第十一話
心の中を読めたらなんて時々思うけれど、
やっぱりどう望んだってそんな能力は
身につけられません。
「言葉」にしなきゃ伝わらない。
第十一話をどうぞ。
さてと、っと手を打つと「じゃあ私、隣の部屋使うから」と言い残して、優子の母は部屋を後にしていった。
遠ざっていく足音が聞こえなくなるまで、出て行った後を見つめ続ける。
遂に1人きりになった。
部屋の真ん中で、畳の上をずるずると体を引きずり四肢を放り投げてみる。
ー 静か ー
やっと一息つけたことで、優子は自分が思いの外疲れていることに気付いた。
ー どうしようかな、これから。まあ、どうもこうもやれることは分かってるか ー
「本を読む、宿だい、べんきょう、」
瞼はゆっくりと降りては開き、また降りていく。
ー そもそも、ここにはなにがあるんだろ……ー
優子達が珠気村を訪れることが決まった後、出発の日まで村のことを詳しく聞いたり調べたりすることはなく、母も何も言わなかった。
珠気村のことも、村の人のことも、何も優子は知らない。
ただ瞼が閉じた後も、あの鮮やかな緑は消えなかった。
目を覚ました時、一瞬自分がどこに居るのか分からなかった。
目を開けても、閉じても見えるものは「闇 」。
いつもなら街灯や家庭から漏れる明かりのおかげで夜と言っても自分の近くの景色ぐらいは認識できる。
けれど、ここには街灯どころか近くに家がない。
手に触れる畳の感覚が今、どこに居るのかを思い出させてくれた。
よく見渡すと、ほんの少しだけ明るくなっている方向が分かった。
ゆっくりとした足取りで部屋を出ると、優子は目を凝らして進んでいく。
突き当たりを曲がると明かりの漏れている部屋が分かった。
襖の手前まで来ると速度を落として、おずおずとした雰囲気で和室の前に立つ。
「あ、優子、目が覚めた?ちょうど良かった。晩御飯食べようか」
「疲れとったんじゃね、優子ちゃん。やっぱり、長旅は疲れたんじゃろう」
優子の祖母も労いの言葉を掛けてくれながら、運んできたご飯を食卓に並べていく。
「さ、そんなところに立っとらんと、こっちに来んさいな」
促されて、彼女は母の横に座った。
未だ声の一つも聞けていない祖父の様子を横目でちらりと伺ってみると、その視線と合ってしまった。
すかさず顔を前に戻す。
「それじゃあ、手をあわせて」
「いただきます」
その後は、ご飯を食べながら積もりに積もった話をした。
主に母と祖母のやり取りだったが、時折相槌を打って優子も会話に参加する。
どんどん熱を帯びていく話は、だんだんと二人の食事の手を緩めていった。
皿によそっては手を止めて語り、いつの間にか皿が空けばまたよそって会話に戻るという具合に。
祖父は食べ終わるや否や席を外してしまった。
どこへ行ったのかは分からない。
話の終わりが見えなくなってきた頃、母はふと手首を返した。
「あ、もうこんな時間。そろそろお開きにしないと」
それを合図に、村へ訪れて一日目が終わりを迎えた。
この神の泉は次、いつ投稿するのかは
分かりません。
ただ、優子の夏休みを私は見届けたいと
願っています。