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第一話 ~セカイのハジマリ~

初投稿なので、誤字・脱字、分かりにくい表現が有ります。

それらを見つけましたら、コメントください。

高校一年の初夏。


僕が彼女、“坂上雫”を見たのは教室の窓ガラスの向こう側。


一番後ろの窓側だった僕は授業に集中していない時は窓から教室の外を眺めている。


ある日、教室で何もすることのなかった僕が何気なく窓の外を見た時だった。


屋上で寂しそうな表情をした、澄み渡った歌声の主。


その声を聞いた瞬間、世界が僕と彼女だけになったような感覚に包まれた。


歌声に包まれた途端、彼女から目が離せなくなっていた。


綺麗な明るい歌声なのに、寂しそうな顔。


ロングの髪は僅かな風にも靡き、優しく揺れる。


彼女の周りだけ違う世界にいるみたいにきらきらと輝いていた。


僕は彼女に無性に触れてみたくなった。


しかし、彼女の範囲内に足を踏み入れた瞬間に壊れてしまいそうな気がした。


彼女の世界を壊したくは無いけど、話してみたい、触れてみたいと思う気持ちは収まらなかった。






そんな僕は放課後、屋上に上がってみた。


彼女がどうとかじゃなくて、なんとなく足が動いた。


屋上へ続く階段は思っていたよりも軽かった。


何があるんだろうというわくわくもあったからだ。


彼女があんなに寂しそうな顔をしていたのかも行けば何か変わるかもしれないのだ。


屋上のドアの鍵は掛かってなくて、ドアノブを捻るとかちゃりとストッパーが中に隠れる音がした。


ゆっくりと少し開けたドアの隙間から教室で聞いた歌声が聞こえた。


「今日がまた終わる、そして明日が始まる。すべての季節は巡り行く。君の面影は今はどこにもないけど、いつかまた会えるよね…。」


しっとりとして、ふわりとして、心が落ち着く。


僕は彼女の声に導かれるかのように足を前に進めた。


「あら…?」


彼女がふわりと振り返る。


僕に気がついたようだ。


「こんにちは。ココで人に会うのは初めてだわ。」


彼女の声は歌声と同じように優しいものだった。


「あ、えっ、その…。」


僕は何を言えばいいのかわからなかった。


「あなた名前は?私は坂上雫。一年生なの。」


彼女は優しい笑顔で言った。


「え、あぁ。僕は、風間槻。僕も一年生。」


短い自己紹介を済ませると、彼女はくるりと向きを変え、両手を後ろで組む。


僕は少し彼女に近づいた。


「ココは世界を見渡せるの。」


小さな声でそう呟く彼女。


僕は彼女の隣に立ち、手すりの向こうを眺めた。


日の落ちかけた街がオレンジに染まりつつある。


「綺麗…。」


こんな景色初めて見たかもしれない。


「ココは毎日違う世界を見せてくれるの。」


彼女は両手を胸元にあてた。


「だからここで毎日たくさんの世界を瞳に映しているの。人間は死ぬまでに見なければいけない世界がたくさんあると思うの。私にとって見ないといけない世界はここから見るたくさんの色に変わって行くこの街なんでしょうけど、あなたはどこの世界を見なければいけないのかしらね。」


彼女はいつも僕が教室から見るような寂しそうな顔をした。


僕は胸がぎゅうっと締め付けられるのを感じた。


「君は、何でそんな寂しそうな顔をするの?」


彼女は驚いた顔をして僕を見る。


その顔は夕日に照らされてオレンジ色に輝いている。


「私、そんな顔をしていませんわ。」


そう言い返されるとは思っていなくて僕は何て言えばいいのか分からなくなって、口を閉じる。


「何でそう思いますの?」


より彼女の顔に寂しさが溢れてくる。


「…わかんない。でも、僕は寂しいって言ってるようにしか見えないんだ。何か、歌で紛らわせてるみた

いで…。」


僕は何を言っているのだろう。


今日はじめて喋った彼女に失礼なことを言っている。


「私、そう見えますか?」


僕は黙ったまま頷いた。


「なぜでしょうね…。私、普通でいようとしているのに、簡単に感情が出てしまっているようです。あなたにはお見通しみたいですね。私は一人ですから、ここで寂しさを忘れようとしているんです。輝きながら変わっていく世界を見て、自分を立て直す気なんでしょうね。」


彼女は手すりに少し体を預けた。


「大切な人がいなくなると自分が崩れて行くみたいなんです。どうにか立て直そうとするんですけど、立て直そうとすればするほど、大切な人を思い出してしまうんですよ。だから余計に辛くなるんです。」


僕は冷静にそう語った少女の横顔を見つめる。


オレンジ色に輝いている瞳はどこか遠かった。


「僕もその気持ち分かる。僕…、両親を十歳の頃に亡くしたから。両親を思い出すと辛くなるから別のことを考えるんだけど、いつの間にか両親を思い出そうとしている自分がいる。」


彼女は僕をじっと見つめ、両手を自分の両手で包みこんだ。


「私は辛くなるから、世界に繋がる希望の唄を歌うんです。」


彼女は僕の右手を握ったまま、夕日に向かった。


「君がいてくれたから、僕はここに立っている。いつか僕が君に歌うよ。永遠の証の唄を。」


澄み渡る彼女の歌声が世界中に木霊して、もうこの世界にはいないはずの人たちにまで響いて行くようだ

った。


「永遠なんて、この世界には無いかもしれない。でも、心の中だけでも生き続けることが出来たならって。」


同じなんだ。


僕も、彼女も。


「あの、坂上…、さん。」


「雫でいいですわ。」


彼女、雫は優しく笑った。


「雫、僕も歌うよ。世界に繋がる希望の唄。」


繋いだままの手から伝わってくるのは、旋律に乗ったコトバ。


大きく吸い込んだ息。


「「広がる光の波。いつか世界中を包むだろう。僕らは歩いて行くんだ。何が待っているかわからない道の先も、二人なら恐くない。」」


すぅっと口から出た声はいつもの声とは違っているようだ。


雫と手をつないでいるだけで心がきれいになっているような感覚になる。


これが雫の力なんだろうか。


「風間くん。」


「槻でいいよ。」


雫がぎゅっと手を握る。


「槻くん、明日もここで一緒に歌ってくれませんか。」


「うん、いいよ。」


僕はゆっくりと雫の手を握り返した。


「もうそろそろ帰るね。雫は?」


「私はもう少しこの景色を見てから帰りますわ。」


そういった彼女の横顔に眼を奪われ、恥ずかしくなって視線を少し下げる。


僕は雫と手を握ったままなのを思い出しはっとして手を放した。


「ごっ!っごごごごごめん!」


オレンジ色の夕日が僕の赤面をごまかしてくれた。


「いえ、謝ることではないですわ。」


優しく笑う彼女が一瞬、近くなった。


「じゃ、じゃあね。」


僕は小さく雫の手を振った。


逆光だったが彼女が微笑んで手を振っていることが分かる。


背を向けドアを潜った。






雫と出逢って自然な暖かさに触れた気がする。


そして、何でもなかった世界が同じ顔をすることは二度とないことを知った。


知っておかないといけないことが僕には多すぎる。


雫に教えてもらったあの歌のコトバも、僕を大きくしてくれるだろうか。


と、そんなことを考えながら、僕は家に向かって歩き出した。


“坂上雫”。


彼女はこの世界の中心なのではないかと思った。

来週もこの時間投稿するので、よかったらご覧ください!

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