ともだち
英一は友達なんだと香は思うようになっていた。すると気分は楽だった。
英一にメールを送る香。あなたと友達になれて良かったと。
それは良かったです。と、返信があって、香は、これは失恋だと思った。そして、友達が出来て良かったと思うようにした。
友人としてなら、通じ合う。作業所で気心の知れた先輩男性と話す。英一のことを相談する。
「あの人ははっきりしないからねえ。」
と、言っていた。
「でも香さんと英一君はとてもお似合いだと思うけどね。」
とも。
「あの人は友達だ。」
諦めたように香は言った。
「そうだね、いいじゃん、友達だよ。友達が出来たんだ。」
励ましてもらって、香は心が軽くなる。
「英一との相性をタロットカードで占ったら死のカードが出たんですよ。破壊と再生ですよ~」
「死って出るんだ。破壊とか、はは。」
恋人関係は破壊。友人として再生。英一も友人と言うことで肯定している。それでいい。それでいい。
それらがメールでなされ、実際に会うことの無いのが情けない。まあ、英一も調子が悪いらしいし。
なんだかすっきりしたくて香は髪を切った。駅近の千円カットだ。香にとってはそこが気が楽なのだ。
かなり短いベリーショートだ。前髪も額にかからぬよう上に上げる。髪は長いと言ったらずるずると、腰のあたりまであるのが好きだが、短いなら徹底して、坊主頭よりはある感じで。長いのも短いのも似合う。
先輩は歌っていた。
「シングルベール、シングルベール♪」
香は妙にツボにはまって一緒に歌ったのだった。シングルか。
シングルベル。シングルベル。鈴が鳴る。ちりーん。
わたしは今日、失恋をした。髪を切った。セミロングからベリーショートへ。理髪師が何か感じたとしても関係ない。すっきりした。
バスを待つ間、自販機でミルクティーを買い、飲む。紅茶の成分が、ミルクを入れると多少壊れるそうな。
今日はクリスマス。