街中でも一目惚れ!?
俺は今、ギルドを後にして街の中央部にある大きな広場の階段に座り噴水を眺めている。
それにしても、着いて早々あんな超絶美少女&美女に出会う事になるとは思わなかった。それだけ考えたら、本当にこの国に来て良かった〜。
気が付くと間抜けな顔でニヤニヤしてしまってる。まだ知り合っただけだと云うのに気分はすっかりプレイボーイだ。
さて、これから三年間の俺の住みかとなる学生寮にでも向かうか。
座っていた階段から立ち上がる。広場はここに住む人達の憩いの場なのだろうか。至る所で人々が休んでいるし、その中にはカップルの姿も多く目立つ。昨日までの俺だったら、リア充死ねとばかりに睨み付けてる所だが、今はそんなカップルすら温かく見守るだけの余裕がある。ただ出会っただけで二人とは一切恋仲では無いんだけどね。
…すると、背後に気配を感じたが、受かれていた為一瞬反応が遅れた…
「キャッ!?」
「うわっ!?」
何かが俺の背中にぶつかり、俺はそのまま階段を転がり落ちてしまったのだった。
「だ、大丈夫!?」
女の子の声だ。多分この子が俺に体当たりして来たのだろう。
普段なら冷たい視線で威圧してやる所だが、今日は既にロルシーとロビンと云う二人の美人と接してきている俺は、余裕を以て体当たりしてきた女の子のに文句を言おうと立ち上がった。
「…っ痛ぇな〜気を付け…………いえ、ごめんなさい。」
思わず謝ってしまった。何故って?今、俺の目の前で心配そうにしている女の子が、ロルシーにも負けず劣らず超絶美少女だったからだ。金髪をツインテールにし、カワイイ系のロルシーと比べると、やや美人依り。
「ホント御免なさいね。でも…貴方も急に立ち上がって歩き出すからなんだから、お互い様ね。」
…うん、カワイイ。でも、言ってる事には異議ありだ。
「そっちがぶつかって…来たんだろうが。」
強く抗議しようとも思ったのだが…残念ながら俺にそんな勇気は無かった。
「ハハハッ、それもそうね!改めて謝るわ、ゴメンね♪」
スッゴい明るくて軽い雰囲気なんだが、何故か気品を感じるな…この子。
「そうだ!お詫びにランチご馳走してあげるわ!お昼まだでしょ?丁度私もお腹空いちゃってたのよね。さ、行きましょう!」
えっえっ!?有無を言わさず腕を引っ張られる。
「ちょ、歩ける!自分で歩けるから!」
なんだこの子、凄い力だな!?つーか、強引過ぎる!でも……ああ、今日は本当になんて日なんだ!?立て続けに3人もの女性と巡り会う事になるとは!今迄の俺の女運の無さは何だったんだ!?
……多分ソージのせいだな。アイツは見た目が小柄な女の子に見えるのだが、かなりの女好きだった。アイツといると女の子は皆アイツの方にばっか行って、その上、たまに俺が女性と会話してるといつの間にか側に来て邪魔ばっかしてくるし…。うん、三年後、殺そう。
「さ、ここにしましょ!実は一回来てみたかったんだけど、ここって一人じゃ入り辛くて。」
連れてこられたのは洋風のレストラン。店内は落ち着いた雰囲気で、ランチを楽しむカップルが多い。
「じゃあ私はシェフのおまかせランチね。貴方も同じので良い?」
無言で頷く。もう、展開が早くて考える余地がない。結局俺は同じおまかせランチを注文する事になった。
「…それで、貴方見た所東洋人よね?」
「え?ああ、ヒノクニから今日この国に来たんだ。」
「ヒノクニ!?本当に!?スゴーイ!私、ヒノクニの文化には興味津々なのよね!ヒノクニの殿方って皆”チョンマゲ”なんでしょ?なんで貴方はチョンマゲじゃないの?」
「いや、それは少し昔の話で、今はチョンマゲの人なんてあんまりいないよ。」
「あ、でも貴方は髪は長いじゃない。それでチョンマゲを結ってたんじゃないの?」
