抜け駆け禁止同盟の作戦会議
翌日、ギルドの依頼を無難にこなして休日を過ごした。
俺のランクは現在Cなのだが、ロビンさんの独断で、普段ロビーの掲示板に出されない難しい任務を行わせてもらったったのだ。
だが、まあ難なくこなして見せた。それに対してロビンさんも最早然程驚きはしなかったが、報酬が60万ジェニーと破格だったのには驚いてしまった。…どうしよう?一気に金持ちになっちゃったよ!
…で、さらに翌日、いよいよ模擬戦の日を迎えたのだった。
「模擬戦か~。でも、ロビンさんの言う通りなら、俺はお前とは戦えないんだもんな~。」
登校中、隣ではジークが残念そうにしている。
「まあ、俺も絶対にお前と模擬戦を行う気なんて無いけど、ロビンさんに言われたからってそれに素直に従うなんて意外だな。」
「お前、この国の人間じゃないからそんな事言えるんだぞ!?ロビンさんはな、女ではぶっちぎりでこの国最強、男も合わせて10本の指に入る程の実力者だぞ?その上あの美貌…。この国の武を志す少年にとって憧れの存在なんだぞ!?」
え?ロビンさんって、そんな凄い人だったの??
「聖女や王女なんかどうでもいい!ロビンさんに押し倒されるとは…正直、お前をぶん殴ってやりたいぜ…。」
いや、ジーク、目が怖いよ…。
「今の話、もう少し詳しくお聞きしたいんですが?」
「ええ、そうね。王女命令よ。ジーク、全て吐き出しなさい。」
いつの間にいたんだろう?後方からは非常に冷たい視線を感じると、そこには怖~い笑顔で佇んでいるロルシーとユリアがいた。
「あ…すまん、リョーマ、俺用事があったんで先に行くわ!」
マッハのスピードでジークが去って行く。あれ?もしかして、逃げられた?じゃあ俺も…
しかし、既に俺の左手はロルシー、右手はユリアに掴まれていた。
「ロビンさんって…確か”銀の黒豹”の二つ名を持つ”あの”ロビンさんですか?」
「え?”あの”女子の憧れ、ギルドマスターの『ロビン・ウォーズリー』?一度剣術の稽古をつけてもらったけど、凛々しくて美しい方だったわよねえ…。そっか、リョーマはああ云う女性がタイプなのか…。」
二人とも、青筋が目立つよ?うん、美しい顔には相応しくないと思うから、まずは落ち着いた方が良いと思うな~、僕。
…その後、特に何をされるでも無く、両腕を掴まれたまま学校まで連行される俺。アンナさんはそんな様子を後方からニヤニヤしながら見ている。何?俺、何か犯罪を犯したかしら?
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昼休憩時間。ロルシーとユリア、アンナは、校舎裏に来ていた。
「…強敵ね。」
開口一番、ユリアが唸りながら呟く。
「ええ…よりによって”あの”ロビン様が相手とは…。」
同じく、ロルシーも困ったように眉間に唸っていた。
「やっぱりリョーマってモテるのかしら?まあ、顔は悪くないし、今はディーノとの件の風評被害のおかげで他の女性は見向きもしてないけど…」
「それも時間の問題ですよ、ユリアちゃん。リョーマ君は聖女として多くの騎士を見て来た私から見ても強さの底が見えませんからね…。もし、授業の中でその片鱗を見せつけられたら…同年代の女子など一発で惚れちゃいますよ?」
何気にサンドラ王国では、若い内は容姿もそうだが”強さ”が最も重要な男子のステータスだったりする。ユリアもディーノとの一件でリョーマの底しれぬ実力には気が付いていたのだ。
「ねえ?リョーマってそんなに強いの?まあ、身体を触った限りでは確かによく鍛えられた引き締まった身体をしてたけど。」
ユリアはまだリョーマの実力を知らない。だが、一度抱きついた事がある経験から、相当鍛えられている事は分かっていた。
