傭兵の事情
第一部最終話です。少々短めですが宜しくです。
翌日…当初あった俺への誹謗中傷は一切無くなった。だが、相変わらずロルシーとユリア以外の女性徒と親しくなる事は出来ていない。もう…諦めてるけどね。
授業はなんとかついて行ってるが、それでも優等生のユリア、ロルシー、ジークに比べると俺の学力ではかなり物足りないのは否めないが…まあ、楽しくやっている。
勇者ディーノ相変わらず明から様に俺を避けているが、まあ俺もアイツ好きじゃないし、良いんだけどね。
昼休み。いつものメンバーで食堂で昼食をとってると、珍しい来客がやって来た。
「……コンドー…ちょっといいか?」
俺達の前に立っていたのは身長190センチのゴム人間ことナジムだった。
「なんだ?昨日のリベンジマッチならお断りだぞ?」
「…………違う…その……頼む。」
相変わらず焦点の合ってない目が、座っている俺の事をジッと見つめている。…正直、怖いって。
「…ち、ちょっとだけだぞ?」
男二人、中庭のベンチで日向ぼっこ。ああ…いい天気だなぁ。
「って、ヒトの事呼んでおいて黙んまり決め込むんじゃねーよ!?用事があるんなら早く言え!」
そう、日向ぼっこを始めてから既に5分が経過しているのだ。何が悲しくて、こんな一人大サーカスみたいな奴とのんびりベンチに座ってなければならんのだ。
「…スマン。」
あう…随分素直だな…。調子狂うわ。
「分かりゃいいよ。で、用事は?」
「………なんで、お前程の男がこんな所に居るんだ…?………"牙狼十番隊隊長"…。」
瞬時に俺から殺気が漏れる。何故だ?何故バレてる!?いや、俺の顔なんてバレてる訳が無いんだ、まだ誤魔化せる!
慌てて殺気を抑え、涼しい顔を作るが…。
「す…凄い殺気だったな…。やはりお前が牙狼の最年少隊長か。」
「ち、ちが、違うって、俺は只の学生だって!」
「…いや、誤魔化さなくていい。そ、それに、何か事情があるなら他言する気は無い…。」
…一瞬だけ動揺して殺気が漏れた時点でアウトだったか…。ここは…観念するか。ナジムの言葉を信じよう。
「…なんで分かったんだ?俺の正体はあまり表には出てないハズなんだけど?」
「…牙狼の十番隊隊長は牙狼の中でも最年少だとは聞いていた。それに、あのエメリヤーエンコ・ゴルバチョフを倒した事も。…昨日、お前と戦った時、何故かその十番隊隊長の姿とお前がリンクした。…まぁ、実際に十番隊隊長を見た事は無かったし、勘だったが。」
なんだよ、カマかけたって事か?まぁ、俺はそれにまんまと引っ掛かってしまった訳だが…。
「一応言っとくが、その事他の誰かにバラしたら只じゃおかねーからな?」
「…勿論だ。牙狼の隊長を敵にするなど、命を捨てるようなものだ。」
別にそれだけで殺しはしないんだけど。なんか、牙狼の隊長クラスの評判はどうなってんのか不安になってきた。
「一方的にお前の情報を俺だけが知っているのも不公平だから…俺も正体を明かしておく。中東の傭兵部隊ジ・ハードに在籍している…。」
「ジ・ハード!?確か三年前、ノースコリーナとサウスコリーナの内戦で手を組んだ記憶があるぞ?かなり強い傭兵部隊だったな。確か団長が…『ムファマド』さんだっけ?」
ジ・ハード。特殊な能力者が多く、敵にはとにかく非情な"戦場の悪魔"と恐れられている中東最強の傭兵部隊だったハズ。
だが、団長のムファマドさんと親父は親交が深く、戦場ではよく仲間として作戦を共にする事が多かった。
「おお…"父"を知ってるのか!?そう言ば、父が牙狼には俺と同じ位の歳の天才がいると聞いた事があった。まさか、それがお前か…。」
天才って、照れるなぁ。でも、バケモノって呼ばれるよりはずっと良い。
「ムファマドさんとは少し行動を共にしただけだけど、熟練の強い戦士だったよ、今も元気かい?」
「ああ、元気だ。でも、もういい歳だからな…早く引退したがってる…。」
傭兵なんてのはいつも死と隣り合わせの稼業だ。少しでも縁があった人が元気にやってるなんて話を聞くと嬉しくなるなぁ。
「…で、本題なんだが、何故牙狼の隊長がこの国に…しかも、学校になんて通ってるんだ?」