ん?ああ、俺の中では頭頂部を刈り上げてるのがチョンマゲの認識だが、この国の人にしてみれば俺の髪型も充分チョンマゲに近いのか?いや、違うよな…。
「ま、いっか。それじゃあチョンマゲと言えばヒノクニには裸でぶつかり合う世界最強かもしれない格闘技があるって聞いたんだけど!」
「ああ、”スモー”ね。まぁ、確かにスモーの力士は強いだろうけど、身体がデカいから俊敏性や持久力が無いから最強ではないかな?」
まあ、体格がデカければ確かに有利に働く事も多いのだろうが、牙狼の隊員はみんな引き締まった身体をしていた。戦場に於いて機動力は必要不可欠だからな。
「そうなんだ。あ!ヒノクニと云えば”スーシ”よね!私、まだ食べた事が無いの。生の魚を食べるんでしょ?美味しいの?」
「スシね。美味いよ。俺の大好物だ。この国にはスシが食える所は無いのかな?」
「残念ながらまだ無いのよ。ウチの料理人に作って貰おうかと思ってるんだけど、生物だから扱いが難しいらしくって。」
ウチの料理人って…この子金持ちか?だから気品があるのかな?
思ったより会話が弾んでる。この子が俺の母国ヒノクニの事を嬉しそうに聞いてくるからなんだが、自分でもビックリする程自然に会話が出来てる…。
そうこうしている内に料理が運ばれてきた。今日のシェフのおすすめはパスタだった。パスタは以前も何度か食った事があるが、確かに美味いのだが…俺は同じ麺類でも蕎麦やうどんの方が好きだな。
「うん、美味しかった〜。」
「ああ、そうだな。ヒノクニで麺類って言うと蕎麦かうどんだからな〜。」
「ソバ!?ウドン!?食べた事無い!美味しいの?」
蕎麦もうどんもこの国には無いのかな?蕎麦は多分蕎麦の実を栽培してないだろうから厳しいけど、うどんならパスタと同じ素材だからあっても良さそうなのに。
「蕎麦は無理だけど、うどんなら俺も作れるよ。良かったら今度ご馳走するよ。」
「ホント!?やったー!絶対だよ?」
まさか俺の口からこんな言葉が飛び出すとは…。それもこれもこの子が話しやすいからだな。メチャカワイイのに。それに、既に二人の美女と会話を経験しているから余裕が生まれてるんだな。
店を出る。支払いは彼女持ちだった。俺とした事がまだ通貨を変えてなかった…。不覚。
「悪いな…奢って貰っちゃって。」
「いいのよ。私が無理矢理連れて来たんだし、お礼は今度うどんご馳走になるから、それでいいわ♪」
……やべ、マジカップルみたいな会話だ。この国に来てえがった!
「うどんか〜、楽しみだな〜。ねえ、良かったらもう一か所付き合ってくれない?どうしても行きたい所があるのよね。」
「いいよ。この国にはまだ来たばかりだし、いろんな所を見て回りたいしな。」
「やった!じゃあ行きましょ!」
彼女が自然と俺の手を握って歩き出した。…………あれ?これって、噂に聞く”デート”ってやつじゃないのか!?
そう考えると急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。なんなんだ一体?着いて初日に立て続けに幸運続きじゃね?俺、今日で死なないよね?
連れて来られた場所は大きな公園で、多くのカップルが散歩を楽しんでいた。
「あ、あった!あれが”トゥルーホール”ね!」
トゥルーホール?なんじゃそら?目の前にある岩に拳大の穴が二つ空いてるだけにしか見えないのだが…。
「この穴にカップルの男女がそれぞれの穴に手を入れるの。で、何か疚しい事を隠している方は穴の中で手を噛まれるんだって!」
迷信か。でも、カップルで手を入れるって…俺達、カップルなの??
「私も一度試してみたかったんだけど、相手がいなかったし…。良かったら付き合ってくれない?」
付き合うだと!?俺達、まだ出会って二時間も経ってないのに、いいのか!?
