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気の身気ままに  作者: 猫の手
2章 エルフの森
7/16

1.エルフ

一部設定を変えました。

数週間くらい経過した頃。

魔獣相手なら1人でも苦戦しなくなっていた。


「人間を相手にはしたくないな・・・」


魔獣相手なら何ともないが、これが人間相手だとどうなるか分からない。一番良いのは、そんな機会に出会わない事だ。

空の訓練については中々良い動きをするようになったと思う。クーの首を可能な限り下げて貰えれば俺自身も地上相手の魔獣に戦う事ができるようになった。そのおかげで狩りも順調に進んでいった。

そんな中、レムが成長した。と言っても一回り大きくなっただけ。それ以外は相変わらずのスライムのようなゼリー状の身体をしている。

知識も蓄えて来たからか、最近よく世話を焼くようにもなってきた。俺が訓練中に怪我をした際、いつの間にか持っていた布と薬草で手当てしようとしてくるようになったのもその一つだ。

クーの方は特に変化は見られない。元々クーが強いから気が付いてない可能性もあるが、当の本人に聞いても首を横に振るので何も変わっていないのだろう。またダークドラゴンに会う機会があれば聞いてみるか。


・・・・・・

・・・・

・・


とある日、川で魚を捕まえているところ、クーが何かに気がついた。


「グルル・・・」

「ん、何かいるのか」


クーは警戒する時など野太い唸り声をあげる。最初は驚いたが、よく考えればドラゴンなのだから当たり前かと後から思い直したものだ。それに一早く気がついてくれる事でこちらも対応しやすくなる。

愛用となっているハルバートを持ち臨戦態勢に入る。レムも草陰に隠れ横から援護する形で準備に入っている。

クーが警戒している方向から何やら音が聞こえてくる。その音は少しずつ大きくなっていく。こちらに近づいているようだ。その音からすぐそこに何かがいると身構えた瞬間、森から人が飛び出して来た。

飛び出してきたのは女性だった。だが普通の女性では無い。尖った特徴的な耳、腰まであるだろう長い金髪、緑を基調としたワンピースのような一枚布を着ている。それらの特徴から俺の頭にある言葉が浮かび上がった。エルフだ。

そのエルフはこちらを見て足を止めた。恐らく武器を構えているので警戒されているのだろう。


「た、助けてください!」


だが、決心したのか助けを求めてきた。


「ドラゴンの後ろへ!」

「は、はい!」


エルフが急いでクーの後ろへ移動するのと同じくらいに、エルフが走って来た方向から人が現れた。今度は人間の男4人だ。


「うおっ!」


その4人はまずクーを見て驚いていた。少し怯みながらも持っている剣を構えながら俺とエルフを確認している。その中の1人がこちらへ声をかけてきた。


「その女をこちらに渡してくれないか」


優しい口調で言ってはいるが、この場に現れた時点ですでに剣を抜いていた。そしてエルフは腰に袋があるぐらいで武器のようなものを持っていない。つまり目の前の男達はエルフを襲ったのだろう。

改めてエルフを見ると布一枚の為、体のラインがくっきりと出ている。胸は大きく腰は細い。足は太過ぎず細過ぎず丁度良い肉付き。手首足首から見える色白の肌から世の男性を魅了するような肉体なのは自ずと分かってしまう。

この4人組が襲うのも予想できてしまう。

咄嗟に救いの手を差しのばしてしまったわけだが、正直失敗したかな。下手に戦闘になった場合、最悪この4人組を殺すことになるかもしれない。だからと言って俺も死にたく無い。


