抜け駆け禁止同盟無双
闘技場は、たった今まで行われていた俺とB組のナジムとの模擬戦の影響で、不気味な程静まり返っていた。
手足が伸びるは首も伸びるは火を吐くはで、まさに人間離れの動きを見せたナジム。それを軽く一蹴してしまった俺…。
その攻防は、ひとつ前に行われた勇者ディーノと騎士団長の子息ジークの模擬戦を凌駕する程のものだっただろう。
そして…次の瞬間、静寂を打ち破るように歓声が上がった。
「うおーー、こんなスゲエ戦い初めて見た!!」
「あの東洋人、メチャクチャ強えー!」
「誰だ?アイツの事を口だけの雑魚だって言ったの!?」
「てゆーか、カッコイイ!!」
なんだ?ついさっきまで東洋人の猿扱いだったってのに…。
俺への称賛が鳴りやまない中、俺はジークの元へと移動した。
「ヒュ〜…やっぱお前は只者じゃなかったな。でもな〜…お前以外にもあんな奴がいるとは…俺もまだまだだな。」
どうやらジークにとっては今の俺の戦いは想像の範囲内だったようだ。それを聞いてちょっと安心した。ま、その代わりナジムと云う新たな強者の出現に驚いている様だが。
「ナジムねぇ…。多分中東の出身だろうけど、あの地域はクセのある戦い方する奴が多いからなぁ。それでも、あそこまでのゴム人間は初めて見たわ。」
「お前、中東の兵士と面識があんのかよ?凄いなぁ…。俺はやっぱりまだまだだな。」
ジークはどうやら今の一戦を見て意気消沈しているようだな…。見立て通り、ジークは褒められて伸びるタイプの様だ。
一方のディーノは…以外に冷静な顔で闘技場の方を見ている。でも、目には気力がみなぎっている様に見える…自分よりも格上の存在に触発されたんだろう。こちらも見立て通りかな?
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「ねぇ、リョーマ君って凄くない!?」
「凄かったね〜!それに、ちょっとカッコイイかも!」
「あんなに素敵なヒトだって知ってれば、もっと早くアタックしてたのに〜!」
今だ鳴り止まないリョーマへの歓声。それは、二人の女の決意を一層固めるものだった。
「…予想通り、リョーマ君への評価は一変してしまいましたね…。」
「関係無いわ。これから私達がやろうとしている事にはね…。」
二人の女は互いに頷くと、闘技場へと歩き出した…。
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「おい静まれ~!じゃあ女子の部の模擬戦を始めるぞ~。尚、女子の部は希望者のみで行う。模擬戦を希望しない生徒は今まで通り見学しておけ!」
女子でも模擬戦なんかする生徒いるんだな。この学園の教育方針は多岐に渡ってるから、女子で戦闘能力を求めてる生徒はそう多くは無いハズ。いるとすれば魔法を選講している女の子位か?
結果的に、A組B組の女子総勢40人の内、模擬戦を行う意思があるのは16人程だった。その中には…戦闘職では無いハズの聖女ロルシーと、王女ユリアもいる。天才魔術師は…見学か…。
先生が微妙な顔をしている。その視線の先には王女ユリア。模擬戦とはいえ王女を傷付けるのは流石に他の奴等も躊躇するだろうし、出て来られるだけで迷惑だろうからな…。
「ユリア、お前は模擬戦は出なくていい。他の生徒の迷惑だ。」
先生は王女と云えど偉そうな口調だな。どんな権力者にも偉そうにしている親父に良く似てる。
「私はこの学園に普通の生徒として入学したのよ?何か問題でも?」
「おいおい、気持ちは分かるが自重しろ。お前がいたら他の生徒が本気を出せないだろうが?」
「フフフッ…大きなお世話だわ。実は…私から提案があるの。」
ユリアが闘技場中央へとゆっくり歩いて行く。あれ?アンナさんだけならまだしも、ロルシーまでユリアに着いて行ってるぞ?
その間、俺は模擬戦を行わない女子生徒達に囲まれていた…。
「コンドー君って実は強かったんだねー!」
「スゴくカッコよかった!」
「今日放課後私達と遊びに行こうよ~!」
な…なんなんだこの状況は!?この間までとは雲泥の差だ!女の子達は皆、結構カワイイし…デュフ♪
「いや…俺、この国で面白い所なんて知らないしな~…」
「だったら私達がいろんな所に連れてってあげるよ!」
「そうそう!一緒に楽しみましょうよ!」
「あ、ジーク様も一緒に行きましょ?」
「え?俺も?」
ジークと目を見合わせる。そして、なぜかお互い顔が綻んでしまった。
「実は、いくら美少女とは云え、流石に聖女と王女だから扱いに困ってたんだよ…俺。」
「ジークもか?俺も…あの二人だと浮世離れし過ぎててさあ…デュフフ!」
当然ジークは普段からモテているのだが、騎士団長の息子で期待の星という事で高嶺の花の様な扱いだったらしく、女生徒の方から敬遠されてる様で本人は不満を抱いていた様だ。
「やっぱ、青春に異性との交流は必要だよな?」
「ああ。男のロマンだ!」
俺達は小声で囁き合いながら力強く握手する。ああ!なんか、楽しくなって来たなー!
