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気の身気ままに  作者: 猫の手
1章 出会い
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4.黒竜

「どうしたんだ、その傷は」


クーがいつも通り狩りに出かけて戻って来たところ全身傷だらけで帰ってきた。

クーが怪我をするところは初めて見た為、かなり驚いている。


「キュー・・・」

「動くな、手当てするからじっとしていろ!」


所々血が出ているところもある。急いで大量の布と最近覚えたばかりの薬草を手に手当てしていく。

そこへ洞窟の入り口から声が聞こえてきた。


「どこへ行くかと思えば、まさか人間がいるとはな」


声の元を確認するとクーと同じドラゴンが現れた。それも1回り大きく全身真っ黒、目だけ赤い。

そしてこのドラゴンは俺と同じように話す事が出来た。


「誰だ?」

「我か?人間に名乗る必要などなかろう」


そのドラゴンは俺に目もくれずにクーを見続けている。


「軟弱な。人間に頼るから弱いのだ」

「この傷はお前がやったのか?」

「だからどうした?」


そこでようやく俺に目を向けた。但し息を吸い込みながら。

息を吸い込むとドラゴンは大きく咆哮を上げる。あまりの大声に耳を塞ぎながら何とか耐えるが衝撃で壁まで吹き飛ばされてしまった。

それだけで全身を強く強打するが意識だけははっきりしており、ドラゴンの方を見るとクーを無理やり連れて行こうとしていた。


「さぁ、立て」


ドラゴンはクーを引き摺りながら入り口へ向かおうとしていた。


「やめろ!怪我を治してる所なんだぞ!」

「ふん」


急いで止めようとすると尻尾で吹き飛ばされてしまう。

先ほどよりも強い衝撃で岩壁に叩きつけられた。


「人間よ、止めるならば容赦はせんぞ」


心臓が一瞬止まったような感覚に襲われた。全身が痛い。苦痛から何とか目線を上げるとドラゴンがこちらを見ながら威嚇してきている。

クーを見ると弱ってるからか動く気配が無い。内心舌打ちする。圧倒的な強さと自分では何も出来ない弱さに。

それでも何とか立ち上がりクーへ近づこうと歩き出す。それを見て業を煮やしたのか、黒いドラゴンが腕を大きく振りかぶった。


「っ!!」


声に鳴らない悲鳴をあげた。あまりの痛みに自分が生きているのが不思議なくらいだ。

そしてドラゴンの腕があたる瞬間にはっきりと見てしまった。目線を変えると棒のようなものが視界に入った。

俺の腕だ。ドラゴンの爪に辺り腕がもげたのだ。


「ふんっ」


ドラゴンは俺が動かないのを見るとクーに向きを変え再度引きづり出して行く。

体が動かない。痛みと恐怖でどうしようもなくなっている。息も荒く呼吸が思ったように出来ない。このまま死んでしまうのだろうか。

意識が朦朧としている。そんな中どうしてこうなってしまったのかと思い始める。


そうだ元々いつ死んでもおかしく無い環境だったんだ。クーがいたから安全だっただけであり、クーよりも強い存在が現れればこうなるのは当たり前だったんだ。

それに気がつき恐怖で感情がおかしくなったのか笑ってしまった。そうなると何故だか恐怖が和らいで行くような気がした。

残った片腕で何とか立ち上がろうとするが扱けてしまう。それなら腕と足でクーに近づこうと体を捩る。

それドラゴンが気がついたのか、クーを引き摺るのを止め再度こちらに首を向けてきた。


「人間よ、死にたいのか?」

「死にたくは、ないかな」

「ならば何故邪魔をする」

「・・・クーは俺の家族だからだ」


すでに当たり前の事だ。クーは家族であり、家族が怪我をしているのだからそれを助けるのは俺の中では当たり前になっていた。

目の前のドラゴンはと言うと、俺の言葉に一瞬驚いた表情をした。だがすぐに元の表情に戻った。


「下らぬな」


そう言い、容赦無く腕を振り上げた。これは確実に俺を殺そうとしている無慈悲な攻撃だ。

ああ、死ぬのか。何故か当たり前のように意識し、そして目の前が真っ暗になった。


・・・・・・

・・・・

・・


何か暖かいものに包まれている。そんな気がした。先ほどから耳によく聞く声が聞こえる。

その声にゆっくりと目を覚ました。


「キュー・・・」

「・・・クー?」


目の前にクーが顔を覗かせている。俺が目を覚ました事を確認したのかクーは喜びの声を上げた。


「キュー!!!」

「クー?と言うか俺、生きている?」

「クーが治したのだ」


声のする方へ目を向けると先ほどの黒いドラゴンが居座っていた。

そのまま体を起こそうとして気がついた。失った腕が戻っていたからだ。


「これをクーが治したのか?」

「そうだ」


そこへドラゴンはゆっくりと首を下に下ろした。


「すまなかった」


先ほどまでと違い本当に申し訳ないような感じが声に現れていた。


「何がどうなってるんだ?」

「そこのクーが身を挺して、そなたを守ったのだ」

「クーが守ってくれた?」


俺にドラゴンの腕が迫った際、クーが全力で俺を庇い守ったそうだ。

その行動にドラゴンは何度も攻撃を加えるがクーはその場から一切動かなかった。その光景にドラゴンも本物と思ったそうだ。


「本物?」

「信じられなかったのだ。人間とドラゴンが共存するなど」


どういう事だろうと聞くとドラゴンは淡々と昔話を語り始めた。

元々ドラゴンと人間は共存していた。共存と言っても一緒に住んでいると言うわけでは無い。