「おい、聞いているのか」


考え事をしていたせいか、気がつけば向こうがややイラついているようだ。


「聞いてるよ。一つ確認だが、この人を渡した後はどうするつもりだ」

「決まってるだろ、売るのさ」

「売る?」

「エルフは数が少ないからな、他の奴隷よりも高く売れるぜ」


奴隷、この世界には奴隷がいるのか。改めて別世界だと言うことを思い知らされる形になった。


「俺が渡せないと言ったらどうする」

「・・・面白い冗談だ。お前この戦力差を見てそれを言えるのか?」


4人の男達の目が変わった。こいつらクーを前にしても戦うつもりだ。ドラゴン相手なら大丈夫かと思ったが甘かったか。


「もう一度聞く。その女を渡せ」

「悪いが断る。それとこいつを相手に戦えるのか?」

「はっ!そんなトカゲに羽が生えた程度、俺達の敵じゃねぇよ!」


それを合図に男達がこちらに向かおうとした。だが。


「グルオオオオオォォォ!!!」


クーが咆哮を上げた。それを目の当たりにした男達は先程まで威勢が消え失せ顔面蒼白になっていた。中には尻餅をついている者もいる。


「な、何だそいつは!」

「おい、あれはヤバイんじゃねぇか。あんなに殺気を放つ咆哮聞いたことねぇ」


あれ、もしかしてこいつらドラゴンを知らないのか。だから余裕があったし、怖じ気ついた気配も無かったのか。


「グルル・・・」

「ひっ!」


クーが男達にゆっくり近づく。近づかれる度に男達は後退る。何はともあれ形勢逆転だ。


「なぁ、渡さないとどうするんだっけ」

「い、すまなかった!頼むから殺さないでくれ」


先程まで俺達を殺す気だったのに随分と都合の良いことを言う。呆れつつもまぁこれでいいかと思う。


「ならこのエルフを諦めるか」

「ああ、勿論だ!」

「それなら今すぐにどこかへ行け」


そう言うと男達は慌てて来た道を全力で走り去って行った。彼らの気配が無くなったのをクーが確認すると、後ろで成り行きを見ていたエルフに首を向けた。


「あ、あ・・・」


ずっと男達に目を向けていて気づかなかったが、クーの咆哮はエルフにも恐怖を与えてしまったらしい。エルフの顔が青ざめている。


「グルル」

「こら、怖がらせない」

「キュー・・・」

「・・・クスッ」


コツンとクーの顔を叩きいつものクーに戻る。それを見たエルフは先程まで唸り声を上げたクーが甲高い鳴き声を上げたことに、青ざめていた表情から回復したようだ。それにやや小突かれて落ち込みかけているクーを見て笑っている。


「ごめんなさい。助けて頂き感謝します」

「いえいえ、それにしてもこんな森の中で何も装備無しはまずくないか?」

「いつもなら弓に防具を装備しているのですが、村から近くに用事があったので不要かと思いまして」

「それで襲われたと」

「はい・・・」


やや俯きがちにエルフは話した。少し落ち込んでいるようだ。


「あ、すみません。助けて頂いたのに名前を申し上げていませんでした。私はリーネと言います。ご存知かと思いますがエルフと言う種族です」

「俺は高橋涼太、リョータと気軽に呼んでくれ」

「えっ、ですが」

「堅苦しいのは嫌なんだ。話すだけでも疲れそうだから」


そんな事を言うとリーネはまたくすくす笑い始めた。そんなおかしな事を言ったかな。


「分かったわ。それじゃ私も普段通りに喋るわね。私もこんな話し方は柄じゃないの、名前も呼び捨てで良いわよ」

「あぁ、その方が話しやすい。ところでさ、俺何かおかしな事を言ったか?」

「えぇ、だって人間は畏まった話し方をすると自分が特別な存在だと思うんでしょ。それを嫌がる人は初めてよ」


この世界の価値観かもしれないが、そんな話し方だと疲れそうだ。リーネも堅苦しいのは苦手のようだし気軽に話せるのは俺としても親しみ易い。


「そうだ。助けて貰ったのだからお礼をしないと」

「うん?別に良いよ。そこまで気を使ってもらわなくても」

「・・・えっ?」


何故かリーネは表情が固まってしまっている。


「リーネ?」

「あ、えと、エルフからのお礼よ?本当にいらないの?」

「元々クーが助けたようなものだしなぁ。むしろ俺じゃなくてクーにお礼をして欲しいかな」


クーを撫でつつそんな事を口にする。と言ってもクーも何か貰っても反応が薄い気がするのだが。


「クーってこの子の事?気になったんだけどこの子は何?」

「何ってドラゴンだけど」

「・・・え?」


再びリーネの表情が固まってしまった。何なんだ一体。


「ドラゴンって本物?」

「見たこと無い?」

「無いわよ。もう絶滅したって言われているぐらい長い間見た人がいないもの」


絶滅って数がいないだけじゃないのか?

そういや先程の男達も最初恐れなかったのは初めて見たからだろうか。しかし、文献や書物ぐらいに残っていそうなものだが。


「まぁ良いわ。リョータ、ちょっと横を向いてくれない?」

「ん、こうか?」


言われるがまま横に向くと頬に柔らかいものが当たるのを感じた。それが何なのか気づくのに一歩遅れてリーネの方に振り向くと見蕩れる程の笑みでこちらを見ていた。


「ふふ、お礼よ」

「あ、あぁ」


予想外だった為何も言葉が浮かばない。頬にキスされた。途端に顔の体温が上がっていくのを感じる。


「あまり慣れない事だから少し恥ずかしいわね」

「・・・恥ずかしいのならしなければ良いのに」

「駄目よ。助けて貰ったのに恩を返さないのは私自身が許せないの!」

「なんだそれ」


リーネの顔も赤くなっているのを見て何となくだがお互いに笑ってしまった。


「私、薬草を取りに森を歩いていたんだけど、今日はあいつ等のせいでまったく出来なかったわ。明日は武器や装備を用意して再度薬草を取りに出かけるのだけど、良かったらリョータも来ない?」

