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気の身気ままに  作者: 猫の手
2章 エルフの森
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2.薬草

「おはよう、リョータ」

「何でここにいるんだ・・・」


リーネの声で目を覚ました。部屋を改装した際に外が見えるように作った小窓から外を見ると、まだ日が昇り始めた頃と言ったところか。

それはそうと何故リーネがここにいるんだ。


「ごめんなさい。朝から出かけるとまで言ってなかったのを思い出してこちらから来たの」

「ああ、そう言う事か。にしても、よくここが分かったな」

「川へ向かっている最中にクーが気づいてくれたのよ。事情を説明したら背中に乗せくれたわ」

「キュー!」


リーネの後ろから元気なクーが姿を現した。

川まではそこまで距離は離れていない。恐らくクーは気配で気づいたのだろう。リーネに首を撫でられて嬉しそうにしている光景を見ながら布団から出る。


「とりあえず着替えて準備するよ。そういえば朝飯は済ましたの?」

「ううんまだよ。こっちで食べようと持ってきたわ」


リーネの片手に木で作られた小さな箱がある。弁当箱のようなものか。

リーネ達に部屋から出て行って貰い、着替えを済ませ広場に向かう。


「それ肉?」

「そうだけど」


朝食に用意した肉にリーネは物珍しそうに見つめていた。

洞窟内、特に食料庫は常に涼しく、ある程度湿気があるので冷蔵庫代わりにしている。そこには狩りをした際の大量の肉が置いてある。

カビや腐敗の心配はあったが数日経っても変色や嫌な匂いも無く。むしろ熟成されて美味しくなっていた。


「朝食に食べるの?」

「何か変かな?」

「変じゃないけど、あまり食べないものだから少し珍しくて」

「そうなのか」


リーネと話しながら横で小さなブロック肉を焼いて行く。香ばしい香りが洞窟内に漂い始める。


「お祝い事とかで食べるぐらいね。普段は魚とか麦や豆を使ったものばかり」

「狩りはあまりしないのか?」

「ううん狩りはするけど肉って臭みが強いじゃない。それを抑えるのに香草を使うんだけど、その香草もあまり多く無いのよ」

「あー臭みか」

「でもリョータの今焼いている肉ってあまり臭くないわね」


焼き終わった肉を器に入れて行きながら自分が狩り後の処理について思い出していた。

実際に魔獣の肉は臭い。クーは平気で食べているが俺にはきつかった。

その為、内臓類は全て綺麗に捨て、残ったものを川にさらしてようやく食べれるようになった。それでも臭う事は臭うが耐えられない程では無い。


「今度狩りに行く時に俺がやった処理を見てみるか?もしかしたら少し違うかもしれないし」

「そうね。それじゃ狩りに行く時教えてくれる?」


リーネの言葉に快く了解と伝え、朝食の用意ができたので食べ始める。リーネの持ってきたものはパンのようだ。箱の隅には果物が入っていた。


「ねぇ一切れ貰っても良い?」

「良いよ」


ずっと物欲しそうに見られていた為まぁいいかと思いつつリーネに一切れ渡した。


「んー、美味しい」

「一部干し肉にもしたいけど、塩と胡椒が欲しいんだよな」

「どちらも高いわね。塩なら少し安いから買えると思うけど」


やはり調味料類は高いか。そういや冬場はどうしているのだろう。


「冬場って?」

「あー寒い時期はどうしてるんだ」

「保存している麦や豆を少しずつ使いながら暖かくなるのを待つわよ。あとは寒くなる前に狩りに出て干し肉を作ったりもするわね」


塩はそこで使うらしい。そうなると思った以上に塩と胡椒は手に入らない気がしてきた。

それと気づいた事がある。言葉は通じなかったが四季があるようだ。それなら農園を作ってみるのも良さそうだ。問題は種籾が手に入るかどうかだが。


「大変だな」

「そうでも無いわよ。寒い時期は寒い時期なりに内職に精を出せるからね。作ったものは交易品になってお金になるから」

「そのお金で足りない分を買うのか」

「そうよ」


リーネの住んでいる村の少し離れた場所に行商人が通るらしく、よく売買してるらしい。

何でもエルフの作るものは価値が高い為、売る相手もリーネ達が信頼できると判断をした一部の人間のみにしか売らないのだそうだ。


「ん?そうなると俺はリーネに信頼されているのか」

