傭兵ギルドでも一目惚れ!?
「ところで、リョーマさんはこの国に来たばかりなんですか?」
「…え?あ……ですね。」
思わずロルシーに見惚れていた為、何か聞かれたのに聞いてなかった!適当に返事をしてしまったが…あっていただろうか?
「そうなんですね。それじゃあこの国を代表して、ようこそサンドラ王国へ!」
笑顔が眩しい…。女の子って、こんなにカワイイんだな…。
……何時の間にやらロルシーと別れ、今だけドキドキしたまま俺は歩いていた。
まだ胸の高鳴りが止まない…。もしかして、これが"恋"なのだろうか?え~っ!どうしようどうしよう!誰かに相談したい、でも、知り合いがいない!あーもう、独りぼっち嫌!!
なんて心の中で悶えていると、傭兵ギルドの看板が見えて来た。
傭兵ギルドは世界的な組織であり、当然ヒノクニにも存在する。一応既にギルドには登録してはいたのだが、基本的に牙狼の一員として活動していた為、ギルドランクは底辺のまま。
因みにランクは…
F…駆け出し
E…普通
D…一人前
C…強者
B…一流
A…超人
S…英雄
…となっており、請け負える任務のレベルは自分のランクの一つ上までとなっている。
で、今迄はギルド活動になんて興味が無かったのだがこれからは違う。なにせ、働かなければ食っていけないのだ。
学費に関してはオヤジが一括で払っておいてくれたらしいが、それ以外の生活費は自分で稼がなければならない。普通のバイトなんて出来る訳が無いしね。
という訳で、早速様子見がてらギルドを覗きに来たのだ。
傭兵ギルドは結構大きな建物で、中に入るとロビーになっており、様々な依頼が貼り出された掲示板と、依頼を受注する為の受付があった。既にロビーは多くの傭兵達がいたのだが、特に俺に注目してくる奴はいない。スミマセンね、平凡な顔で。
ギルドカードは12歳の時に作成した時に一つだけ簡単な依頼をこなしてから一度も利用していない。で、未使用期間が一年間になると更新が必要らしく、早速カードを使える様に更新してもらう為受付に向かう。
現在受付には男女二人の職員がいる。折角なので女性の受付に行こっと。
「こんにちは。見慣れない顔ですね?ギルドは初めてですか?」
「いや、実は更新を…………」
俺の時が止まった…。いや、視線が止まっただけなのだが、今視界には、たわわに実った神秘の果実が二つ。
ちょっ…受付のお姉さん、胸元開けすぎじゃないですか??いや、別に見たい訳じゃないんだからね!?ただ、たまたま視界に入っちゃっただけなんだからね!?そこん所勘違いしないでよね!?
「ウフフ、カワイイ坊やね。顔真っ赤にしちゃって。」
「え!?あっ!?いや、その…………」
俺の時が再び止まった。いや、視線がお姉さんの顔で止まっちゃったんだけどね。
受付のお姉さんは銀色のショートカット、褐色の肌で健康的な美人さんだった。
「もう、そんなに見つめられたら、お姉さん照れちゃうじゃない。」
「あ、いや、その……すみましぇん。」
……ううっ、恥ずかしい。まさか、ここまで自分が女性に免疫が無かったとは…。
「さ、気を取り直して本題に入りましょ♪新規登録でいいのよね?」
「あ、いや…登録は随分前に済んでるんで、今日は更新をお願いしようかな…と。」
慌ててギルドカードを出す。カードは世界共通のハズだし、問題ないハズ…。
「あ、更新か…。どれどれ…凄いわね、12歳の時に登録してるなんて…でも、依頼をこなした回数が一回………なるほどね…。」
急にお姉さんが俺を品定めする様に視線を向けて来た。………ドキドキが止まらない…。
「オッケー。お姉さん、君に興味が沸いて来ちゃったな〜…良かったら、上の階でゆっくりお話ししない?」
な、なんですと!?別室で…ゆっくりお話し!?いや、待て!流石にそれは心の準備が…いや、やっぱ初めては好きな子と…俺にはロルシーもいるし、あれ、でも、さっきからお姉さんにドキドキしっぱなしだし、あれ?
「な〜に迷ってるのよ。いいから付き合いなさい。」
そう言うとお姉さんは急に俺の手を掴んで二階に連れて行こうとする。ちょっ…心の準備がまだ……!?
促されるがまま二階に上がり、奥の部屋に連れていかれる。するとそこは……
「ここはギルドマスターの部屋よ。で、私がこの傭兵ギルドのマスター、『ロビン』よ。ヨロシクね。」
まさかのお姉さんがギルドマスターって展開キターーーッ!?
「…で、早速だけど、ハッキリ言わせてもらうと…貴方のライセンスを更新させるのは無理だわ。」
…………え?浮かれてたのが急に冷静になる。今、なんて?
「えっと…理由を聞かせてもらって良いでしょうか?」
「心配しないで。今のままでは無理って事よ。更新する為には、まず貴方にお話を聞かせてもらおうかと思ってね。」
……もしかして、ギルドマスターは俺の正体に気付いたのか?何故に??
