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死神さん、訓練に行く。

時は流れて季節は夏。

野外訓練に出発する日である。


「じゃあ行こうか、シルヴィア」


「そうですね」

二人は高等部の生徒が集まっている校庭へと向かった。



「おーい!こっちだよー」

マイクが遠くから手を振って二人を呼ぶ。


「お久しぶりです。マイクさん」

初めて会ったあの日からマイクとは一ヶ月の間一度も会う機会が無かったのである。


「久しぶり、二人とも元気そうでよかった。そろそろ説明が始まるから、ちゃんと聞いててね」


「はい」


「分かりました」

そうこうしているうちに教師が一人壇上に上がった。


「今から野外訓練の説明をします。場所は王都を出て東。平原を越えた先にあるウルの森です。皆さんも知っていると思いますが、中心に向かう程魔物も強くなります。自分達の力に見合ったエリアでの訓練をするように。

冒険者を雇い魔物討伐の手助けをしてもらうことも禁止します。見つけ次第、訓練での成績を最低評価にするので、くれぐれもそんなことの無いように。以上です」

教師が壇上から降りると生徒達は五人から七人程で固まって次々に校庭から出ていった。


「僕達も行こうか」

マイクが歩き出し、それに皆が着いて行く。

まずは平原を越えなければならない。


「風が気持ちいいです」


「そうだね。王都から出るのは久しぶり」

平原を歩いて行くその途中でシルヴィアがマイクに声をかけた。


「そういえば……冒険者を雇う人なんているんですか?」


「毎年一人はいるらしいよ。僕達はそんなことしないけどね。自分達の力を試す場だと思っているからね」

シルヴィア達は、平原を越えて森まで到着した。森に着く頃にはシルヴィアとクレアの息は荒れていた。


「結構…はぁ…遠かったです」


「そ、そうだね…」

シルヴィアとクレアが息を整える。いくら魔法が優れていても体力や体格はまだ六歳相当なのである。


「拠点を作ったら魔物を討伐しに行くよ。テントを張るの手伝ってね」


「はい」


「分かりました」

シルヴィア達はテントを二つ張り、小枝を集めて拠点作りをした。


「じゃあ、魔物を探しに行こう。油断しないように、声を掛け合ってね」

六人で周りを見渡しているのもあってか魔物は直ぐに見つかった。

草むらに身を隠し魔物の様子を見る。


「フォレストウルフが三体か…先制で動きを封じたいな……」

マイクの呟きに対しクレアが小声で返事を返す。


「私なら出来ますよ」


「本当かい?……それなら動きを封じた瞬間に、全員で攻撃することにしよう」


「じゃあ…いきます!」

クレアから魔力が溢れる。


「ゾーンバインド!」

クレアの言葉と共にスパークが弾け、地面を伝い魔物の動きを封じる。


「お願いしますっ!」


「あ、ああ!皆、行くぞ!」

クレアの呼びかけに応えて呆気にとられていたマイク達が魔物に攻撃する。身動きの取れない魔物達は為す術もなく倒された。


「く、クレア。今のはなんだい?」


「今のは私の固有魔法…束縛魔法です」


「こ、固有魔法⁉︎クレアちゃんも使えるのっ⁉︎」

フラウが声を上げる。彼女は基本的に魔法ならなんでも興味を持つタイプなのだ。


「これは、頼もしいですね…」

シーナも感嘆の声を上げる。


「それじゃあまた魔物を探しに行こうか」


「……クレアには負けてられないです!」

シルヴィアも気合いを入れ直したところで再び魔物を探しに歩き出した。




「いたぞ…こんどはオークだ」


「次は私がやります。必ず封じ込めます」


「…分かった。頼む」


「アイスフィールド!」

地面が凍りつきオークの足を氷が伝う。手に持った棍棒も氷に絡め取られてしまう。この状態では、まともに動くことも出来ないだろう。


