだが…。
「うぶぉ!!?」
ディーノの強烈な右フックで俺は壁に叩きつけられた。
途端に沸き起こる歓声。ディーノが俺をやっつけたと勘違いした野次馬共が大喜びしている。
「いってぇ……。」
一応は勇者だけあって、モロに喰らったディーノの拳はかなり効いた。だが、ディーノは戸惑っている様に見える。
他の誰もが気付かなくても本人は気付いてるのだろう。あのまま俺が動きを止めなかったら、自分が地に転がっていた事を。なのに、コイツは攻撃を発動させた。…つまり、ビビったのだ。
殴られ、見上げる形ではあるが、俺が勝ち誇ったように笑みを浮かべると、ディーノは悔しそうに歯ぎしりをしていた…。