第八話
第八話です!楽しんでいってください!
やっと、珠気村まで到着しました。
まさか、あの駅から3時間程も掛かるところに二人の住む村、珠気村が在るとは思いもよらなかった。
しかも、街を抜けたところでさらに車はスピードを加速させた。
舗装されていない狭い道を祖父の運転は、まさにジェットコースターさながらの動きしながら前進していく。
いつもなら両親の運転する車にしか乗らない優子にとって、慣れない人の荒い運転は恐怖でしかなかった。
隣に座った花子も時々、
「ちょっと、スピード落とした方がいいんじゃない?」
と何度か不安気な様子をしていた。
けれども、途中から慣れたのか腹を括ったのか、何食わぬ顔をして祖母と積もる話を始めていた。
優子といえば、唇をきつく結びシートベルトにしがみついていた。
しかし、まったく優子は変わった娘である。車はジェットコースターのような動きなだけあって、だんだん優子は可笑しさがこみ上げてきたようだった。
車の動きと一緒に、上へ下へ、右へ左へ、前へ後ろへと何度も飛び跳ねる。
その上、森に囲まれた曲がりくねった道に優子達は翻弄され続けた。
道は益々細くなり、人の統べる世界から遠ざかったためか、木々は大きく枝を此方にまで広げている。
それはまるで、森という一つの生命体の中をちっぽけな生き物が駆けずり回っているような気にさせた。
そんな中突然、片側の景色が緑一色から解放された。
そこには一本の川が流れている。
優子は、言葉を失った。
今まで水と呼んできた蛇口から出るそれや、ペットボトルに詰められたそれとは川を流れる「水」はまるで別物だった。
もっとその瞬間を目に焼き付けようと窓を開けた。
速度を出している車の窓からは、一気に外の空気が流れ込んでくる。
今は八月上旬、暑い時期のばずだが空気は冷たく澄んだものだった。
車から落ちないように気をつけながら顔を外に少し出してみると、一瞬で風に髪を煽られ視界を遮られる。
それでも優子は息を吸い込み、体に入ってきた空気は肺だけでなく頭の中まで澄み渡っていく。
「どう、綺麗でしょ?」
花子は、自慢気に優子に言った。
顔を引っ込めた優子は、風にボサボサにされた髪を直しながら応える。
「うん、綺麗なところだね。本当、綺麗だ」
優子はその後、外の景色を眺め続けていた。
何はともあれ、こうしてやっと珠気村に辿り着いたのだ。