「何もしないって点では信頼してるわよ?」


それはそれでどう反応すれば良いのだろうか。そんな事が顔に出ていたのかリーネはくすくすと笑っている。


「冗談よ。そうね昨日助けて貰ったのと、奴隷の話をした時に不機嫌になったからかな」

「それだけで信頼するのか?」

「あとは貴方の周りに良い風が流れているから」

「良い風?」

「あ、そか。リョータは精霊の声は聞こえないのよね」


どういう事だろうかと思っていると、洞窟内にそよ風が吹き始めた。

リーネが手を翳し魔法を使っているようだ。


「魔法を使う時って精霊に呼びかけて、精霊が応えてくれた時に初めて魔法が使えるようになるの。だけど精霊にも感情があり意思がある。嫌がっていると精霊は応えてく


れずに魔法は不発に終わる。私達エルフは風の精霊と一緒に暮らして来た。だから風の魔法が得意なの」

「この風は?」

「この風はリョータの周りにいる精霊にお願いしてみたものよ。貴方随分と懐かれているわよ」


にこやかな笑顔でリーネは話すが俺からすれば見えない相手な為、どうしたら良いのか分からずにいた。


「それなら俺も魔法が使えるのか?」

「どうかな。個人の適応にも寄るから出来るかもしれない、としか言えないわ」

「うーん、錬金術はできるんだけどなぁ」

「・・・私の耳がおかしくなったのかしら、今何て言ったの?」

「だから錬金術だよ」


手元にあった石に簡単な陣を作成し延べ棒のようなものを作ってみせた。それを見たリーネは唖然としている。


「リョータ、それ私以外に誰かに教えたりした?」

「いや、リーネだけだ」

「そう。それならリョータ、それは今後誰にも教えないで。絶対に」

「何故?」

「良いから!」


凄い剣幕で言われたので俺はただ頷く事しか出来なかった。それを確認すると何やらぶつぶつと独り言を言い始めるリーネに俺は一言言った。


「なぁ、そろそろ出かけなくて良いのか?」

「えっ?」


すでに日は昇っている。それを見たリーネは慌てて支度をし、俺も付いていく形で出かけるのであった。


・・・・・・

・・・・

・・


「この花の根がよく効くわよ」

「なるほど」


リーネから薬草の知識を教えて貰いつつ必要な野草の採取を行っていた。

俺とリーネの後ろからクーが付いてきている。レムも付いてきているが、何故か手当たり次第に俺とリーネが集めている野草を取り込んでは吐き出したり、そのまま吸収し


たりしている。安全かどうかを選別しているのか。と思ったが集めているものの中に吐き出しているものもあるのでよく分からない。


「ところでさ、その模様は何?」

「これ?」


今日のリーネは昨日のワンピースでは無く背中に弓を持ち武装している。武装と言っても軽装で急所になりそうな箇所は金属で覆い、それ以外は動きやすいように布地にな


っている。その為か昨日は足首しか見えなかった下半身はミニスカートになっており、長いソックスのようなものを履いたすらっとした足が丸見えであった。上半身も腕の


方は肩と手は防具で覆っているが腕は素肌を晒している。

その腕と一部素肌を晒している太股に何やら模様が施されていた。


「うーん・・・」

「別に言いたくなければ言わなくても良いよ」

「そう言うわけじゃ無いんだけど、リョータなら良いかな。リョータはハイエルフって聞いたことある?」

「知らないけど、名前からしてエルフの上位なのか?」

「その認識で合ってるわ。そのハイエルフの特徴としてこの模様があるのよ。この模様は魔力を高めるものとして生まれつきあるの」

「つまりリーネはそのハイエルフなのか」

「ええ・・・気持ち悪いでしょこれ」


何処か自傷気味にリーネが言うのに疑問を感じた。何かあったのだろうか。

別段気持ち悪い模様では無い。体に合わせて流線的に描かれており、むしろどこか艶かしい。一体どこまで描かれているのだろうか。


「気持ち悪いか?」

「えっ?」

「むしろ綺麗だと思うけどな。体のラインに合わせて伸びている模様はどこか神秘的な雰囲気があるし」

「そ、そう?あり、がとう」


素直に思ったことを口にするとリーネは気恥ずかしそうに俯いてしまった。何だか言ってる自分も恥ずかしくなり視線を違う方向へと逸らしてしまう。

そして気まずい。何か話題を変えた方が良さそうだと思いついた事を口にした。


「そういえば、今日も1人だけど複数人で行動することはあまり無いのか?」

