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死神さん、高等部に行く。

「おはよう、シルヴィア」


「おはようございます。クレア」

二人は今日も教室に向かう。今日は特別な授業を行うと聞いていたので足取りも軽い。

着席して少しすると教師が入ってきた。


「おはようございます先生」


「おはようございます」


「おはよう」


「今日は何をするんですか?」

クレアが首を傾げて尋ねる。


「今日は高等部の野外訓練で一緒になる人達と交流をしに行くのよ。二人共着いてきて」

二人が教師に連れられて教室を出る。

高等部の教室のある方に向かうのは二人にとって初めてのことなので、何処か落ち着きがない。教師は暫く歩いた所で足を止めた。


「ここよ。二人共緊張しなくていいからね」

扉が開かれる。そこには男女合わせて四人の生徒がいた。


「この二人ですか?」


「ええ、今日一日。仲良くしてあげてね?」


「はい。分かりました」

二人を連れてきた教師はその返事を聞くと退出した。


「えっと…シルヴィア・リートルートです。よろしくお願いします」


「クレア・フルールです。よろしくお願いします」

二人の挨拶を聞いたところで、茶髪の青年が話し始めた。


「聞いてた通りしっかりしてるなぁ…ああそうだ!僕らも自己紹介した方がいいよね。僕はマイク・クロード。この班のリーダーをやってる。あとはそこの金髪の男子がドラン。同じく金髪の女子がシーナ・クランベル。最後に赤髮の女子がフラウ」

紹介された順に皆が挨拶をする。


「よろしくな!」


「宜しく」


「よ、よろしくねっ!」

シルヴィアは紹介している隙に全員にサーチをかけたがこれといって特筆すべき事はなかった。


『私やクレアの方がよっぽど強いですが…まあサーチでは分からないこともあります』

シルヴィアの言うサーチでは分からないことそれは経験である。

シルヴィアもクレアも知識だけなら沢山持っているが、実際に使ってみるまでは役に立つかどうかも分からないものである。恐らくマイク達の方が経験は豊富だろう。


「それじゃあ…何を話そうかな…」


「あの…野外訓練について教えてくれると嬉しいです」


「そうか…クレアの言う通りだな。じゃあ野外訓練について説明するよ。野外訓練は三日間、僕達だけの力で、魔物や野生動物の住む森で生活するっていうものなんだ。昼間は魔物を規定数倒す。夜になっても、森からは出ちゃあいけないんだ。勿論、その間の夜はテントを張って交替で見張りをしながら過ごすことになるね」


