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死神さん、反省する。

『』内は実際に声に出していない言葉です。

シルヴィアが明かりを消し、ベッドに潜り込んでから数時間経ったが、まだ眠れないでいた。眠ろうと目を閉じる度に殺した動物の虚ろな目を思い出して眠れないのである。


「……あんなこと、しなきゃよかったです」

シルヴィアが後悔していると、階段を上がってくる音が聞こえた。

続いてシルヴィアの耳に水が滴る音が聞こえる。音はシルヴィアの部屋の扉の前で止まった。


「……お母様?」

シルヴィアが声をかけるが返事は無い。代わりに扉がゆっくりと開いていく。

それと同時に濃密な血の臭いが部屋の中に入ってくる。


「……っ⁉︎」

シルヴィアは咄嗟にベッドの下に潜り込み扉の方を伺う。そこには首の無い動物が何匹かいた。

「しルヴぃあーどコー?」


「な、なんで…そんな、嘘……」

シルヴィアの鼓動が速くなる。

動物は存在しない目で周りを見渡しているかの様に、真っ直ぐベッドに向かってきた。


『気づきませんように気づきませんように気づきませんようにっ』

シルヴィアは目を固く閉じただ震えていた。

そんなシルヴィアの願いが届いたのか、動物達はシルヴィアには気づかず、やがて扉の閉まる音がした。


「よ、よかったです……」

シルヴィアがベッドの下から這い出る。

そのシルヴィアの首筋に一滴、ぽたりと雫が落ちた。


「ひぅっ‼︎な、何?」

シルヴィアが首に手をやると、ぬるりとした感触があった。

シルヴィアの背に悪寒が走る。あの時の血飛沫と同じ感触。シルヴィアは油の切れた機械の様に、ぎこちない動きで天井を見上げる。

虚ろな目でシルヴィアを見る、動物の頭と目が合った。


「みーツけター」


「きゃあああああああああ‼︎」

シルヴィアが叫んで尻餅をつく。

足はガクガクと震えて、立つことすら出来ない。


「ミんなのイのチ、かエして?」


「ごめんなさいっ‼︎そんなつもりじゃ…返す方法なんて、分からないです…」


「じゃア、かわリにソノいのチ……ちょウだイ」

そう言うと頭がするすると、蜘蛛の様に降りてきた。

シルヴィアは床を這って逃げ出す。顔は青褪めて、目には涙が浮かんでいる。

扉に向かって、逃げ出したその足に動物が噛み付いて、しがみつく。

しがみついているのは頭だけなのに、足はひどく重くなって、もう前に進むことも出来ない。どんどんとベッドの方に引きずられる。


「待って‼︎ごめんなさいっ…嫌だ、誰か、助けて!」

シルヴィアの抵抗も意味をなさず、ついにベッドの上に引きずり上げられた。

シルヴィアは仰向けにベッドに寝かされ押さえつけられ、手足を動かすことも出来ない。


「ごめんなさい…ごめんなさいっ……ゆるしてくださいっ…」

シルヴィアの顔は涙でぐしゃぐしゃになってしまっている。涙で滲んだ視界にはゆっくりと引き上げられるギロチンが見えた。

あれが落ちれば間違いなく命は無いだろう。


「おなジよウにくビをきりおトしてあゲル」


「いや…いやぁ…助けて、誰か…お願い…」

シルヴィアが助けを求めるが、誰一人やってこない。


「じゃア、さよナら」


「待って!待ってよ‼︎謝るから!」

しかし、シルヴィアの声も届かず、ギロチンが落とされた。


「いやああああっ!……あれ?」

シルヴィアが恐怖で跳ね上がるとそこは元のベッドの上だった。動物もいない、勿論ギロチンも無い。あるのは汗でじっとりと濡れた寝間着と、涙でびしょびしょになった枕だけである。