「薬草か・・・出来れば薬草について教えて欲しいんだけど」

「私の知ってる範囲でなら良いわよ。でも薬草について教えて欲しい何て変わってるわね」


駄目もとで聞いてみたが教えてくれるとの事。良かった、訓練などでよく怪我をするので薬草を自作出来るように知識を知りたかった。

現状使っている薬草はトカゲの魔獣から奪い取ったものを使用しているだけ、連金術では薬を作れないのだ。万能と言うわけでも無いらしい。


「訓練しているとよく怪我をしてしまうんだ。だから最低でも手当て出来るぐらいの知識は欲しいんだ」

「なるほどね。それくらいならお安い御用よ」

「それじゃ今日のところはこれで解散だけど、良かったら送ろうか?」


今のリーネは武器が無いので帰宅するまで送り届けようかと思って言ったのだが、リーネは俺の言葉に少し考え込んでいた。


「そうね、途中までお願いするわ」

「途中?」

「えぇ、私達の村って結界が張ってあってね。私達以外は見えないようになっているの」

「だから途中までか、了解。そこまで送るよ」

「お願いね」


リーネを送るのでレムを呼び寄せた。レムが現れた途端リーネが警戒するが俺の仲間と知ると逆にレムに興味を持ち始めた。

レムについては送って行く最中に教えた。ついでにクーと出会った事も。始終驚きの表情をされ、それが面白くてついつい話してしまう。


「魔法?」

「そう、こんな風にね」


話は俺からリーネの事に変わっていた。その際に魔法の話題になっていた。

リーネが何やら呪文だろうか、それを唱えると目の前で突風が吹き出した。


「このように私達は風の魔法が得意なの」

「凄いな」


俺の表情に満足したのか、リーネはその後もいくつか魔法を見せて貰った。


「何だか子供みたいに反応するわね」

「すまん、初めて見たから興奮してしまった」

「そうなの?これぐらいなら初歩の魔法だから、魔力のある人間なら覚えていそうなものだけど」


因みに俺が別世界から来た事は言っていない。突拍子も無い話な上、信じさせる証拠も無いのだ。それなら言わない方が良いと判断した。


「まぁリョータどこか変だから知らなくてもおかしくは無いか」


その為か一部変なイメージがついてしまっているようだが。


リーネと話していてエルフと言う種族について分かった事がある。一番の特徴は寿命が長い事。長ければ1000年は超えてしまうそうだ。

外見的な成長は100年ほどで成長を終える。一応体は衰えるそうだが、7、800年ぐらいまで生きてから初めて衰え始める。

そこまで長生きをしてどうするのかと言うと、森を長年守り続ける為だそうだ。


「森を守るってどういう事だ?」

「昔、人間の手に寄って森が失われそうになったところを私達エルフが再生したと言われているのよ。その恩恵を受けて私達は長い寿命があると言われている。と言っても、私も言い伝えを聞いただけで実際のところ分からないんだけどね」


当の本人も言い伝えに聞いた程度らしい。まぁ実際その程度なのだろう。自分のルーツは何ですかと聞かれて興味を惹く者もいれば、惹かない者もいるのだから。

そのエルフだが長寿の為か出生率が悪い。何でも子供の出来やすい時期と出来にくい時期があるらしい。動物で言う発情期か何かか?

その為かエルフの数は少ない。少ない上にリーネのような美貌を持った男女が普通と言われて衝撃を隠せない。


「だから私達は奴隷として高値で売られるのよ」

「数が少なく人間から見れば美貌集団。高く売れるのは当たり前か」


呆れるしか無い。とは言え、この世界では奴隷は当たり前のようだ。だからと言って反吐が出る行為に正直許せない気持ちが強い。


「ふふ、リョータは変わってるわね」

「ん?」

「だって、そんな不機嫌な顔をしてるもの」


どうやら顔に出ていたようだ。リーネに言われるまで気づかなかった。


「でも嬉しい。そうやって怒ってくれるなんて」


笑顔で言われて俺は返す言葉を思いつかなかった。


・・・・・・

・・・・

・・


「ここで良いわよ」

「ここ?」


ここと言われた場所の周りは木々しか無い。つまりこの先に結界があるのだろう。何も見えないが。


「それじゃ明日宜しくね」

「了解。そういえば集合場所はどうしようか」

「それなら今日会った川でどう?今度は武器をしっかり持っていくから襲われる心配は無いわ」

「分かった。それじゃ明日宜しく」


リーネに挨拶をすると突然リーネが消えた。結界の内部に入ったのだろう。


「俺達も帰るか」

「キュー」

「!」


俺達も洞窟へと戻って行くのであった。

ここまでお読み頂き有難う御座います。

感想・誤字脱字受け付けております。

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