「不思議そうな顔してるわね。簡単よ。一応ギルドに登録した時にテストを受けてもらったと思うけど、あのテストは普通の12歳にしては簡単なテストじゃ無いハズ。それを敢えて取っておいて、その後は殆んどギルドの活動を行っていない…。
この点から考えられる最も可能性が高い理由は、登録はしたものの他に稼ぎ口があった…って所かしら?」
…流石だな。ほぼ正解。
「…いやぁ、参ったな。その通りです。だけど、それが更新出来ない理由になるんですか?」
「そうね…理由としては弱いわ。でもね、その空白の時間に、お姉さんすごーく興味があってね。仮に、その間アナタが犯罪組織にいたと考えられない訳でもないし、ある程度の素性は聞いておかないとね。だから、教えてくれないと更新はさせてあげられないかもね。」
ん~、別に俺は牙狼っていうれっきとした傭兵団にいたんだから何も疾しい事は無いんだが、親父やトシ兄の言ってた事を思い出すとあまり正体を晒すのは良くない気がするしな…。
「えっと…確かにマスターの言う通りです。ギルド登録はしましたが、他に働き口があったのでギルドの活動は殆んどしてませんよ。」
「だ〜か〜ら〜、その働き口の事を聞きたいのよ。改めて言うけど、若い内にギルド登録する人って実力者が多いの。で、たま〜に貴方の様に登録だけしてギル活を行わないパターンの人がいるんだけど、その殆んどが犯罪組織か…フリーの傭兵団なのよ。分かる?素性が危険な可能性を秘めてる者にライセンスは与えられないでしょ?」
なるほど、やっぱこのお姉さん…ギルドマスターは頭がキレるな。だとすると…登録して活動しないのが警戒されるのは分かった。でも、もしかしたらこの人…。
「…マスター、回りくどい言い方は止めて貰っていいよ。アンタ、俺の素性に検討が着いてんだろ?だったらハッキリ言ってくれ。」
自分から全ては言わない。こっちはもう全部気付いてる風にして相手から情報を聞き出す。先程までのオドオドした雰囲気は今の俺には無い。寧ろギャップが好都合に働いていて、マスターの表情が若干強張った。
「…ふぅ、やっぱり只の坊やじゃ無いようね。今の"抑え目の"貴方から醸し出ている圧力は少なくともギルドランクB以上…。流石は牙狼の最年少隊長ね…。」
「…やっぱり知ってたのかよ。じゃあアンタはオヤジ…イサミチ・コンドーと繋がってる訳か。」
いくらなんでも俺が牙狼で、しかも隊長だと云う情報まで知っているとしたら、それは誰かからその情報得ているとしか考えられない。
「ごめんなさいね、試す様な真似しちゃって。仰る通り、私はコンドー局長から貴方の此方でのギル活のサポートを頼まれてるの。」
「なんだよ〜、本当に人が悪いな〜。こっちは慣れない国と久しぶりのギルドで緊張してるって云うのに。」
「ウフフ、貴方があんまりカワイかったからついね。じゃあ改めて自己紹介させてもらうわ。私がこのギルドのマスター、ロビンよ。この国での貴方のギル活は個人的権限を以て出来うる限り私がサポートさせて貰うからヨロシクね。あ、あとギルドカードは今頃更新されてるだろうから安心して。」
カワイイと言われてまた緊張しだす。俺って本当に免疫が無いな。
「さてと、本来なら君のギルドランクはAに認定してもいいんだろうけど、目立ちたくないんでしょ?だからCに設定させてもらったから。」
「え?ギルドランクの昇格って実力だけじゃなく実積も必要なんでしょ?」
「勿論特例よ。あのエメリヤーエンコ・ゴルバチョフを決闘で下した君だからこその特例。流石にランクSは無理だけどね。」
エメリヤーエンコ・ゴルバチョフ…。先の対戦で命辛々打ち倒したけど、あれは規格外な奴だった。俺が勝てたのはハッキリ言って運だ。最後の方はほとんど記憶に無いし。多分10回やったら9回は負けるだろう、その1回が最初に来ただけだ。
「ま、いいや。じゃあこれからもヨロシク、マスター。」
「ロビンで良いわよ。私がギルドマスターだと知っているのは僅かだし、たまに受付にいるから。職員からは不評だけど。」
ギルドマスターが受付にいたら、そりゃあ他の職員は気を使うだろうな。
「ああ、じゃあロビンさん、今後とも宜しく。」
「ええ。君の活躍に期待してるわよ。」
ガッチリ握手する。………で、またもや顔が真っ赤になってしまう自分が情けなかった…。
「それで、キミの持ってるギルドカードは少々古くなってるから新しい物に交換してあげる。明日には出来あがるとは思うけど、また足を運んでくれると助かるんだけど。」
ロビンさんの机には山の様な書類が積み上げられている。……だったら受付なんかするなよ、と言いたくなる程忙しい様だ。
「良いですよ。学園が始まるまではフリーだし、また日を改めて来ますよ。」
「ありがと。キミ、カワイイからお姉さん…”食べちゃおうかな”?」
!?食べる??食べるってどういう意味…。まさか、性的な…!?
「フフフッ、冗談よ。キミ、本当にウブなのね。」
なんだ、冗談か…。でも、冗談と分かって残念な思いより、ホッとしてしまった思いが上回るなんて…情けなくて涙が出ちゃうよ…。