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神の泉  作者: 中村いな
第二章
8/15

第七話

第七話です。楽しんでいって下さい!


もしよければ、感想やアドバイスを

頂ければなと思います。


どうぞ宜しくお願いします!

 新幹線の中は適当な室温で保たれており快適だった。

 また普段乗らないのと、日常から解放されて旅行へと向かう周りの雰囲気からか優子は久々に浮き足立っていた。

 新幹線を降りて、電車に乗り換えても見慣れない景色やその土地や人の雰囲気が彼女の気持ちを一層高揚させた。

 新幹線を降りてから電車に揺られ始めて結構な時間が経ったような気がした頃。

 最初は電車内も何人か立っている人が居たはずだが、いつの間にか殆どいなくなっていた。

 いつもなら、生徒が多く利用する登下校に電車を利用しているからだろうか、余計に電車の中は静かに感じられた。

 奥の方に一人だけ乗客が残っていたが、その人もまたすぐ降りていってしまった。

 向かい側の車両の窓から見える景色は、ますます緑と青の二色ばかりに変わっていく。

 隣でうつらうつらしている花子と外を見つめる優子以外には、車両の中に人間の気配はなかった。

 電車の走る音だけがやけに響く。

 こうも静かだと、もしかするとこの電車を動かしているのも他の何かな気がしてくるから不思議だ。

 そう考えると、優子の鼓動はだんだん早くなっていく。

 それは見知らぬ土地で何処まで行くのか分からない不安と、もしかしたら何か特別なことが起こるのではないかという期待からだったと思う。

 そろそろ一度、どの駅で降りるか確認しようと母を起こすと、聞いたこともないような駅名の所に電車は停車した。

 すると目が覚めたらしい花子は、


「ここ、ここ!降りるよ!」


と言って、キャリーケースを引っ張っていく。

 その母の後ろを優子は慌てて着いて行った。

 二人が降りた駅はとてもこじんまりしていた。

 たった二つしかないその改札を抜けると、人気は殆ど無かったが道路はちゃんと舗装されている場所に出た。

 特に何もないからか、やけに道が広く感じた。


「ここが、言ってた超が付く田舎?」


「違うよ。ここからはおじちゃんかおばあちゃんが車で迎えに来てくれるはずだから、ちょっと待っとこうか」


 そう言うと「飲み物買って来るね。」と言って、花子はすぐそこの自動販売機の方へ向かって行ってしまった。

 待つこと約20分。

 炎天下の中でまだ見ぬ祖父母を待つ間、影の下で花子はスマートフォンをいじり、優子は文庫本を広げていた。

 立っているだけで、じりじりと汗ばむ手で何度も本を持ち替える。

 それでも時々ページに指の形が付いてれてしまった。

 あまりの暑さから先程までのわくわく感が薄れてしまい、また本の内容にも集中することが出来なかった。

 なんとか気を紛らわせながら待っていると、突然角からかなりのスピードで黒の軽自動車がこちらに向かってきた。

 二人の目の前を過ぎたかとを思うと、そのまますぐそばで停車した。


「ああ!」


 花子はいつも以上に口角をあげて、その車に駆け寄って行く。

 その姿は、まさに「娘」の姿だった。

 助手席から降りてきた女の人は、小柄で柔らかい雰囲気のおばあさんだった。

 柔らかく浮かべられたその笑みを見ればこの人が花子の母であり、優子の祖母なのは一目で分かった。

 花子は久々に会えた喜びを全身から放ち、挨拶を交わしている。


「優子、こっちに。」


 花子がそう呼ぶと同時に、運転席からは祖母や花子とはまるで真逆の無表情のおじいさんが出てきた。

 この人が祖父なのだと、この状況からして当たり前なのだが、それとは別にすぐ優子には分かった。


「娘の優子、今年で16歳なの。」


「はじめまして」


 口からついそう漏れたが、一度会っているはずなのに優子は可笑しいことを言ってしまった。


「まあまあ、大きくなってな。一度、会ってるんよ。赤ん坊の頃だから、覚えてないかもしれなんけどね」


 優子や花子よりもずっと多くのことを見てきただろうその目で、孫の頭からつま先までを眺める。

 その目元にすっと皺が入いると、優子と花子を見比べて笑顔で頷いていた。


「さあ、二人とも暑かったろう。乗りんさい」


 祖母がそういうと、優子の横から祖父の腕が伸びてきて、優子と花子のキャリーケースを引っ張っていき、後ろに積んでくれた。

 優子は、「すみません」と祖父のその背中に礼を言う。

 花子と優子は後部座席に乗り込んだ。


「はあ、涼しいわねー」


 やっと比べものにならない程涼しい空間にありつくことが出来て、二人揃って一息つく。

 ふと優子がバックミラーに目を向けると、運転席の祖父と目が合ってしまった。

 目元に刻まれた皺がその年齢の高さを伺わせるが、きっと若かりし頃から変わっていないと思われる鋭い眼光だった。

 優子は、その目から逸らさなかった。

「この人は、紛れもなく自分のおじいちゃん 」ということが、長いこと会えなかった時間を超えて心から分かった。

 何故かと聞かれても、家族だからとしか答えようがない。


「さあ私達の村、珠気村たまのきむらに帰ろうかね」


 その言葉を合図に、車は誰もいない道路へと進み出した。

《お知らせ》


更新する度に

Twitterでお知らせしています。


中村いな【Ina_syousetsu】です。


どうぞ宜しくお願いします!


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