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死神さん、嘘を吐く。

月日は過ぎてシルヴィアは二歳になった。

今は夜、シルヴィアはいつものように月を眺める。


「はぁ……綺麗です」

シルヴィアにとって夜は最も好きな時間。それは死神時代から変わらない。

出来ることならずっと月を見ていたいのである。


「ふぁ……もう眠くなってきました。二歳の体じゃ駄目ですね」

しかし体は二歳児、夜になると自然と眠くなってしまう。

シルヴィアはまだ満足に夜起きていることが出来ないのだ。

ごそごそとベッドに潜り込み眠りにつく。


「おやすみなさい…」



翌朝、シルヴィアは起こされることなく自分で起きる。

階段を降りて一階で朝食を食べ終わると魔道書を読み漁り魔法の練習をする。


「サーチ」

シルヴィア・リートルート


HP 40/40

MP 360/420


魔法

火魔法Ⅲ

水魔法Ⅲ

風魔法Ⅳ

土魔法Ⅱ

回復魔法Ⅱ

強化魔法Ⅰ

生活魔法Ⅰ

特技

なし


「お母様と比べるとまだまだですけど、二歳児なら充分です」

シルヴィアは本をベッドの下にしまうとまた眠りにつく…昼寝である。

夜の月を少しでも長く眺めていたいからだ。


「この体では…動ける時間が短いです…」

こうしてシルヴィアの一日が過ぎていく。

三歳になってからは礼儀作法や計算をある程度学ぶことになった。

意識が引き継がれたシルヴィアからすれば簡単過ぎて眠くなるようなものだった。

だが体は子供、ある日疲れが溜まって魔道書を出したまま眠ってしまった。


「シルヴィア、起きなさい」


「ふぁ……どうしたんですかお母様」

目を擦りながら返事をするシルヴィアはどこか眠そうだ。


「この本は?」

シルヴィアの意識が一気に覚醒する。

眠気は吹き飛び嫌な汗がでてくる。


「えっと、その……」


「勝手に持ち出したのね」


「……はい」

シルヴィアは怒られることを覚悟して目を伏せる。


「もう……言ってくれれば教えてあげたのにこう見えても私、魔法は得意なのよ」

サーチしたので知ってますなどとは口が裂けても言えない。


「……怒らないんですか?」


「え?もちろんよ、私だって五歳ぐらいには魔道書を読んでいたしね、シルヴィアは私よりも早く興味を持ったみたいだし、幾つか魔法を覚えてたりもするんじゃない?」


「えっと、火と水と風と土、あとは強化と回復と生活魔法…です」


「そんなに!ふふっ、シルヴィアは私よりもきっと優秀よ。嬉しいわ」


「そ、そうですか?」


「ええ、でも借りるのなら借りるってちゃんと言ってね。私、誤魔化しや嘘を吐くのは許さないから」

アリアが真剣な顔でシルヴィアを見つめる。


「はい、分かりました」


「よろしい!それじゃあ、これからは私も魔法を教えてあげる」

アリアに教えてもらうことでシルヴィアの魔法はさらに上達した。

子供というくくりで考えると、右に出るものはそうそういないだろう。


シルヴィアは五歳になった。

アリアからの勧めで来年からは学園に通うのである。

今は基本的な勉強と礼儀作法を中心に教わっている。


「シルヴィアは賢いわねーこれなら学園でも大丈夫そうね」


「ありがとうございます。お母様」


「じゃあ、今日はここまでにしましょう」


「ちょっと外に出てもいいですか?」


「ん?いいわよ。気をつけてね、私はシルヴィアの部屋の掃除をするから、何か会ったら呼んでね」


「はい」

シルヴィアが庭へと出る。

自分一人で外に出られるようになったのはここ最近で、それからは頻繁に外に出ている。

その理由は……


「そろそろ……魂が見たいです」

死神時代にしていた魂の鑑賞、罰を受けてなおシルヴィアは止められなかった。自由に動けるようになった今、生物を探しに行ったのである。


「何処かに手頃な生物は……いました」

シルヴィアの目線の先には猫や鳥がいる。


「ウィンドルーム」

風魔法で猫と鳥を捉えて自分の目の前でまとめる。死神の時にも何度もやってきたこと、命を奪うことに躊躇いなどない。


「じゃあ…ばいばい。ウィンドカッター」