「親父…イサミチ・コンドーが俺に世界を知れって事でね。ま、面倒だけど自由にやらせてもらってる。そう言うナジムは?」
「…俺も似た様なものだ。三年間、知識と経験を得ながら人脈を広げろとの父の意向でな。卒業したら直ぐに跡目を継ぐ予定だ。」
「へぇ〜、次期トップか。凄いな。」
「…お前は違うのか?」
「俺なんかぺーぺーだから。それに次の牙狼の局長は既に決まってるよ。」
まあ、間違いなくトシ兄だろうな。実力も人望もずば抜けてるし。
「お前程の男がぺーぺーだと言うのか…?やはり、牙狼とは戦場で敵対したくは無いな…。」
俺達傭兵は、決まった雇い主が要る訳では無い。昨日の味方が今日の敵になる事なんて珍しい事じゃない。
でも、確かに親父は信頼している傭兵団とは前以て連絡したりして敵対する事を避けてたな。実際ジ・ハードとは友好関係にあるし。
ジ・ハードの団長がナジムに求めてるのは、そういう信頼できる人脈を作り事なのかもな…。ナジムは見た所根回しとか苦手そうだし。
「…ま、お互い成長だな、ナジム。」
「…ああ、三年間、お前の側で勉強させてくれるとありがたい。」
俺としても、一人位は生徒の中に俺の素性を知る信頼できる奴がいるのは好都合だし。まぁ、ナジムとそんな信頼関係を結べるかはまだこれからだけどな。
ナジムと別れ、午後の授業を終える。時間はあっという間に過ぎ去り、放課後を迎えた。
「さてと〜、帰るか〜。」
「なぁリョーマ、一度俺を傭兵ギルドに連れてってくれないか?」
ジークが?この国の騎士団と傭兵ギルドは然程仲が良い訳ではないと聞いてる。戦時の際、国を衛る為の一心で戦う騎士団にとって、傭兵ギルドは所詮金の為に参加するという偏見を持ってるかららしいが、その騎士団長の息子のジークがギルドに行きたいとは?
「この間ロビンさんとも面識が出来たし、昨日のお前とナジムの模擬戦を見てたら、俺も違う角度から自分を鍛え直さないとな〜って考えてな。」
落ち込んでるかと思ってたんだが…ジークは立ち直りも早い様だ。ま、そうでなきゃ強くなんてなれないからな。
「私も御一緒していいですか!?」
ロルシーも!?
「私も聖女として回復魔法が使えるので、国からも立場を優遇されてる部分もあるんですが…私も自分の身は自分で守れる位の力が欲しいんです!ユリアみたいに。」
いや、回復魔法の使い手は戦時にも完全にサポート役に回されるから、力なんか特に要らないと思うんだけどな…。まぁ、向上心があるのは良い事ではあるがね。
「良いよ。実際、今日はギルドに顔出そうかと思ってたし。あ、ユリアはどうする?」
「…う〜ん、残念だけどパスね。今日はこれから公務があるのよ。また今度にするわ。あ、ロルシー…」
公務か。最近はすっかり忘れてたが一応は王女だもんな。なんかロルシーに耳打ちしてるみたいだが、この二人も随分仲が良くなったものだ。
「よし、んじゃあ行くか!」
さて…改めてギルドに顔を出すか。ロビンさんにも会いたいしね。
ギルドへ行くと、また受付で油を売っていたロビンさんが俺達を見つけて眩しい笑顔を浮かべながら手を振っていた。
「あら、君がお友達を連れてくるなんて珍しいわね。しかも、ジーク君と…聖女ロルシーさん?」
「はじめまして、ロルシーと申します、リョーマさんとは同じクラスなんですよ。これからは"一緒"に来る事も多くなると思うので、宜しくお願いします。」
丁寧に頭を下げるロルシーだったが、何処か刺々しいな…。
「…へぇ…、聖女様は随分アクティブみたいね。私はこのギルドのギルドマスターのロビンよ。こちらこそ宜しくね。」
「…おい、リョーマ、なんかロビンさんとロルシーの間に火花が散ってる様に見えるのは俺の気のせいか?」
「は…はは…き、気のせいだろ?うん、絶対気のせいだ。」
何がなんだか分からないが、とにかく二人とも握手してるし、気にしないのが一番だ!うん!
三年間、自由に生きるつもりではいるが、怠惰に過ごす気は無い。目一杯楽しみながら成長していかないとな。
これで第一部完結です。第二部は、取り敢えず予定にありませんが、気紛れで再開するかもしれません…。ここまで読んで頂きありがとうございました!