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ノンアルコール

 ノンアルコール飲料を飲んだというのに、いけない例が出てくる。薬が効きすぎたり効かなかったり。アルコールを摂取すると出てくる症状だ。

 わけが分からないままふらふらと数日を過ごす。睡眠バランスが崩れていきなり昼に爆睡をする。

 これは完全にアルコールが分解されていないんだなあと香は苛立った。

 作業所で職員に相談すると、職員の一人が言った。

「わたしも前にノンアルコールのドリンクを飲んだら、アルコールを飲んだような状態になったんですよ。」

 そう言うこともあるらしいと香は覚えておく。もう二度と飲むか、ノンアルコール。

 英一とはメールのやりとりも減っていっていた。もともと、香の方からしかメールは送らない。友達だと思えば、そうそうメールをするようもない。香が携帯電話だからメールだ。スマートホンだったらラインか。

 英一はノンアルコールのような奴だと香は自嘲した。

 本当の恋では無かったのかも知れない。だけれど恋と同じような反応をしてきてしまっていた。英一の方では友人と思っていたのに。

 夕方、香は大手古本チェーン店舗に足を運ぶ。セール最終日であった。セール対象商品は本であったが、CDシングルを買ってしまった。昼食が土産物のくず餅だったのでお腹が空いていた。エスニックカレーの店は開いていない。まだ三が日である。

 うろうろあるいて、コンビニ百均店に入り、菓子パンを二つとボトル飲料を買う。カフェオレにしようと思ったが、やたらにカフェオレの種類が多かった。五、六種類は、この辺では普通でない。都会まで一時間という田舎なんである。田舎は田舎なんである。気味が悪いのでどこにでもある大手のお茶飲料にした。

 お茶飲料は、製造過程を知ってからあまり飲みたくないのだが。お茶っ葉の茎の部分をぐらぐらに煮出して、その時、細かい芥も一緒だ、そして成分表記するためのマトモな原材料をちょこっと足す。そして全部濾して味を調えるために化学なんたらを入れる。

 薄暗い。外。

 大通りを外れて民家の並ぶ裏道にはいり、菓子パンを食べる。歩く。お茶飲料を飲む。人とすれ違う。

 頭がはっきりしない。ノンだかのアルコールのせいだ。この薄暗さは、人の顔をはっきりと見せない。メンチカツ入りのパンは、重たく胃に詰まっていく。

 スカートがばっさばっさと足に揺られる。

 家で、買ってきたCDを聞く。

 真夏の歌。正月に。調子がオカシいからだとも思うが、好きな歌は季節関係なく良く感じる。携帯電話でダウンロードして聞いていたのだが、CDが百円台じゃあ、買うと言うものだ。

「はあ」

 万年床に横になる。母がなんだか怒って部屋の扉を閉めようとする。ぐびりと喉を鳴らしてお茶を飲んだのを、わたしが咎めたと思ったらしい。

「疲れてため息が出ただけだよ。」

「ため息じゃなかったねっ」

「なに怒ってんの。」

 怒っていないと言いながら母は苛々していた。CDを聞き直す。

 真夏の肌、水着、浜辺、海辺のホテル。冬に夏の想像を巡らすと儚いが、胸を揺すられるような心地よさがある。

 ノンアルコールでも良いから酒が飲みたい気分だが、体質的に無理だと分かった香の正月。



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