幕間 戦場の死神 後編
ゴルバチョフにとって先程の蹴りはかなりの手応えがあった。目の前にいる少年の腹にはかなりのダメージを与えたハズだ。
なのに、少年の身体を纏うオーラは先程までより更に強く練り上げられていた。
「…小僧、無理はよせ。お前はよく戦った。お前にはまだ未来がある。ここで命を散らすのも本意では無かろう?」
だが、リョーマは反応を示さない。
そこに…
「牙狼副長、トシゾー・ヒジリだ!ウチの十番隊隊長に代わって、俺がお前の相手をしてやる。」
「副長…。ほう、お主が”鬼のトシゾー”と呼ばれる武人か!よかろう…我が最期の相手に相応し…グオッ!?」
リョーマがゴルバチョフに飛び掛かり、刀を振り下ろした。ゴルバチョフは辛うじてその攻撃を防御したが、先程までは感じられなかった威圧感を覚えた。
「まて、リョーマ!お前は大人しくしてろ!!」
トシゾーの呼びかけにも応じず、リョーマはゴルバチョフに対して苛烈な攻撃を繰り広げて行く。
「小僧…貴様、実力を隠しておったのか……。いや、意識が飛んで無我の境地に至ったか…?面白い。トシゾー、お主の相手はこの小僧を黙らせてからにしてやろう!」
「クッ…駄目だ!俺が…」
「トシ兄!無理だよ!リョーマは多分、トシ兄が言ってた”キレてる”状態だ!」
リョーマの目は虚ろだが、その動きは明らかに普段の状態より軽やかでいて力強く、この場にいた者達は一様にリョーマが舞踊っているのかと錯角する程だった。
「…くっ、ああなったらもう俺でも無傷では止められん。」
「トシ兄でも!?じゃあリョーマはトシ兄より…」
「…10回に1回は負けるかもな。だが、ゴルバチョフは恐らく俺と同等の強さだろう。こうなったら、マグレの1回目が今回である事を祈るしかない。」
「リョーマが…。面白い、今度キレさせてから手合わせ願おうかな?」
「…チッ、戦闘狂が。」
「トシ兄にだけは言われたく無いんだけどね。」
そうこうしている間に、リョーマとゴルバチョフの戦いには変化が生まれていた。
リョーマの覚醒当初はその動きに対応し切れず掠り傷を増やしていたゴルバチョフだったが、やはり地力の差か、次第にリョーマの動きに慣れ始め、順応しだしていた。
「小僧、そろそろ反撃させてもらうぞ!」
ゴルバチョフがリョーマの進行方向を遮る様に大斧を振り回す。風圧が斬撃となり、野次馬の数人を斬り裂いた。
「ほう、今のを避けるか!?」
そう、リョーマは進行方向だったにも拘らず、身を捩じって攻撃を回避したのだ。
「驚くべき反応速度と、それに対応する身体能力か…。だが、もう貴様の攻撃は見切ったぞ?」
その後もリョーマの動きを先読みして攻撃をするゴルバチョフ。次第に攻撃がリョーマに掠り始め、体中が傷だらけになって行った。
「…もう駄目だ!止めよう、トシ兄!」
「…。」
「どうしたんだよ?あの攻撃は一発でもまともに食らったら身体が真っ二つになっちゃうよ!?なんで止めないのさ!!」
「…黙ってみてろ。俺の…俺達牙狼全員の弟の本当の力を…。」
トシゾーは黙ってリョーマを見つめている。その瞳は、これから起こるであろう事を確信している様だった。
「そろそろフィナーレだな。それ程の才能をここで散らしてしまうのは可哀相だが、ここは戦場で貴様はワシが認める程の強者!手を抜くなど武人に対して失礼の極みだからな!」
「ああ~、トシ兄!もう見てらんないよ!」
「………。」
「もう、僕が行く…」
「待て。」
飛び出そうとしたソージをトシゾーが制する。
「何すんのさ!?このままじゃリョーマが死んじゃうじゃないか!?」
「…見てろ。この勝負、リョーマが勝つ。」
「ええ?んな訳ないだろ!?」
「うるおあああああああーーっ!!」
ゴルバチョフがバトルアックスを振り上げ、リョーマに襲いかかる。
だが、交錯した後、倒れたのは……ゴルバチョフの方だった…。
誰もが、一体何が起こったか理解できていない。…トシゾーを除いては。
「な…何があったのさ?」
「牙狼秘奥義、”無我”。俺も、イサミチさんも習得出来なかった技だ。」
「無我?局長とトシ兄が習得出来なかったって、なんでそんな技が存在すんのさ?」
「理論上は俺達も理解出来ていたが、今のリョーマの様に半分意識を失った状態で戦う事が出来なかったから試し様が無かったんだ。リョーマはイサミチさんに一応全ての牙狼奥義を教えられているから理論的に習得していたんだろうが、俺もあれを受けて死にかける所だった、得物が真剣だったらな。」
「トシ兄が…。」
周囲が唖然とする。だが、その静寂はあっという間に歓声に変わった。
世界最強とも謳われたエメリヤーエンコ・ゴルバチョフが、一騎討ちで敗れたのだ。
リョーマが意識を失い、倒れそうになるのをトシゾーが支える。
「…このバカが。」
「リョーマ!大丈夫なの!?」
「気絶してるだけだよ。まったく、意識を失って尚戦い続けるとは…コイツの戦闘本能には俺も舌を巻くぜ。」
「…リョーマもトシ兄にだけは言われたくないだろうけどね。」
周囲では敵の大将であるゴルバチョフが一騎討ちに敗れた事で、一気に戦勝ムードが漂っている。
そして、その少年は後にこう呼ばれるようになる…。
"戦場の死神"…と。
これで予定通り20話です。思ったより閲覧が伸びなかったな…。力不足を実感しています。と云う訳で、このお話は此処で終了です。
あまりの不人気に最後やっつけになってしまいました(^^;
もし、続きが気になる!という方は、是非とも評価・感想・レビューをお願いします。
それでは別作品で会いましょう!