これで魂が見れる。そう思っていたシルヴィアの視界を血飛沫が埋めた。


「え?」

間抜けな声をあげたシルヴィアの視界には、切り落とされ転がった動物の頭部が見える。

そのどれもが光の無い虚ろな目でシルヴィアを見ていた。


「ひぁ…ち、違う。そんなつもりじゃ…」

シルヴィアの身体は生ぬるい返り血でベトベトになっている。ぬるりとした感触を感じてシルヴィアの口に胃酸がこみ上げる。

死神の時とは全く違った結果。死神の時の殺しは綺麗に終わっていた。

シルヴィアが本当に何かを殺すのはこれが始めてだと言ってもいいだろう。


「ち、違う。私、わ、悪くない…」

現実逃避を始めたシルヴィアを引き戻したのは…


「シルヴィアー?あんまり奥まで行っちゃ駄目よー!」

アリアの声、庭から呼んでいるがいつこっちに来るかは分からない。


「か、隠さなきゃ…」

シルヴィアは死体を草むらに押しやると生活魔法で血を跡形もなく消し、庭へと戻った。


「あら、戻って来たのね。二階の窓から森に入るシルヴィアが見えたから、降りて来たのよ」


「ご、ごめんなさい。心配をかけました」


「いいわよ。……シルヴィア、少し顔色が悪いわ。大丈夫?」


「は、はい!大丈夫です」


「そう?それならいいけど…じゃあ、ご飯にしましょう」


「分かりました」


「今日はシルヴィアの好物を作ったの。たくさん食べてね」


「は、はい」

返事とは裏腹にシルヴィアは殆ど食べていない。脳裏をよぎるさっきの殺害のせいで食欲など湧かないのである。


「どうしたの?やっぱり、具合悪い?」


「い、いえ、そう言うわけでは……ないですけど…」


「……ねぇシルヴィア。さっき森で何をしてたの?」

シルヴィアの体が反応する。死神時代の最期にも体感した、問い詰められるプレッシャーから汗が流れる。


「と、特に何も?」


「本当?じゃあ、私が今から見て来てもいいかしら?」


「えっ……」


『まずい、まずいです。あれが見つかったら…いや、でもあれが私の仕業かは分からないんじゃ…ち、ちゃんと隠したし大丈夫です』

この考えが甘いことも今のシルヴィアには分からない。シルヴィアの様子がおかしくなったのは森に行ってからなのだから。


「いいですけど…」


「じゃあ、行って来るわね」

しばらくしてアリアが帰ってくる。


「草むらに動物の死体があったわ」

シルヴィアの心臓の鼓動が速くなる。

まさに最も聞きたくない言葉だったからだ。

見つからなければなどという甘い幻想は一瞬にして消えてしまった。

少しの間の沈黙が流れる。シルヴィアが本当の事を話そうと口を開こうとする。

それをアリアが遮った。


「あれを見たから、気分が悪くなったんでしょ?」


「へ?」


「え?違う?」


「あ、そ、そうです。始めてあんなのを見たので……びっくりして」


「……そうね、もう休みなさい。動物達も埋めておいてあげたわ」


「えっと、それじゃあ……おやすみなさい」


「えぇ、おやすみ。…いい夢が見られるといいわね」

シルヴィアが二階へと上がる。

扉が閉まった音がしたところでアリアは深く溜息を吐いた。


「本当のことをシルヴィアから言ってくれると良かったんだけど。…誤魔化し通すつもりなのかしら」

アリアはシルヴィアがやったことなど分かっていたのである。

シルヴィアから話をしてくれることを望んでいた訳だが…


「嘘つきなシルヴィアには優しくお仕置きをしてあげなくちゃね」

本当はバレていることを今のシルヴィアは知らない。いつも優しいアリアの称号に拷問官などという物騒な物があったことももう忘れているのである。


「あ、危なかった。バレてなくてよかったです」

シルヴィアが扉を背にへたり込む。


「今日は疲れました。もう寝ましょう」

シルヴィアがベッドに横になる。


「おやすみなさい」


一階ではアリアが魔力を練っていた。


「シルヴィア、比較的優しいお仕置きにしておいてあげるわ。しっかり、反省しなさい」


静かにシルヴィアの部屋に向かって魔法が打ち込まれた。






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