交易や災害などの援助と言った、人間に出来る事、ドラゴンに出来る事を支援すると言う形での共生関係が成り立っていた。

ところが、ある人間達がドラゴンを恐れ、ドラゴンを狩り始めた。


ドラゴンの方も抵抗した。しかしドラゴンは単独で動くのに対し、人間は複数で協力しながら竜を追い詰めて行く。

力ではドラゴンの方が圧倒的に上だった。だが人間の知略がそれを上回った。次第にドラゴンは数を減らす。

ならばと住みかを変える。だが、人間は移住先の住みかを探し出し更に殺していった。人間の中には庇うものも居たが、そういう者達は大体殺された。


「・・・だから、ドラゴンの子供は力をつける必要があるのだ。人間に襲われても抗えるだけの力が」

「群れで抵抗したりはしなかったのか?」


ドラゴンは首を横に振った。


「我らは群れを作らぬ。群れを作るとドラゴン同士で争い始めてしまうからだ」

「そうか、狩りは今も続いてるのか?」

「ここ最近は落ち着いている。だが、それでも我らを見れば殺そうとするであろう」


何となく俺のせいでは無いが、ただ何となく。


「ごめん」


それを聞いた黒いドラゴンは、穏やかな表情で笑った。


「ふっ、すでに過ぎた事だ。そなたに謝られても意味は無い。だが、その気持ちは受け取っておこう」


ただの自己満足だ。それはドラゴンも分かっているはず。それでも僅かに救えたと思う。

ふと思い出したようにドラゴンが話す。


「そうだ、まだ名を言って無かった。我が名はダークドラゴン、昔人間に言われた名だ」

「俺は高橋涼太。リョータと気軽に言ってくれ」

「リョータか、覚えておこう」


それからダークドラゴンとクーと語り合っていった。特に分からなかった事をダークドラゴンは教えてくれた。

この洞窟内にある魔結晶について、外で蔓延っている魔獣についてといろいろだ。


「そういえば俺の腕が戻っているんだが、どうやって治したんだ?」

「それはクーの息吹だ」


何でもドラゴンの息吹には治癒効果があるらしい。かと言って全てのドラゴンが出来るわけでも無いらしい。


「特性の一つだな。クーの場合はそれが出来た」

「それならダークドラゴンも自身が使える特性があるのか」

「我か、この姿から想像出来ぬ似合わぬものだぞ?」


そう言いながら苦笑するが教えてくれなかった。何でも恥ずかしいらしい。意外な一面に笑いそうになる。


「クアァー」

「あ、そんな時間なのか」


気がつけば大分夜も深くなってきた頃のようだ。昼間と言い、今と言い、今日は中々二度と味わえない経験に俺もまだ疲れているようだ。まぁ二度と死ぬような思いはしたくないけど。


「我も久々に楽しい一時を過ごした」


そういえばこんなに話す事は無かったなと思う。クーは話せないから話せる相手が出来て、つい語り込んでしまった。


「これも何かの縁だ。昼間の侘びも兼ねて、何か礼をさせてはくれぬか」

「礼?」

「そうだな、我の加護を授けよう」


ドラゴンの加護と言われてもピンと来ない。


「単純なものであれば身体の強化などだ。人の姿が変わったりはせぬから安心するが良い」

「そんな事になったら恨むぞ・・・」


一瞬ドラゴンになれるのは良いかもと思ったが正直無いなと考えた。


「それじゃお願いしようかな、クーは?」


クーにも尋ねようとしたが、加護はドラゴン同士だと効果が無いらしい。なのでクーには別の形で力を授けるそうだ。


「それではしばし気を楽にしてくれ」

「あ、ああ」


そのままダークドラゴンと向き合っていると、体に何かが流れ込むのを感じる。

が少しずつ熱くなってくる。それと同時に何か心地良いものを感じる。これが加護なのだろう。

そのまま待ち続けると終わったのかダークドラゴンは少し溜息をついた。


「終わったぞ」

「何だか力が沸いてくる気がする」

「授かったばかりは慣れんだろうが、しばらくすると馴染むようになる」


次はクーの番だが何を与えるのかと見ているとダークドラゴンは自分の鱗を一枚剥がした。


「そなたにはこれをやろう」

「鱗?」

「ただの鱗では無いぞ」


そう言うと、鱗がクーの中へ溶け込むように消えた。


「吸収したのか?」

「そうだ、我の力その物を渡した」


クーに体の異常は無いかと聞くと、何も問題無いような素振りを見せた。


「そうだ。聞きたい事があるんだが、どうしてクーは俺に懐いているか聞いてくれないか」


ダークドラゴンは数回程クーとやり取りすると。


「クーはリョータと出会う前は親がいたようだ。だがその親はどこかへと飛び立ってしまった。そこにリョータがいるのを見つけ連れてきたそうだ」

「親が飛び立っていった?」

「ああ、どこへ行くかも告げずに去ったそうだ」


そうかと言い、クーを見上げる。クーは何故か寂しそうな表情をしていた。


「大丈夫だ。俺はどこにも行かないよ」

「キュー」


クーの首を撫でるとクーは気持ちよさそうに俺に首を摺り寄せてきた。


「ふふ面白いな、そなたら」

「そうかい」


苦笑交じりでダークドラゴンに応える。


「さて、すまぬが一晩この洞窟に休ませて貰えるか。ここは魔力が溜まって体を休めるのに丁度良い」

「ああ、良いけど。やっぱり回復しやすいのか?」

「うむ、これだけの魔結晶があればな」


そう言うと近くの岩壁に体を預け眠り始めた。

それを見て俺もクーも横になった。

ここまでお読み頂き有難う御座います。

感想・誤字脱字受け付けております。

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