「えっ、あーそんな事は無いわよ」


リーネも話に乗ってくれたので話題変えは成功したようだ。


「むしろ本来なら2人以上で行動するんだけど、今はちょっと別の事情があって人が少ないのよ」

「別の事情?」

「魔獣が出るのよ」


魔獣が出るのは当たり前だろう。と思ったが何か違うらしい。


「ただ出るくらいならいつものことだから気にしないんだけど、村周辺を荒らし回るようになってきたから討伐することになったの。けど・・・」

「けど?」

「その魔獣が見つからないのよ」


荒らし回る魔獣が見つからない。荒らし回るのなら姿形くらいは見ていそうだが、そんな事あるのだろうか。


「その魔獣を見つけて討伐する為に大半が出払ってて、仕方ないから私1人で行動してるのよ」

「人間の仕業とかは?」

「それも考えたけど足跡が違うから今回は関係ないと思うわよ」

「なるほど」


人間の仕業の線は薄い。それなら隠蔽が得意な魔獣とか、正直出会いたくは無い。


「あれ、結界があるから大丈夫と言うわけでも無いのか?」

「結界は隠蔽するだけで、何かの拍子に迷い込んだりする事はあるのよ。だから今回迷い込んだ魔獣に苦戦してるわけ」


やや愚痴を言うような感じでぶつぶつ言い始めたリーネに苦笑しつつ話を整理してみた。

村周辺を荒らし回る正体不明の魔獣。それを討伐しようと村から人が出払っている。村から人を減らしている?

だけど村周辺なら何かあれば村にすぐ戻れるし、普段から少なからず魔獣が迷い込んでいる事からも何度も魔獣との戦闘経験は積んでいそうだ。

それじゃ荒らし回る理由は何だろうか・・・。


「リョータ?」

「うん?あ、ごめん。ちょっと考え事してた」

「もしかして魔獣の事?それなら大丈夫よ。リョータが心配しなくても私達は強いから。それよりも残りの薬草を集めましょう」

「そうだな。うん、そうしよう」


リーネが大丈夫と言うのだから、俺が考える事では無いんだろう。それよりも残りの薬草採取を終わらせる事に専念しよう。


・・・・・・

・・・・

・・


「人手が多いと早く終わるわね」

「これで終わりか?」

「ええ、数日を予定してたけど今日中に終わるとは思わなかったわ」


太陽が少し傾いた頃、リーネが必要としていた薬草を取り終えた。予想よりも多く採取出来たらしい。

リーネは残りの時間をどうしようかと悩んでいる。


「ねぇ、リョータ達の住んでいる洞窟を見せてくれない?」

「良いけど何も無いぞ」

「構わないわよ。今朝入ってから気になってたのよね」


リーネの要望に応え洞窟に戻ってきた。丁度昼時なので案内する前に昼食を挟んだ。


「肉、気に入ったのか?」

「ええ、臭みの少ない肉がここまで美味しいなんて・・・」


リーネは昼食も持参していたが別に肉を用意してあげた。ずっと調理中の肉を物欲しそうに見つめられていたから等と言う理由からではな無い。あくまで俺があげたに過ぎ


ない。うん。


「エルフは肉好きなのか?」

「私は好きよ。お年寄り連中はあまり好まないわね」

「単に好みの問題か。それにしてもよくそれだけ食えるな」


リーネの前にはリーネが持参した大きなパンと豆と木の実。それに俺が用意したブロック肉だ。

このブロック肉、中々分厚く切って用意している。リーネの要望から大きめに用意したのだが俺よりも食べている。


「これぐらい普通よ?」

「俺よりも多いのに、よく太らないな」

「そうね。太った事は無いわね」


一体どこに消えているのだろうかとリーネの体を上から下まで確認してある一点に目を向けた。そこにはそれように作られた金属の防具により形を整えられた二つの双


丘が鎮座している。なるほど、この大きさなら維持する為にも必要なのだろう。


「・・・リョータ、何か失礼なこと考えていない?」

「いや、そんなことは無いよ」


リーネに気づかれた為、すぐに目線を横に逸らした。眼福物から目を背けるのは非常に残念である。


「美味しかったわ」

「部屋の案内は少し休憩してからにしようか?」

「うん。少し休憩を挟みたいかも」


そんなリーネに苦笑しつつ食器を片付けて行きながら、さてどのように案内しようかと考える俺であった。

ここまでお読み頂き有難う御座います。

感想・誤字脱字受け付けております。

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