『うっ……テントで眠るだなんて聞いてないですっ!』

シルヴィアが少し嫌な顔をしたのをクレアは見逃さなかった。


『シルヴィアも大変だなー……っとそうだ』


「魔物を規定数倒さないと、どうなるんですか」


「まあ、その場合は…色々と困ることになるけど……大丈夫!二人も優秀だって聞いているし、問題ないよ」


「……分かりました」


「あ、あのっ。私からもシルヴィアちゃんに質問していいですかっ?」

そういっておずおずと手を上げたのはフラウだ。


「はい、構わないです」


「シルヴィアちゃんのお母さんってアリアさんですか?」


「あ、それ俺も気になってたんだよなー」

ドランがそう合わせる。


「はい、そうですよ。私のお母様です」


「やっぱりそうなんですね!いやぁアリアさんは私の憧れで…シルヴィアちゃんと一緒に訓練ができるなんて光栄ですっ!」

クレアに話した時にも言われたことだが、アリアはかなりの有名人である。美しい容姿に強力な魔法。目立たない訳がないのである。


「そうだったんだ。アリアさんは僕も尊敬しているんだ。僕もアリアさんみたいに強力な魔法を使えるようになりたいんだ」

マイクが目を輝かせる。


「シルヴィアちゃんはお母さんの魔法見たことはないの?」


「えっ……それは、無くはないですけど…」


「どんな魔法?いつ使ったの?」


「……幻想魔法を、一年前位に見たことがあります」

勿論その出来事はあの一夜のことである。シルヴィアがあの時のことを思い出して身震いをした。


「幻想魔法⁉︎アリアさんの代名詞とも言われる魔法ですよね?なんでまたそんな強力な魔法を?」


「えっと……そ、そう。綺麗な景色を見せてくれたんです」


「へぇー…いいなぁ。私も見たいなぁ…」


「あはは…そうですね」


「ごめんねシルヴィアちゃん、フラウはアリアさんのことになると止まらなくて」



「あっ、大丈夫です。私もお母様が尊敬されているって聞くと嬉しいです」

そう答えるとシルヴィアはほっとしたように息を吐いた。


『あ、危なかったです。悪いことをしたお仕置きで魔法を使われたなんて、恥ずかし過ぎて言えないです』


『……シルヴィアまた嘘吐いてるな…皆は気付いてないみたいだけど。その時もまた何かやらかしたんだろうな…』

クレアはシルヴィアが嘘を吐いていることに気付いていた。そもそも、シルヴィアは嘘を吐くのが下手である。ちょっと注意して見ればすぐに分かってしまうのだ。


「なぁ…二人はどんな魔法が得意なんだ?それを聞いておかないと、連携も取りづらいしよ」


「それもそうですね…私はどちらかと言うと火魔法と水魔法が得意です」


「私は風魔法ですね」

それを聞いてマイクが話し出す。


「成る程、シルヴィアの火魔法は森じゃ使いにくいけど、水魔法も使えるなら問題ないしクレアの風魔法も便利だ。そうだな…そろそろお昼だし皆で食堂にでも行こうか」

マイクに従い全員で食堂に向かった。




「ねぇ…初等部の子ってあの二人かな?」


「そうじゃない?一目見て見たかったのよねー」


「人形みたい!可愛い〜」


「あれで魔法の才能もあるんだろ?羨ましいぜ…」

二人が食堂に入り席に着いてから周りはずっとざわざわしている。


「凄く…見られてます」


「あはは…そうだね」


「仕方ないよ、高等部でも二人のことは噂になってたんだ。僕も気になってたしね」


「早く食べて部屋に戻りたいです…」


「そうだね、シルヴィアの言う通りだ。さっさと引き上げるとしようか」

シルヴィア達は昼食をさっととって部屋に戻った。



部屋に戻ってすぐにマイクが魔石を一つ持ってきた。


「去年の野外訓練の映像を記録した魔導具だよ。魔石もあるし、見ていくかい?話では伝わらなかったことも分かると思うんだ」


「見たいです!実際どんなものか気になりますから」


「私も見たいです」


「じゃあ映すよ。ゆっくり見ていっていいからね」





「魔物は思ったよりも強くないですね」


「そうだね」


「ははっ、頼もしいなぁ。でも油断はしちゃあ駄目だからね、森の奥に行くほど魔物も強くなるからね」

シルヴィアとクレアは映像を食い入るように見た。ダイジェストとはいえ三日分それも全生徒のものである。時間はみるみるうちに過ぎて気が付けば夜になっていた。


「「今日は参考になりました。ありがとうございました。」」


「こちらこそ、二人のことを知れてよかった

よ」

挨拶を交わしシルヴィアが扉を開ける。