「………夢?…なんだ、夢だったんですか。

…お母様に、怖い夢を見て泣いたなんて恥ずかしくて言えないし、魔法で綺麗にしておきます」

シルヴィアは窓の外を見る。まだ真っ暗だ。


「飲み物を取りにいきましょうか。喉が渇きました」

シルヴィアが扉を開けて外へ出て一階に飲み物を取りに行き、またすぐに部屋に戻ってくる。


「あれ?扉が開かないですね。何でですかね?」


「ナんでダロうね?」


「えっ……」

シルヴィアが目を見開く。そこには、血を流しじっとこっちを見る猫の頭があった。


「な、何で⁉︎ゆ、夢だったんじゃないんですか⁉︎」


「みんナー、つギこそつかマえるよー」

上がってきた階段から幾つもの首無しの死体が這い上がってくる。


「こ、このっ‼︎サンドウォール!」

シルヴィアの魔法で目の前に土壁ができ、死体とシルヴィアを隔離する。


「魔法が使えれば、どうってことないです。さっきはちょっと焦りましたが大丈夫です」

シルヴィアが安心していると土壁にヒビが入り始める。


「えっ?」

土壁はあっという間に崩れて、死体が続々と出てきた。


「と、とりあえず逃げましょう」

シルヴィアが廊下の奥へと走る。突き当たりはアリアの部屋だ。

しかしいつまで走ってもアリアの部屋に辿り着かない。まるで、廊下が伸びているかのようだ。


「つ、疲れてきました。早くこの夢、覚めて欲しいです」

シルヴィアが走るペースを落とす。その時死体の爪がシルヴィアの足を引っ掻いた。


「痛っ!……あれ、痛い?夢なのに、何でですか?それに、疲れてますっ」

シルヴィアの顔から余裕が消える。

今までの余裕は夢だと思っていたからなのである。現実なら、捕まったらただでは済まないだろう。


「に、逃げなきゃ!」

シルヴィアが再び走り出すが、まだ五歳である。すぐに息が切れてしまう。


「はあ……はあ、もう、走れないです…」

シルヴィアの体に死体が群がる。

シルヴィアの体に傷をつける。


「い、痛い!ごめんなさい…ごめんなさい」

謝っているうちにシルヴィアの意識は消えていった。




「ん……ここは?廊下?」

シルヴィアが意識を取り戻すと、そこは階段を上ってすぐの場所だった。


「結局さっきのは夢?…分からなくなってきました。まぁ、いいです。今度こそ寝ます。動物のことはいったん忘れましょう」

シルヴィアが扉を開けようとするが、開かない。


「またですか?」


「そうダね」

また、同じ様に猫が声をかけてくる。


「捕まったら、痛いし、逃げましょうか」

シルヴィアはしばらく逃げ、そして疲れて捕まった。


「痛い、ですが。まあ、また意識が消えるまでの間の我慢です」

シルヴィアは軽い気持ちで捕まった。

きっとすぐに終わると。




「い、たい…も、もうやめて。ごめんなさい私が、悪かったです、だから…」

かれこれ二、三時間。シルヴィアは体を引き裂かれ、噛みつかれしている。

シルヴィアは自分の考えの浅はかさを後悔するのとともに謝罪を続けている。

動物達が時折話す、シルヴィアに対する恨みの言葉がシルヴィアにそうさせていた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

