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最強の少年、海を渡る  作者: silver
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いきなり一目惚れ!?

創神紀790年4月3日/サンドラ王国ジーク港



季節は4月。だが、浜風はまだまだ冷たい。ヒノクニから旅立って一カ月。長い、本当に長い航路だった。


俺の名はリョーマ・コンドー。ここから遥か東にあるヒノクニ、そしてヒノクニが誇る最強の傭兵集団“牙狼”において最年少の隊長として十番隊を率いるサムライだった。


幼少の頃から武に全てを捧げて来た。だが、そんな俺を不憫に思ったのか、ある日突然、牙狼局長でもあり俺の親父代わりだったイサミチ・コンドーは、俺に外の世界を見て来いと言った。


…で、今回ヒノクニから遥かに西のアレキサンドリア大陸、海に面した大陸最大の国サンドラ王国にあるハイスクールに通う事になったんだが……正直、だるい。


俺を暖かく見送ってくれた仲間達の手前、嫌そうな顔は出来なかったが、牙狼の隊長にまでなって、なんで今更ハイスクールになんか行かにゃならんのだ。



正直、俺は牙狼の一員としての生活に不満は無かったのだが、親父は俺が普通の生活に憧れを抱いていると勘違いしたのだろう。それに、俺が通う事になってるハイスクール…“サンドラ国立キングダム学園”は、国中から見込みのある子供達が集められ、中でも優秀だった者は卒業後に騎士団やギルドへの厚待遇の道が拓けると云うエリート養成学校なのだ。


 お分かりだろうか?俺はこの国に骨を埋める気はサラサラ無い。俺の故郷はヒノクニ…牙狼そのものが帰るべき場所なのだ。卒業後の優待なんざ大きなお世話なのだ。でも、より優秀な人材を育成する為の授業があると云う事は、当然戦闘の要素が含まれているだろう。そして、ここで厄介になるのが牙狼の教えである。



 "牙狼たる者、牙狼以外の者に負けるべからず"



…つまり、実質的には牙狼の隊員同志で真剣勝負をする事が無いので、真剣勝負に於いて負けたら駄目って事だ。当然真剣勝負なら負けたら命を落とす場合が多いだろうが、もし生きて帰ろうものなら拷問と言う名の訓練が待っているのだ。そして納得いかないのだが、何故かトシ兄のせいでこの掟は牙狼隊員同士の模擬戦でも適用されていた。まあ、実際に負けた所で正式な罰則がある訳では無いし、仮にそうなっても黙っていればバレやしないハズなのだが…なのだが…、俺の兄貴分である牙狼副長『トシゾー・ヒジリ』は、何故か敗北した隊員を見分けられるのだ。そして、その後は罰則に等しい鬼の訓練(拷問)が待っている。


 だから、俺もタイマンでは絶対に負けない様にしなければいけないと云う習性が身に着いてしまった。おかげで隊長になれるまでに強くはなったのだが、その習性は俺の身体の芯まで浸透しており、ハッキリ言って授業中に模擬戦等があっても俺は絶対に負ける事は出来ないだろう。その結果、騎士団への入隊を薦められてしまったら…ハッキリ言って面倒なのだ。


 …まあ、その時はその時だ。それで退学にでもされるなら大人しく学園を去ろう。…つーか、ハッキリ言って勉強なんてまともにしてこなかった俺が、ハイスクールの授業になんて着いて行ける訳が無い。なんで今更恥をかかにゃならんのだ…。



 港は大勢の人で賑わっている。正直、文明レベルがヒノクニより一歩上を行っている。街中の道はレンガ調の素材で舗装されてるし、多くの馬車が行き来している。正直、自分が田舎っぺに見られやしないか不安しかない。


 で、学園なんざ面倒で仕方が無い俺だが、何も楽しみが無い訳では無い。俺がこの国に来た唯一の目標、それは……“彼女を作る事だ”!


 出航の時にソージに言われた一言を強く否定はしたものの、生まれてこの方俺の周りには筋骨隆々の野郎しかいなかった。最も年齢が近い親友の二番隊隊長『ソージ・オキムラ』は痩せ形でパッと見は女みたいな外見だったが、一皮剥けば只の戦闘狂だったし。当然、彼女いない歴=生まれてからの年数となる訳だが、今、俺を縛り付ける物は無い。つまり、誰に遠慮する事無く、夢だった恋愛が出来るのだ!ぶっちゃけ、そんな願望でもなかったら絶対にこんな所に等来ていない。