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そんなリョーマ達を横目に、ユリアとロルシーのこめかみにはクッキリとした青筋が走っていた。
「…随分…楽しそうにしてるわね…あの二人。」
距離は50メートル程離れている。だが、ユリアとロルシーにはリョーマの表情が、喋っているであろう内容ですら想像が出来ていた。
「ああ…まずいですよ、ユリア!リョーマさんが毒牙に…」
「心配しないで、ロルシー。今から黙らせるんだから…。」
ユリアは微動だにせず、闘技場中央に立つ。
「で、ユリア、提案とは?」
ケースケもユリアの考えが全く読めず戸惑っている。
「そうですね…。模擬戦を行う生徒は16人。その中から、私、ロルシー、アンナを除いた13人を、私が一人で倒して見せましょう。」
ユリアの提案。誰もがその意図が分からず、また、意味が理解できずに呆然としていた。
「…おいユリア。お前、何言ってんだ?それじゃあこの模擬戦の意味に反するだろうが。」
「良いじゃないですか。私を相手に、他の生徒は思う存分力を見せつければ良い。…見せつける事が出来ればの話ですけどね。」
ユリアは本気だ。流石に模擬戦を行うと言った生徒達は、女性ながらも武に秀でた者、魔法に秀でた者ばかりなのだ。それを一人で相手すると言うのは、彼女達にしてみたらバカにされている感じがしたのだろう。王女を睨む視線に、王女に対する敬意は一切含まれていない。
「……チッ、他の奴等もやる気だな…。仕方ねぇ、じゃあ模擬戦を始めろ!」
ケースケ先生の合図で、まずは接近戦に自信がある生徒3人がユリアに襲い掛かる。得物は各々、片手剣、短剣、槍…勿論木製だ。
対するユリアは素手。
しかし、素手で一人目の片手剣での攻撃を白羽取りし、武器を奪って無力化すると、次の短剣使いに華麗なハイキックを喰らわせてKOさせ、三人目の槍をへし折る。
瞬時に三人をリタイヤさせると、折れた槍をそれぞれ遠距離にいた生徒に腹に投擲して二人仕留める。
直ぐ様移動を開始すると、あまりのスピードに面食らった三人の生徒を各々ワンパンで仕留め、合計11人。
既に詠唱が終わり、魔法を発動させようとしていた二人には、同じく魔法を、しかも、無詠唱で放って合計13人。
僅かに1分でミッション・コンプリートだった。
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……ユリア…強っ。え?王女って、こんなに強いの?ジークを見ると、俺と同じ表情をしている。つまり、王女の実力は明かされてなかったって訳か。
これには流石の先生も苦笑いしている。
「…まさか、王女様がこんなに強えとはな…、言うだけあるな。」
「ええ、自信が無ければこんな提案しないわ。王族ですもの、自分の身は自分で守れないとね。」
「さて、それじゃあ私の出番ですね。」
ロルシーが倒れてる生徒に近付き、手をかざすと…白い光が生徒を包んだ…。
回復魔法…。聖女の特権的魔法で、倒れていた生徒は次々と立ち上がる。
「さ、先生…。」
全ての治療を終え、まさに聖女の様な笑みでロルシーが先生に試合終了を告げるように促す。
「あ、ああ…これで模擬戦を終了する!あとは各自勝手に下校するように。」
なんとも言えない空気が漂う中、模擬戦は終了した。最後は、王女と聖女によるワンマンショーと化して…。
そして、その結果が俺にどんな影響を及ぼすか?この時の俺には全く想像出来ていなかった。
一旦教室に戻り、俺とジークはソワソワしながら、先程俺達を誘ってくれたB組の女生徒達を待っていたのだが、一向に来る気配が無い。それどころか、先程は俺の事を見直してくれた様子だったクラスの女子達も、再び俺を無視する様になってしまったのだ。
「…なあ、ジーク…さっきの出来事は、やっぱ夢だったのかな…。」
「う~ん…そんな事は無いと思うんだけどな~。」
ふと振り向くと、そこにはニコニコしているロルシーとユリア。今日は約束があるからとは言っておいたのだが、この二人もまだ席から離れる様子は無い。
「どうしたの?約束があったんでしょ?モテモテのリョーマくん。」
「あの…多分、先方の方に急用でも出来たんじゃないでしょうか?」
ニコニコしている…。ニコニコしているんだが…その笑顔の裏に、何か黒い影がチラついている気がした。
「もういいでしょ?多分待ち人は来ないわよ。私達ももう帰るし、一緒に帰りましょ。」
ユリアが立ち上がり、俺の腕を引っ張る。
「ん~…ま、いっか。やっぱり夢だったんだ、夢。ジークも帰ろうぜ。」
「え?夢な訳が………なんでもありません。」
ん?なんかユリアがジークの方を見ていた気が…まあいいや。俺がモテるなんてある訳無いし、いつものメンバーで帰るとするか~。