廊下は真っ暗、かと思いきや急に明るくなった。そしてまた少しして暗くなる。天井に付けられた魔灯が点滅しているのである。


「おかしいな故障かな?いや…今噂になっている幽霊だったりして!……なーんてそんなことある訳ないか…っとそれじゃ気をつけて帰るんだよ」

そう言ってマイクが扉を閉める。


「……シルヴィア、大丈夫?」


「………」

シルヴィアは無言でクレアの手を握ってぎゅっと目を閉じる。


「シルヴィア?」


「…ま、魔灯持ってきてないから…廊下は明るかったから」

シルヴィアはもうなりふり構っていられないのだ。体が震える、目尻に涙が溜まる。一刻も早く部屋まで帰らないと、いつ決壊するか分からない。


「部屋まで…つ、連れていって」


「…分かった、行こう」

クレアがシルヴィアの手を引いて歩きだす。

物音が鳴る度にシルヴィアの体が跳ねる。クレアの耳には鼻を啜る音も聞こえ始めた。


「着いたよ!」

その声と同時にシルヴィアは部屋に飛び込み明かりをつける。


「はぁ…ぐすっ…あ、明るくなりました」


「大丈夫?…泣いちゃった?」


「本格的には、まだなので…ぐすっ…うぅ…せ、セーフです。セーフなんですっ!…ぐすん」


「なら…良かったのかな?シルヴィア、今日はもう寝ようか?」


「そ、そうですね」


「おやすみなさい」



「お、おやすみなさい」

二人がベッドに入る。クレアはすぐ眠りに着いた。今日は緊張した一日だったのもあって疲れたのだろう。

一方シルヴィアは…


『またクレアの前であんな、あんな姿を…今回は泣いちゃいましたし…やらかしました。…そもそもあの魔灯が正常に機能すれば…』

シルヴィアの意識も思い悩むうちに、次第に闇に落ちていった。



数時間後。

シルヴィアの目がゆっくりと開く。

外はまだまだ暗い。


「ふぁ…トイレに…」

シルヴィアが魔灯をベッドから取り出すとそれは点滅を繰り返していた。


「へ?………っ⁉︎」

まどろんでいた意識が一気に覚醒する。

シルヴィアはぎゅっと目を閉じベッドに潜り込む。


『今噂になっている幽霊だったりして!』


「そ、そんなわけ…故障です故障」

口ではそう言いつつもシルヴィアはベッドから一歩も出ようとしない。ちらりと外を覗いてはまた隠れてしまう。


「あ、明るくなるまで……明るくなるまでです」

シルヴィアがこのまま目を瞑り朝までやり過ごそうと考えていた時。不意に思い出した。


「そ、そうだ…と、トイレっ!あ、朝までなんて…無理ですっ!」

シルヴィアがベッドの中でもぞもぞと動く。


「ど、どうしようどうしようどうしようっ」

焦るシルヴィア。取れる最善の手、それは。



「く、クレア!クレア!お、起きてっ…」

クレアに連れていってもらうことだった。

恥ずかしさで顔は真っ赤に染まっているし、時間を置かずに二度目の失態ではあるが、こうしなかった場合の結末は、目も当てられない。


「ん……ふぁ…?シルヴィア?…どうしたの魔灯も点けずに」


「く、クレア。ま、魔灯が故障して、それで…その…」


「それで…どうしたの?」


「……ぃ…に…」


「えっ?」


「と、トイレに連れていって欲しいんです!怖くて一人じゃ行けないんですっ…」

シルヴィアの顔は暗くても分かるほどに真っ赤だ。


「……分かったよ。ちょっと待ってね」




二人は、ことを済ませて部屋に戻ってきた。

「ううっ…さっきからこんな所ばかり見られてますっ…」


「仕方ないよ…気にしないで。魔灯も直ったしさ。ね?」

そう、二人が戻ってくると魔灯は元通り明るく部屋を照らしていたのである。


「うぅ…クレアを起こす前に直っていれば、直っていれば…」


「シルヴィアって幽霊も駄目だったんだね」


「………」


「大丈夫、私がついてるよ」


「……ありがとう」


「でも結局なんだったんだろうね。魔灯の故障?それとも本当に…」


「そ、その先は言わなくていいですっ!」


「分かったよ。それじゃあおやすみなさい」


「あっ…ね、ねぇクレア」


「ん?何?シルヴィア」


「クレアのベッドで一緒に、ね、寝させて欲しいです…」


「……いいよ。怖がりなシルヴィアのためだもんね」

クレアがベッドのスペースを空ける。


「こ、怖がりじゃない……ことも…ないですけど」

シルヴィアがそこに入り込む。


「ふふっ冗談冗談!それじゃ、今度こそおやすみなさい」


「おやすみなさい」

こうして、長い夜が終わった。






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