 めくるめく出会いを夢見て歩を進める。見知らぬ街に戦争以外の理由で訪れるのが初めての為非常に緊張するが、見る物全てが新鮮に映る。学園の事を考えると憂鬱になるが、それでも、俺をこの国に送り出してくれた親父…コンドー局長に感謝しなければな。



 取り敢えず親父に貰った紙に書かれた場所まで移動するか。どうやら俺のこの国での住処の様なのだが…右も左も分からない現状、誰かに聞いた方が早いだろうな…。これだけ大勢の人が歩いていると、一体誰に声を掛ければいいのやら。折角ならカワイイ女の子に…って考えたが、そりゃ無理だ。俺は女の子とまともに口を聞いた事が無い。コミニュケーション能力が皆無なのだから。むしろ、男にでも知らない人に話しかけるのは馴れて無いから緊張しそうだし。



 その時、助けを求める女性の声が聞こえて来た。


「ちょっと…やめて下さい!離して下さい!」


「いいじゃんかよ~。ちょっと位、俺達とも遊んでくれよ~。」


 状況的に、女の子が無理矢理なナンパに困っているの様だが…。そこで、俺の頭の中の電球がピカリンと光った。只でさえコミュ障の俺が会話の糸口を見つけるのに、このピンチを救ってあげるのは絶好のチャンスなのではないだろうか?しかも女の子だし…、もしかしたら恋が生まれたりして……グフ、グフフフ。


 おっと、邪な考えが頭を過ってしまった。何にしても、困ってる女性を放っておくなんて事は俺には出来ん。弱き者を助けるのは力を持った者の責務とは牙狼の教えである。



 遠巻きに状況を確認する。どうやら女の子一人を粗暴な男共が三人で囲んでいる。さてと、颯爽と登場して女の子を助けてやるか………と、近付いていった俺の身体に電流が走った。


 女の子は、栗色の長いストレートヘアで…メチャクチャ美少女だった。え?え?助けに行きたいのに緊張して足が動かない!?あんな美少女に、どうやって声を掛ければいいんだ??



 じ~っと惚けたまま女の子を見て立ちつくす俺に、男達が気が付いた。


「なんだ、てめえ?まさか…ヒーロー気取りじゃねえだろうな?」


「ヒャッヒャッヒャ、おい坊主、見た感じ東洋人か?だったら知らないのも無理ね~かもしれね~が、俺達は街一番のワル、“ウッヒャー団”の者だ。分かったら大人しく消えろや!」


 ……ウッヒャー団?…なんて頭の悪そうな名前だ…。でも、おかげで緊張が解けたぜ。


「お前等、その子が嫌がってるじゃね~か。」


 俺の一言に、男達の雰囲気が変わる。先程までのおちょくった空気は消え、眼が冷たい物に変わった。名前はともかく、コイツらがワルだって云うのは本当なんだろう。この眼は人を殺す事に躊躇しない眼だ。……だったらこっちもやり易い。


「てめえ…死にてえのか?」


「うるせえ。ウヒャだかムヒャだか分からんが、その子を離せ、チンピラ。」


 男達はヤレヤレといった雰囲気で肩を竦めると…モヒカンの男が胸元から短剣を取りだし…


「死ねよ、ヒーロー!」


 俺に向かって突き出す。が、刃は俺に届く事は無かった。


「なっ…離せこの野郎!!」


 チンピラの手を強く握る。さらに強く捻り上げると、その手からナイフが地に落ちる。そのまま裏拳をモヒカンに喰らわす。


 驚いてるもう二人、スキンヘッドと巨漢の男の鳩尾にそれぞれボディーブローを喰らわすと、チンピラ三人集はあっという間に膝まづいてしまった。…弱っ。



「て、てめえ…俺達にこんな事して…」


「うるせえ。」


 ようやく起き上がろうとした巨漢の脳天に踵落としを喰らわせると、巨漢は完全に気絶してしまった。



「く、くそっ!覚えてろよ!!」


 モヒカンとスキンヘッドは巨漢を引きづりながら逃げて行った。捨て台詞までチンピラだな。



 ふと女の子を見ると、驚いた様に茫然としている。……やっぱり超絶カワイイ!!やべ!また緊張して来た!話しかける事が出来ず、またも女の子を見つめたまま立ちつくす俺。自分で自分が情けない!



 すると、一人の男が俺達に近づいて来た。


「どうしたんだい、ロルシー?」


 男は女の子に話しかける。そして、俺の存在に気が付くと、警戒するように女の子の前に立ちはだかった。


「ロルシー、コイツになんかされたのか?」


 …コイツ?コイツって…もしかしなくても俺だよな?あれ?俺がこの子にちょっかい出したと勘違いされてる!?


