旅立ち
パッと思い付きで連載開始しちゃいました!
この作品は作者がのんびり気ままに連載させて頂きますので、宜しかったら見てって下さいね♪
創神紀790年3月、遥か東の国・ヒノクニ。港には、一人の少年と、少年を見送りに来たであろう総勢100人程の屈強な男達がいた。
彼等の所属する組織こそ、常勝無敗の傭兵団『牙狼』。戦場の死神とまで言われる猛者達である。
「いよいよ出立だな、リョーマ。」
別れを惜しむように少年に声を掛けたのは、牙狼副長『トシゾー・ヒジリ』。牙狼の中でも1、2を争う実力者であり、鬼のトシゾーと恐れられる男。
「サンドラ王国に行っても、僕達の事忘れないでよ?」
今にも泣きそうな表情で少年に抱き付くのは、牙狼一番隊隊長『ソージ・サワムラ』。ともすれば女性に間違われるほどの美少年に見えるが、その実力はトシゾーに勝るとも劣らないと言われている。
「お前はこれまで闘いにのみ生きてきた。これから三年間は自由に生き、見聞を広げろ。そして、成長して帰って来い。」
そして、この中で最も年配で、見るからにボスの威厳を醸し出しているのが牙狼局長『イサミチ・コンドー』。猛者揃いの牙狼を纏め上げる豪傑である。
その他にも、それぞれが一騎当千と言われる牙狼の隊長達が各々少年に激励の声を掛ける。その口ぶりは様々で、暫しの別れを惜しむ声や少年をからかう様な口ぶりだが、その誰もが少年を自分の弟の様に接していた。
牙狼は、局長のコンドーを筆頭に副長のトシゾーの下にそれぞれの隊が1~10まで存在する。その10名それぞれが、単独でも小国一つなら攻め落とせると言われる程の猛者達だった。
「……ありがとう、皆!俺…絶対に楽しんでくるから!!」
希望に充ちた瞳でそう誓った少年の名は『リョーマ・コンドー』。15歳。身長は175㎝、引き締まった身体にやや童顔だが鋭い眼光の持ち主で、長く伸びた髪を後ろで一つに纏めている。
腰には漆黒の刀身をした"黒刀"、脇差しには深紅の刀身の"血桜"。衣装は和服では無く、黒地の軍服にマントを羽織っている。これは牙狼の戦闘服であり、戦場でこの姿を見かけた敵対者は死へのカウントダウンが始まった証だと畏怖されている。
リョーマは幼少の頃、イサミチに拾われ、それからはずっとイサミチの息子として牙狼と共に生きてきた。物心ついた頃には既に刀を手にし、毎日の鍛練を惜しむ事無く続けて来た結果、13歳という異例の若さで十番隊隊長に抜擢され、牙狼の最強伝説に一役も二役も貢献してきた。その最たる武勲が、先のカンシン王国とルシアン共和国の戦争である。
牙狼はカンシン王国側に加勢してルシアン帝国と戦い、無事カンシン王国を勝利に導いた。その中でも最も大きな武勲をあげたのが、何を隠そう弱冠15歳のリョーマだった。
リョーマは最終的に、ルシアン共和国の王であり個人の力量なら世界最強の一人と言われたエメリヤーエンコ・ゴルバチョフ大王を一騎討ちで勝利し、それを以ってカンシン王国は戦争の勝鬨を上げたのだ。
既に十中八九カンシン王国の勝利が確定している中、ゴルバンは死に場所を求める様に牙狼の隊長クラスに戦いを挑み、たまたま最も近くにいたのがリョーマだったのだが、リョーマは逃げる事無く一騎討ちを受けたのだ。…死闘を終えた後、リョーマも1週間生死の狭間をさ迷ったのだが…。
その後、イサミチの計らいで、ゴルバンを討ち取ったリョーマの素性は隠された。リョーマが傭兵では無い普通の生活に憧れを抱いている事をイサミチは感じていた為、今回の戦が終わったらリョーマに外の世界を見せてあげたいと考えていたのだが、それにはゴルバチョフを討った侍の肩書きは大きすぎるだろうと考えたからだった。
戦から三ヶ月、傷も完全に癒えたリョーマはイサミチのコネクションで、遥か海を渡りアレキサンドリア大陸サンドラ王国にあるハイスクールに進学する事になった。
そして、今現在リョーマはサンドラ王国に渡る船の前で仲間達に見送られているのだ。
「ところで、これからリョーマが行く学舎って、確か王国のエリートが通う所なんでしょ?傭兵ギルドとか魔術師ギルドとか騎士団とかを目指すような。」
ソージが心配そうにイサミチに問い掛ける。リョーマが今まで普通の人間として自由に楽しく生きて来た経験が無い事を理解しての言葉だった。だが、リョーマ自身は牙狼での生活に満足していたし、楽しく生きていたつもりなのだが。
「別に強制的に騎士団やギルドへの道を進まねばならぬ訳でも無い。ただ、リョーマが隠す事なく武の実力を発揮したら、間違いなくスカウトされるだろうな。その時はリョーマ、お前の好きにしたら良い。」
イサミチがリョーマに与えた期間は3年間。だが、3年経ったら必ず帰って来いと言ってる訳ではなく、リョーマがもし他国で生きていきたいと言うなら意志を尊重するつもりの発言だった。…建前ではあったが。
イサミチが今回リョーマに外の世界を教えたいと考えた理由は、牙狼が世界でどう見られているか?牙狼の隊長クラスの戦力がどれ程異端なのかを知って貰う為でもあった。それを知ったリョーマが、その後も戦士として生きるのであれば、必ず牙狼に帰ってくる事まで見越していた。
勿論、リョーマ自身も漠然とだが自分はいずれ牙狼に帰ってくると思っていたので、騎士団やギルドなどもっての他だった。
