拝啓、氷雪色の貴方へ
拝啓、愛しい氷雪色の貴方へ。
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拝啓、愛しいクロード様へ。
如何しても伝えたいことがあり、この手紙を綴らせて頂きました。
きっと、貴方が知れば驚いてその透き通った氷雪色の瞳の目を見開いて、驚くかも知れませんし、笑って私の元へ飛び込んでくるかもしれません。
そして、教えなかった私に対して怒るかもしれませんね。
その光景を思い浮かべると少し笑ってしまいました。
私と、貴方が初めて出会った日を覚えていますか?
貴方の意思を無視して決まった婚約で、貴方に会おうと訪れた私をアードレー侯爵様は図書室に案内してくださいました。
図書室にあるソファで、ゆったりとした格好で本を読んでいた貴方は、それは大層目を見開いて驚いてましたね。思い出すと、笑えます。
けらど、貴方を見た私も、かなり驚いていたのですよ?
白金色の長い髪を束ねて肩に流し、氷のように冷たい目をした貴方は、噂通りの美人さんでしたから。口には出しませんでしたけれど、女の私でも見惚れるほど貴方は綺麗でした。
今は亡きアードレー侯爵夫人に似たのだと、侯爵様が嬉しそうに話していましたよ。
貴方の弟であるアリステアは端整な顔立ちでしたけれど、性格も容姿も何処と無く侯爵様に似ていましたものね。
話を戻しますが、最初に驚いた顔をした貴方は次に、私の後ろにいた侯爵様を非難の目で見ました。
そして、「父上、僕に婚約者は必要ないと言ったはずですが?」と男性にしては少し高い声で言いましたね。
あんまりにも美声なものだから、歌を使った魔術を得意とする私も、自信を無くしたんですよ。
この私の自信を消失させたのですから、胸を張っても宜しいですわ。
苦笑いする侯爵様を助けようと、自己紹介した私に貴方は「自己紹介はいい。この話はお断りさせて頂く。」と、冷めた目で言いましたね。
話を知らなかったのは知っていますが、言わなかった私も悪かったですわね。
この婚約は既に決まっていて、1年後には結婚式も控えていると言った私を、貴方は睨んできましたね
怖かったけれど、例えその瞳に怒りを湛えていても、瞳は綺麗なままでした。
そうして私が貴方の屋敷に訪れる毎日の最初の一ヶ月は大変でした。
貴方は閉鎖的で、私が近付こうとすると拒絶するように、離れていくのだから!
話題も無いので好きな本でも聞こうとした私を「読書の邪魔をしないでくれ」と言って、あしらった日もありましたわ。思い出せば泣いてしまいそうです。
私達がやっと馴れ合ったのはそれから一ヶ月後。
きっかけは私の契約精霊である治癒属性のリンクが始まりでしたね。
あまり人馴れしないリンクが貴方の魔力に反応して近付いた時、貴方は精霊と触れ合えるのがよほど嬉しかったのか無邪気な笑みをこぼしました。
とっても素敵で、今でも私の脳内フィルターに収まっていますわ。忘れたくない思い出として。
そして、私が宮廷に仕える魔術師だということを打ち明けると、美しい目を見開かせて驚いてくださいました。
可笑しくて、少し笑ってしまったことは内緒です。
リンクを通して、私達は仲良くなりましたね。
私が見せる歌の魔術を貴方はそれはそれは興味深そうに眺めていました。
部屋の明かりを暗くして見せた星空の再現が出来る魔術を見せると貴方は綺麗だと言ってくれた。
とても、とても嬉しかったのですよ。
私が、婚約者を作ることを拒んだのはなぜか。と質問した時、貴方は「残してしまうから。」と言いました。結婚しても、命の寿命を定められたあなたは、妻となる方を残すのが辛いと、氷雪色の瞳を潤また。
きっと、貴方はもうあの時から死を覚悟していたのでしょう?