「あはははっ、勘違いしないでいいから。穴に手を入れる事だけ付き合ってって意味よ。いいでしょ?」
「あ、ああ、良いよ。」
勘違いした自分が恥ずかしい!
「それじゃあ入れてみましょう。せ~の、えいっ!」
俺達二人は同時に穴に手を突っ込む。…穴の中は普通に空洞だな…。つか、迷信だし。
「…………何も起こらないわね。貴方は?」
「うん、俺も何も起こらないな。」
「そう。じゃあ、私達の間には疾しい事は無いってことね!」
いや、俺には少しだけ邪な考えが頭を過ってたんですけど…知らないふりだな。
「OK!じゃあ、次行ってみよう!」
え?まだ何処か行くの?俺は嬉しいんだけど…この子、本当に行動的だな。
再び手を引っ張られて連れて来られたのは海岸沿いの丘の上にある広大な墓地だった。
「…………。」
少女は黙って墓地の方を見つめている。先程までの活発な印象が嘘だったかの様に、その瞳には寂しさが感じられた。
「…家族の墓?」
「え?違うの。…ただ、今まで此処に来る機会が無かったから、この場所に眠る人達がこの国を造って来たんだなって考えたら…ちょっとセンチになっちゃった。」
無理に笑顔を作る彼女の髪を浜風が揺らす。先程までの活発な雰囲気から一転して気品がある淑女のイメージだ。そのギャップに、俺は心を奪われた様に彼女を見つめてしまった。
「…俺も、何か辛い時があった時はよく故郷の墓地に行ってたよ。もう会えない、大切な家族に会う為にさ。…語りかけても言葉は返ってこないけど、それでも心が落ち着くって言うか、やる気が出るっていうかさ…。死者を偲ぶってのは、死者の為じゃ無く、今を生きてる人間が強く生きて行く為には必要な事なんじゃないかな?」
ガラにもなく変な事言ってしまった。でも、俺も悩んだ時、会った事もない両親の中身が空の墓や、死んでいった牙狼の仲間達の墓に行っては愚痴ったりして気を晴らしていた事を、彼女を見て思い出したんだ。
「そう…。ウフフ、貴方って見かけによらず信心深いのね。」
「別にそんなんじゃないけどさ。」
「いいじゃない。死者にも生者もウィンウィンって感じで。」
「ウィン、ウィン?なんだそれ?」
「最近若者の間で流行ってる言葉なんだって。さ、帰りましょ!」
なんとなく打ち解けた雰囲気になった俺達は、色々な話をしながら街場まで戻って来た。
特に俺の両親が既に死んでいて顔も知らないと言ったら、妙に詳しくその部分の事を聞かれた。今は義理の父親を本当の父だと思ってると行ったら、物憂げに頷いていたのだが…。
「さて、もう夕方ね。今日は本当に充実した一日だったわ~。貴方のおかげね。」
「いや、俺の方こそ楽しかったよ。」
これは本心だった。最初はデートかもしれないと変に意識して緊張していたが、いつの間にか気負いが消え、自然体で接していた気がするし。
「ねえ?貴方さえよかったら、また……ゲッ!?」
急に女の子の顔色が変わる。どうしたんだ?
「ご、ゴメンね、私、急用思い出しちゃった!またね!」
そう言い残すと、女の子は脱兎の如く去っていった。なんだったんだ?
すると、メイド服を着た女性が肩で息をしながら俺の元までやって来た。
「ハァ、ハァ、ハァ、今の女性、何処に行ったか知ってる?」
赤髪のメイド。この子も驚く程カワイイ…いや、綺麗だな。ロルシーや今の女の子よりは少し影があるけど。
「え?なんか、急用思い出したとかで行っちゃいましたよ?」
「ハァ、ハァ、…クッソ〜あの小娘〜!……失礼しました。」
メイドっ娘は何事も無かったかのように去っていってしまった。
何だったんだ、一体。……あ、あの子の名前聞くの忘れた……。