「む~、羨ましいです。でも、ロビン様がリョーマ君に好意を抱くと云う事は、多分リョーマ君の実力はロビン様を超えているのかもしれませんよ?でなきゃ、あのロビン様が男性に好意を抱く訳がありません。」
「え?あのロビンより強いの!?おかしいでしょ?リョーマはまだ私たちと同じ歳よ?ありえないでしょ!?」
「いえ…むしろ、そうとしか考えられません…。ユリアちゃん、確かに私達はお互い抜け駆けはしないと誓い合いましたが、相手がロビン様となると話が変わってきます。なにせ、私達はロビン様とは親しい訳でも無いので、こちらから取り込む事も出来ませんし…。」
「うむ~こうなったら王女の特権で…」
そこで、アンナの横槍が入る。
「御二人とも、考えが甘い…、もう甘過ぎて反吐が出ますね。ジークの話だと、ロビン様はリョーマ様を押し倒していたんでしょう?つまり、未遂で終わったのかもしれないですけど、既にロビン様は全てを捧げる決意を持っていると云う事でしょう。御二方にその覚悟はありますか?」
ロルシーとユリアは押し黙ってしまう。実際、リョーマに対する想いはまだ始まったばかりなのだ。それなのに、いきなり身体を捧げる準備など出来ているハズが無いのだ。
「大体、抜け駆け禁止同盟などとヌルイ事を言っているから他に遅れをとるんですよ。この学園の生徒にも、好きになったら平気で身体を捧げるビッチな生徒なんて無数にいるんですよ?」
「うう~…だったらどうすればいいのよ!?一応私は王女なんだからね?そんなに安々と身体を捧げるなんて…」
「私だって、聖女として皆に讃えられてる手前、こんな若い内から純潔を捧げてしまうなんて…」
そんな煮え切らない二人に、アンナは猫目を大きく見開いた。
「だから甘いって言ってんだよ!?結局アンタら覚悟が出来てないんじゃないか!?そんなんで惚れたはれたと言ってんじゃないよ!!子供じゃあるまいし!!
結局アンタ等の想いなんてそんなもんかい?だったら、好きな男が他の女に掻っ攫われるのを指を咥えて黙って見ているがいいさ!」
アンナの勢いに何も言えなくなってしまう二人。確かに、自分達には覚悟が足りていない。それを充分思い知らされていた。
「…分かったわよ…。確かに、私達には覚悟が足りなかった様ね…。」
「ええ…。こんな事では、リョーマ君をお慕いしているなんて口が裂けても言えません…。」
そして、二人は覚悟を決めた様に見つめ合い、握手をする。
「私達は、私達のやり方でリョーマ君の純潔を守ります!」
「そうね。王女としてあらゆる権限を以って、泥棒猫を駆逐してやる!」
二人の眼が妖しく光る。そんな二人を見て、アンナは「だめだこりゃ…。」とため息を吐きながら…いっその事、自分がリョーマを頂いてしまおうかな…と考えるのであった。
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「はっくしょん!!」
う~、誰か噂でもしてんのかな~。モテる男は辛いぜ…な~んて、んな訳無いか。
「どうした?風邪か?」
………。
「おい、もういいかげん朝の事は許してくれよ?」
……………。
「謝る!ごめんって!今日学校終わったら飯奢ってやるから!」
「………その言葉、忘れるなよ?」
めちゃくちゃ食ってやる。しかも、めちゃくちゃ高そうな店に行ってやる!フッフッフ…後悔するなよ、ジーク!
「おい…言っとくけど、行きつけの大衆食堂だからな?」
………。
「いや、家は裕福だけど、俺自身はそんなに援助を受けてないから余分に金持ってる訳じゃないんだからな!?」
「……チッ、使えない奴め。いいよ、ただし、三人前は食うけどな。」
そんな感じで、珍しく男同士の昼休みを過ごしている俺とジークだったが、その頃ロルシーとユリアの間で恐ろしい陰謀が仕組まれつつある事を、この時俺は知る由もなかったのである…。