幼い頃から、不治の病を体に抱えていた貴方の余命は、生まれてから20年後。
私達が出会って、後三年後。結婚して、二年後。
嫡子の座を、アリステアに譲り、毎日を図書室に篭って過ごす貴方は、時折窓を見て、寂しそうな、何を我慢する様な顔をしていました。
だから、私は貴方に提案したのです。
「なら、これから、楽しい思い出を作りましょう」と。
思えば色んなことに挑戦してみましたね。
庭で植物を育てたり、馬に乗って街を視察したり。
元々、魔力量が多かった貴方は、魔術師である私に
とって、教え甲斐のある弟子でした。
初めて精霊の召喚に成功した時は、貴方のことなのに嬉しくって私が泣いてしまいましたね。
治癒の精霊であるリンクと同じくらい珍しい、氷の精霊を召喚し、更には契約を取り付けた時のあなたは、熟練の魔術師に見えてしまいました。
きっと貴方には魔術師としての才能があったのでしょう。
それに、気が付けなかったのは、きっと貴方が人生を諦めていたから。
私達の結婚式は、穏やかでとても私好みでした。
親族とお互いに仲の良い友人達だけを招いた結婚式で、貴方は私に愛を誓ってくださいましたね。
私ったら嬉し過ぎて泣いてしまって、貴方は困ったような笑顔で私を抱き締めてくれました。
初夜の事も、覚えていますか?
緊張し過ぎて、最初はもう壊物に触れるかのような触り方をする貴方の手付きがすっごくくすぐったくて、我慢したんですからね!
幾度か、行為を繰り返すうちに生まれた、私達の子。双子のアレンとカリンはどちらも私と貴方に良く似た子でした。
天使のような子供達に恵まれて、本当に嬉しかった。貴女は、一人一人その腕に抱いて、涙を流してくれました。
その時、きっと子供達は世界に祝福された。
ねぇ、クロード様。
私達の婚約を、政略だと思っていた貴方ですけれど、私から望んだ婚約だと言ったら、貴方は怒りますか?それとも、驚いた後笑ってくれますか?
私と貴方が会うのは、初めてではないのですよ。
私が魔術師なのを知っているでしょう?
まだ、幼い頃に私の師匠に習った猫になる魔術を試したところ、上手く成功したんです。
貴方は確か、花園にいました。とても、暗い顔をして、花を眺めていましたね。
どうしても、放っておけなくて、近付いた私を貴方は抱きしめてくれました。
優しい、貴方の微笑みに私、惹かれたんです。
それから、不治の病をその身に宿していると聞いて、魔術の勉強を精一杯して、魔術の力でどうにかできないか、考えたんですよ。
貴方と婚約している間も、屋敷で治癒や医療の書を読んで勉強しました。
貴方の病を治すことは難しくて。そんな時、リンクが治癒精霊の長、或いは精霊女王様なら治せるのではないか、と私には助言してくれました。
でもそれは、途方も無く難しかった。
精霊の長様や女王様は、会うことさえ難しいのですから。
けれど、歴代の英雄にも、彼の方々との謁見は許された方もいるとお聞きしました。
きっと周りの方々からすれば大変愚かなことに見えるでしょう。
けれど、私にとってそれは貴方と子供達の最後の希望に思えたのです。
きっとこの手紙を読んでいるということは貴方が生きて、私達の子供達と仲良く過ごしている証。
そこに、もしも私がいたのなら嘸かし幸せなのでしょうね。
愛しい氷雪色の貴方、いつまでも愛しています。
貴方の妻、アンジュより。
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震える手で、クロードは今朝方に届いた魔術の手紙を読んで、涙を流していた。
その手紙には、二人の出会いと馴れ合い、忘れたくない数々の思い出が遺されていた。
魔術は過去のアンジュから届いたもの。未来へ行く過程で手紙は少し古びてしまっていた。
過去、アンジュが何も言わず行方不明になったことがある。書き置きは残されていたが、記されていたのは、自分を待っていて欲しいの一言だけだった。
それから数ヶ月は帰ってこなかったアンジュをクロードは子供達を抱き締めて待っていた。
やっと帰ってきたアンジュは、魔力を失くして帰ってきたそれでも、笑ってクロードと子供たちを抱きしめていったのだ。
ーークロードにあった病は精霊女王様が消し去ってくれた、と。
精霊女王の助けを借りるのに使っただいしょうは、アンジュの魔力。もうこれから魔術を使うこともできなくなったアンジュだけれど、本人は全く気にしていないようだった。
アンジュの見せた愛は、やがて国中に広まって、劇や絵本にもなった。
「あら、起きたの?」
穏やかな声が聞こえて、クロードは開かれた扉からこちらを覗く妻を見て、駆け出して抱きしめた。
何が何だかわからないアンジュだったがクロードの手に握り締められた古めかしい手紙を見て、笑った
魔術は、成功したのだと。懐かしい自分の色香の残る魔力に、アンジュは涙を流して、クロードを抱き締め返した。
ご視聴?ありがとうございました笑
今回は、妻が夫に向けて綴った手紙をテーマにがんばりました。
本当は、夫が死ぬという悲恋を書こうかなとおもったんですけど、やっぱりハッピーエンドの方がいいですよね?