「フッ、リョーマに騎士の礼儀作法などマスター出来る訳がないだろう。」
笑みを浮かべながらヒジリが呟く。普段から無口で、鬼と呼ばれる牙狼の副長だが、リョーマには兄の様な存在だった。
「なんだよ、トシ兄まで!まあでも、俺は騎士になる気なんかねーし、堅っ苦しいのは御免だけどね。ま、傭兵ギルドは以前登録はしているから、一応体験はしてみようとは思ってるけどね。」
この世界には騎士団でも軍隊でも特定の傭兵団にも属さない者が在籍する”傭兵ギルド”が存在する。基本的にギルドへの登録は世界共通で12歳になると許される。だが、12歳と云えば小等教育を終えたばかりなので登録する子供などまずいないのだが、リョーマを含めた牙狼の隊員は全員12歳でギルドに登録していた。これは、世界的な身分の証明証がわりとしてなので、ギルドの依頼を受ける者は殆んどいない。当然、リョーマも登録時にお試しで一つだけ依頼をこなしただけなので、ランクは最低のEランクだった。
因みに、ランクはE~Sで、牙狼での最高ランク保持者はランクAである。
「フッ、まぁ好きにするがいいさ。だが、忘れるなよ?”牙狼たる者、牙狼以外の者に負けるべからず”…をな。」
"牙狼たる者、牙狼以外の者に負けるべからず"
幾つかある牙狼の隊員心得の一つである。これは主に一対一の勝負にて、牙狼隊員は、牙狼に所属する者以外の者に負けてはならないと云う意味である。
牙狼は戦争における助っ人傭兵団である。当然、戦争においてタイマンになる機会はそう多くは無い。だからこそ、数少ない一対一の真剣勝負においては必勝の心構えで挑むのが最強集団の誇りとなっているのだ。
「当然…って言いたい所だけど、そんな事してたら終いに騎士団やギルドのトップとかと勝負しなけりゃいけなくなるかもしれないし、面倒事は御免なんだけどな〜。」
困った様に呟くリョーマに、その場にいた牙狼の隊員から笑みがこぼれる。
そうこうしている内に、出航を告げる汽笛が鳴り響く。
「おっと、時間だ。じゃあ…行ってくるよ。」
「うん、せいぜい楽しんで来るんだよ。」
リョーマはソージと最後の抱擁をかわす。ソージは22歳で、リョーマより7つも歳が上なのだが、一緒にいるとリョーマの方が兄に見えてしまうのだが。
「リョーマ…お前は牙狼の隊長だ。あまり正体を明かしたくないのは分かるが、それでも負ける事は許さんぞ?」
牙狼である事に強い誇りを持つトシゾーからは厳しい激励が贈られた。
「ん~、あんま目立ちたく無いんだけどな~。難しいな…。」
「フッ、馬鹿野郎。そんな事言ってるが、お前の負けず嫌いな性格は皆知ってるからこそ言ってるんだ。有り得ないだろうが、お前が本気になって負けるなんて事があったらその相手が誰であろうと、帰って来た時は俺が一から鍛え直してやるから覚悟しろよ?ま…あり得ないだろうがな。」
過去にもトシゾーの鬼のシゴキを経験しているリョーマの顔が青冷める。これは絶対にタイマン勝負をしなければならない状況を避ける様にしなければと気を引き締める。
出航を告げる汽笛が鳴り響く。
「さて、リョーマ、お前は確かに強い。だが、強さには責任が伴うのだ。牙狼以外の世界を見て、お前がこれから何を学び、どう感じるかは儂にも分からん。だから…先ずは楽しんで来い。今よりも成長したお前の姿を、隊員皆で待ってるからな。」
イサミチが泣きそうになりながらリョーマの肩に手を置く。リョーマを引き取ってから十数年、本当の子供の様に育てて来たつもりだった。そんな息子の旅立ちに、喜びと寂しさを感じていたのだ。
「…隊長…いや、オヤジ。……………泣くなよ、いい歳して恥ずかしい。」
そんなイサミチに、辛辣な言葉を送って自分も泣きそうになっているのを誤魔化すリョーマ。そんな二人を暖かく見守っている男達。その空気は、牙狼全体が深い絆で結ばれている事を物語っている。
リョーマは意を決した様に、勢いよく船に乗り込むと、振り返って満面の笑みを作った。
「それじゃあ、牙狼十番隊隊長、リョーマ・コンドー…隊を代表して自由に生きてきます!…………じゃあな、皆!また会おうぜ!」
「じゃあね、リョーマ!土産話期待してるからね!!せめて童貞くらい捨ててきなよ!」
「う、うるさい!!お、俺は女になんて興味無いだけなんだからね!!」
激しく動揺するリョーマに、隊員達から笑いが起こる。年頃の男が異性に興味が無い訳が無い事を皆が知っていたからだろう。
「心得を忘れるな、リョーマ。牙狼の誇りを忘れるな!」
「はい!トシ兄!」
厳しい言葉を掛けるトシゾーだったが、その表情は若干の笑みを浮かべていた。
「…行って来い。そして、世界を見てこい!我が息子よ!」
「…ああ、行ってきます!」
最後は牙狼局長としてではなく、父としての顔で告げるイサミチに、リョーマは胸が熱くなった。
隊員達が皆暖かくリョーマを見送る。今だけは戦場の死神の名は感じられなかった。
こうして、創神紀790年3月、ヒノクニ最強の傭兵団・牙狼十番隊隊長、リョーマの冒険が幕を開けたのだった。
それは、彼の地に於いて”英雄”となる男の冒険の始まりでもあった…。
毎日更新を心掛けますので、一日一回、更新されてるか確認して頂ければ幸いです!