「いくぞっ!」

全員でオークに斬りかかる。

森に入ってからの二度目の戦闘も一度目同様あっさりと終わった。

その後サポート役を交代しながら戦闘を何度か繰り返し、ノルマを達成したところで拠点へと戻った。


「皆お疲れ様。シルヴィアとクレアもサポートありがとう、想像以上でびっくりしたよ」


「二人ともすごかったよっ、私なんかじゃかなわないなぁ」


「サポートのおかげで俺とシーナも動きやすかったしな」


「期待に応えられてよかったです」


「あとはそうだな…ノルマは達成したし、そろそろ日も落ちる。夕食にしよう」

マイクの合図で火を起こす。


「焚き火があれば大丈夫です…」

シルヴィアがほっと息を吐く。

夕食を食べ終わるとテントに入る。男女別なので、マイクとドランはいない。


「二人とも凄いんだね、六歳とは思えないなぁ」


「本当にそうね。魔法に関しては高等部の中でもトップクラスじゃないかしら?」


「そうですか?」

シルヴィアが首を傾げる。


「そうね。高等部でも氷魔法を使える人は殆どいないし、固有魔法持ちなんて存在すらしていないからね。二人共凄いわ」


「「ありがとうございます」」

会話を交わしているうちに時間が過ぎる。話している途中に見張り役で出ていったシーナとフラウが帰ってきた。


「今日は一旦寝ましょう」


「そうだね」


「………」


「……シルヴィア、言わなきゃ駄目だよ」


「ん?どうしたのシルヴィアちゃん?」


『ううっ……言いたくないですっ!でも…』

シルヴィアが言い淀んでいるとクレアが口を開いた。


「はぁ……じゃあ私が言ってあげるね」


「えっ…ちょっと待っ」

シルヴィアの言葉は、クレアによって遮られる。


「シルヴィアは明かりを点けてないと怖くて眠れないんです」


「ちょっ!クレア!」

シルヴィアが声を荒げる。自分で言えずに、クレアに言ってもらうなど本当の子どもの様で余計に恥ずかしいのである。


「そうなの?シルヴィアちゃん」


「うっ…そ、そうです…」


「シルヴィアちゃんも六歳っぽいところがあるんだね」


「点けていても大丈夫よ。気にしないわ、というか年相応の所があって安心したっていうか」


「私も親しみ易くなったかな」

シルヴィアの顔はいつもの様に真っ赤だ。

シルヴィアがクレアの方を見るとクレアが話し掛けてきた。


「なんだかシルヴィアのことが『妹』みたいに思えてきたなぁ」


「なっ⁉︎何言ってるんですか!」


「最初は大人びてるのかなって思ったんだけど……最近は背伸びしてる様に思えて可愛いなあって」

シルヴィアは中身との年齢差がある為余計にそう見えてしまうのだろう。


「私はそんなに子どもっぽくないですっ!」

シルヴィアがそう言うとクレアはにっこりと笑う。本当に妹を見ているみたいな笑顔だ。


「じゃあ、明かり消して寝れるようになったら子どもっぽくないかな」


「うっ……そ、それは……」


「冗談だよ。冗談」


「二人は仲がいいんだな」


「入学してからはずっと一緒なので」


「そうか…友達は大事にな?…そろそろ寝るとしようか、シルヴィアちゃん、明かり点けてていいからね」


「あ、ありがとうございます」


「おやすみ」


「おやすみなさいっ」


「おやすみなさい」


「おやすみなさい」

こうして野外訓練の一日目は、終わりを迎えた。





「ウルの森は遠いですね……あと一日いや二日かかるかもしれませんね…」

声の主は男。男は一人森に向かって走る。そのスピードは馬車など軽く上回っている。剣を背中に背負っているとは思えない速さだ。


「はあ……生徒達がまだ帰ってないといいんですが…間に合わなかったらまずいなあ」

独り言を呟くと男はさらにペースを上げた。




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