シルヴィアは涙を流して謝罪を続ける。

もう、夢だろうと、現実だろうと関係なかった。自分が悪いことをした。それだけを考えていた。

いつまでこうしていたかは分からないが、シルヴィアの意識は闇に落ちようとしていた。


「シるヴィあのいのチだけでは…たリない、もうひとリいるニんげんをコろそウ」

この家にいるのは今はシルヴィアとアリアだけである。


「え…ま、まって…」

シルヴィアが何か話す前に、意識は落ちた。




「ん……そ、そうだ!お母様の部屋に!」

シルヴィアは廊下で目を覚ましてすぐにアリアの部屋へと向かった。体の傷も無くなっている。今回はすぐに辿り着けた。

アリアの部屋の扉は幾つもの引っ掻き傷がついていて隙間から血が流れていた。


「あ……ああ…」

シルヴィアは震える手で扉を開ける。

扉を開けてすぐに見えたのは腹部から大量の血を流し、壁にもたれかかっているアリアだった。


「あ……うぁ……え」

言葉にならない声を上げるシルヴィアの心は後悔でいっぱいになった。


「わ、私のせいだ。動物なんて、殺さなければ、殺さなければ……」

シルヴィアが俯きうわごとの様に呟く。


「シルヴィア、あなたがやったのね」


「はい……ごめんなさい。………えっ?」

シルヴィアが目線を上げると、アリアが立っていた。血も何も流れていない。


「な、なんで?だってさっきは……」


「あれが私の固有魔法。幻想魔法よ」


「そ、そうだったんですか。驚きました」


「そんなことより、シルヴィア、あなたが動物達を殺したのね」


「………はい」

ほんの数分前、アリアの目の前で殺したことを自分から話しているのだ。シルヴィアももう誤魔化しが効かないことは分かっていた。


「まぁ、殺すことは別にいいわ、いずれやることが早まっただけだから」


「え?」


「魔物にいつ襲われるかわからないしね。できるだけそういうことにためらいを持っていないほうがいいの」


「そうなんですか」


「私が怒っているのは嘘を吐いたこと。まあ今回は十分に優しくお仕置きをしたし、もう嘘はつかないでくれると嬉しいわ。いつも冷静なシルヴィアが泣き叫ぶまで魔法をかけたから、身に沁みて分かったでしょ?でも、今度嘘を吐いたら……どうなるかしら?」


「は、はい。もう嘘は吐きません」



「じゃあ、朝ご飯にしましょう」

シルヴィアはアリアの怖さを知った。自分の子どもに、体を切り裂かれる幻覚を見せたからだ。


「拷問官なんてのが、ありましたね。あれで『優しく』ですか」

シルヴィアはアリアの後を追って一階へと下りた。

そして、その夜。


「おやすみなさい」

シルヴィアが明かりを消す。

その瞬間。体は震え始め、自然と目には涙が溜まり、凄まじい不安に襲われた。


「ま、魔灯、魔灯をっ!」

魔灯とは魔力を注ぐことで光を出す魔道具である。シルヴィアの部屋にもある。なかなか高い代物である。

シルヴィアが魔力を流しこみ明るくなると体の震えは止まった。


「なんだったんでしょうか今のは?とりあえず…サーチ」


シルヴィア・リートルート


HP 130/130

MP 818/820



魔法

火魔法Ⅳ

水魔法Ⅲ

風魔法Ⅳ

土魔法Ⅲ

回復魔法Ⅲ

強化魔法Ⅰ

生活魔法Ⅱ

特技

礼儀作法Ⅲ


【恐怖】

暗闇

幽霊

殺害


「【恐怖】ですか…昨日のせいですね。…もう二度と嘘は吐かないようにしましょう」

シルヴィアは魔灯を点けたまま眠った。




数週間後


台所に皿の割れる音が鳴り響く。

シルヴィアが注意されたのにも関わらず皿洗いを水魔法と風魔法でやったからである。

ちょっとコントロールをミスしたことで、アリアのお気に入りの皿を割ってしまった。


「やってしまいましたが……怒られる前に土魔法でお皿を直してしまいましょう、そうすれば問題ないです」

シルヴィアが証拠隠滅のため土魔法を発動させようと魔力を練り始めたその時。


「何をしているの?シルヴィア」

すぐ後ろからアリアの声が聞こえた。

シルヴィアは振り返ることが出来ない。

アリアはきっと笑顔だろう。しかし、目は笑っていないだろう。

だから。


「えっと、その……違うんです」

シルヴィアは咄嗟にそう言ってしまった。


「そう。違うのね?」


「えっ⁉︎あっ、いや違わなくて…」

シルヴィアが慌てて言い直すがもう遅い。


「シルヴィアは、そんなに倉庫に入りたいのね」

アリアが笑顔でそう言ってシルヴィアを抱える。逃げることは出来ないだろう。


「い、嫌……っ」

真っ暗な倉庫が近づいてくる。


「うあぁ……」

喉元過ぎれば熱さを忘れる。

後悔先に立たず。

口は災いの元。

シルヴィアの第一声が言い訳でなくなるのはもう少し先の話。






「ごめんなさい!ゆるして!出して!」

シルヴィアは見た目通りの五歳児らしく泣き叫んだ。


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