「あ、いや、俺は…」


「貴様…ロルシーに何をした?こんなに怯えてるじゃないか。」


 だから違うんだけど…上手く言葉が出てこない!



 オドオドしてると、男は俺の胸倉を掴んで来た。どーでもいいけどコイツ、かなりのイケメンだな。


「待って、ディーノ!この人は違う!私を助けてくれたの!」


 女の子が今にも俺を殴ろうとしていた男の腕を掴む。


「え?コイツが?」


 ディーノと呼ばれた男は、それでも俺の胸倉を掴んだまま俺を睨んで来る。なんか…コイツ、ムカつくな…。



 先程のチンピラ同様、ディーノの腕を掴んで力を込める。そして捻り上げようとしたのだが…


「グッ…テメェこの野郎…」


「いっ…貴様…僕が誰だか知らないのか…?」


 ディーノが手を捻ろうとした俺に抵抗して来たのだ。コイツ…只のヤサ男じゃ無い!?


「勝手に勘違いしておいて…僕が誰だか?知らねーよ、てめえなんて。こちとらたった今この国に来たばっかなんだからよ~…」


 拮抗する力の張り合い。この俺と力比べをして負けない男が、牙狼隊員以外でいた事に驚きが隠せない。同じくディーノの表情も、自分の力に対抗して来る男の存在に驚いている様に見える。



「グムムム…」


「ウギギギ…」


 尚も張り合う俺とディーノ。ここまでくれば最早意地である。



「やめなさーーい!!」


「ブベラ!?」


「ウボラ!?」


 俺とディーノの頬を、ロルシーの鉄拳が同時に襲う。


 …あれ?効いたよ?こんなパンチを持ってるなら、俺が助ける必要無かったんじゃね?



「だから、この方は私を助けてくれたんだって言ってるじゃない!」


「あ…ああ、ゴメン。つい意地になっちゃって。」


 ロルシーに怒られてディーノが気まずそうにしている。フッフッフ、ざまあ。…つーか、俺は殴られる意味あったのかな??



「あの、すみませんでした!助けて頂いたのに…」


「い…いや、無事なら良かった。アハハ…」


 純粋に謝罪してくるロルシー。やっぱり殴られた意味が分からない。



「…オイ、お前、見た所東洋人みたいだが、何者だ?“勇者”である僕に反抗するなんて。」


 勇者?コイツが??勇者とは稀に誕生する規格外の素質を持った人間の事だ。なら俺の力に対抗したのも頷けるが…コイツが勇者?


「勇者だと?勇者にしては態度悪いじゃねーか。お前は勘違いで俺の胸倉掴んだんだぞ、コラ。まずは謝罪だろーが。」


「クッ…誰がお前に謝罪などするか。見るからに悪党の顔してるからだろう?」


 コノヤロー!目つきが悪いのは自覚してるわ!!コイツ、コロス!!



 再び険悪なムードになる俺達だったが、ロルシーがディーノを一睨みすると、ディーノは渋々俺に対する敵対ムードを解除した。


「くそう…オイお前、ここはロルシーに免じて許してやる。二度と僕の前にその悪党ヅラを見せるなよ!」


「大きなお世話だバーカ。お前こそ、俺の前に出てくんじゃねーぞ。」


 ディーノは舌打ちしながら去って行った。



「スミマセンでした。ディーノも普段はあんな感じじゃ無いんですが…。」


 いや、アイツは見るからに顔が良いだけの陰険野郎だった。うん、確定。


「あ、いや。俺の方こそちょっと大人気なかったな。迷惑かけてゴメン。」


 ロルシーが深々と頭を下げる。……やべ、カワイイ。また緊張して来た。


「あの…良かったらお名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?」


「え?ああ、リョーマ・コンドーだ。よ、ヨロシク。」


「リョーマさんですか。私は『ロルシー・ベルモット』って言います。ヨロシクお願いしますね。」


 ロルシーちゃん…………まるで天使の様な笑顔だ。


「ところで、リョーマさんはどうしてこの国に?」


「ああ、実は今年からキングダム学園に入学する事になってね。」


「ええ!?本当ですか!?」


 うわっ!?ロルシーが嬉しそうに俺の手を握ってきた!!待て!落ち着け、俺!!


「実は私も今年からキングダム学園に入学するんですよ!同じクラスになれると良いですね!」


 ロルシーが何か言ってるが、俺の頭には入って来なかった。ただ、その手の柔らかさに頭の中が真っ白になっていたから。



 その後、ロルシーが嬉しそうに何かを喋っていたが、残念ながら俺はボ〜っとしたまま聞き流してしまったのだった。


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